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[ エストニアの小説 ] 白夜(全15回)

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エストニアを代表する作家アウグス・ガイリ(1891 - 1960)の小説から、短編連作小説の第4話「白夜」を紹介します。短編連作形式で全7話。トーマス・ニペルナーティという風来坊…
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記事一覧

[エストニアの小説] 第4話 #15 実行の日(最終回)

 ヨーナは朝方になってやっと眠りについたものの、目を閉じた途端、ニペルナーティがベッドの…

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[エストニアの小説] 第4話 #14 お馬ちゃん、インダス(全15回・火金更新)

 雨が降り続いていた。空は端から端まで雲でおおわれ、昼となく夜となく、朝から晩まで雨が降…

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[エストニアの小説] 第4話 #13 アン・マリとヨーナ(全15回・火金更新)

 ダーベッ・ヨーナが町から戻ってきた。  神に感謝だ、とヨーナは思う。ニペルナーティはこ…

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[エストニアの小説] 第4話 #12 火薬筒(全15回・火金更新)

 「なんであんたはマリ・アンを家に住まわせてるんだい?」 ニペルナーティが訊いた。「自分…

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[エストニアの小説] 第4話 #11 100万クローン(全15回・火金更新)

 二人が去っていったとき、ニペルナーティは川向こうからの車の警笛を聞いた。ニペルナーティ…

[エストニアの小説] 第4話 #10 ヤイラス(全15回・火金更新)

 次の朝、まだ日がのぼる前に、アン・マリは小舟をこいで川を渡っていき、ヨーナの小屋の窓を…

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[エストニアの小説] 第4話 #9 一人語り(全15回・火金更新)

 それは夜のことだった。ニペルナーティはしばらくじっと立って、額の汗をぬぐい、考えはじめた。そして渡し舟で川を渡った。居酒屋のまわりを長いこと歩きまわり、裏のドアをあけて足を踏み入れた。  「アン・マリ」 ニペルナーティは小さな声でささやいた。盗っ人じゃないよ、わたしだ。そこで静かに眠っていて。わたしはきみを傷つけようなんて思ってない。ちょっと来ただけだ。足の裏が燃えるようで、どこにいても心を沈められないんだ。きみが片方の耳で聞いてくれるだけでいい、あとは眠ってていいから。き

[エストニアの小説] 第4話 #8 カタツムリ(全15回・火金更新)

 ニペルナーティはといえば、たくさんやることがあり、1日中、忙しそうに沼を計測したり、滝…

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[エストニアの小説] 第4話 #7 沼さらい(全15回・火金更新)

 「アン・マリか、あの子はここにはいない」 クープが唐突に言う。「居酒屋の中で、馬のそば…

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[エストニアの小説] 第4話 #6 クープ(全15回・火金更新)

 「いったいどこのどいつが一晩中騒いでいるんだ」 クープは手をかざし、指の隙間からお日様…

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[エストニアの小説] 第4話 #5 ダイナマイト(全15回・火金更新)

 「こんな話、君は嫌いかな、アン・マリ」 ニペルナーティは言う。「わかるよ。じゃあ、違う…

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[エストニアの小説] 第4話 #4 マハラジャの娘(全15回・火金更新)

 ニペルナーティは上着を脱ぐと、広げて乾かした。  太陽はさんさんと輝いていた。雲の切れ…

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[エストニアの小説] 第4話 #3 渡し守ヨーナ(全15回・火金更新) 

 ニペルナーティはアン・マリを見つめ、戸惑いながらこう尋ねた。  「だんなさんのヤイロス…

[エストニアの小説] 第4話 #2 アン・マリ(全15回・火金更新) 

 と、そのとき、ニペルナーティは森の方から走ってくる男に気づいた。ドスンドスンと重い足取りで、不器用に腕を振りながら大慌てでカーバの居酒屋めがけて走ってきた。重そうな革長靴を履いた短い足が、酔っ払いの足取りのように動いていた。男は太って背が低く、小さな頭をその肩に乗せていた。そのだいぶ後ろから、女の子がスカートの端をもって、跳ぶように追いかけてきた。  「クープ、クープ」 娘は大声で叫んでいた。「クープ、あたしを置いていかないで!」  しかしクープは振り返ることすらしなか