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チンパンジー「マツコ」の半生①

4歳から水族館のイルカショーのスターとして活躍。ショーに出られなくなると、名前を変え、日本各地の園を転々とした。来日40年を迎えた、あるチンパンジーの波乱万丈な半生を追った。

どんなチンパンジー?

名前は「マツコ」。推定1978年、アフリカ生まれ。めす。今は茨城県日立市のかみね動物園で暮らす。2012年に「リョウマ」を出産。飼育員から愛され、今は群れの仲間と動物園でゆったりとした日々を過ごしている。

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マツコ(上の写真左)と息子のリョウマ(同右)。かみね動物園のタワー型の展示施設でマツコ(下の写真中央)は仲間とのんびりと過ごす=2019年7月

誰よりも目立つ食いしん坊

マツコは自由奔放な性格で、とにかく食いしん坊だ。例えば、普段とは違う特別なごはんがもらえるイベントでは、手と脚にごはんを持てるだけ持って集める。おすのチンパンジーにもひるまない。集めたごはんは自分の周りに広げてゆっくりと食べる。誕生日会のイベントなら、その姿は主役以上にお客さんの視線を集めてしまう。

今年7月の七夕のイベントでは、チンパンジーに約1000個のカラーボールがプレゼントされた。ボールの中にはナッツやフルーツなどの好物のごはんが入っている。チンパンジーの社会では、群れの中で強いものが食べ物や遊び道具を独占できるわけではない。最初にそれらを手にするかどうかがポイントだ。

マツコを含めて7頭いるチンパンジーは全員、自分のボールを確保するのに必死だった。その中でマツコは、大量のボールが入った段ボールを3つ確保し、一人で運動場の隅へ移動。黙々とボールからごはんを取り出していた。他のチンパンジーとは距離を置き、誰も寄せ付けない雰囲気だった。

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上の写真の左はしにいるのがマツコ。他のチンパンジーと離れた場所で、黙々とボールからごはんを取り出して食べていた=2019年7月

ちなみにボールにごはんを入れてプレゼントしたのは、チンパンジーの好奇心を刺激し、時間をかけてボールからごはんを取り出してもらうため。動物園で退屈しない時間を過ごしてもらうねらいがある。

1歳の時、アフリカで捕獲された

自由気ままに暮らすけれど、群れのチンパンジーとコミュニケーションを取り、子育てにもはげむ。大好きなごはんをしっかりと食べられる。健康管理のためのトレーニングも受けている。マツコの今の生活は、もっとも穏やかな時間と言えるかもしれない。

マツコは40年前の1979年10月、推定1歳半で東京の動物商によって日本に輸入されたらしい。もともとはアフリカの大自然で暮らしていたが、人に捕獲された。現在、絶滅危惧種に指定されるチンパンジーはワシントン条約で取引が厳しく制限されているが、日本が条約を批准したのは1980年のことで、1970年代は野生のチンパンジーが日本に入るのは珍しいことではなかった。

イルカショーの人気者へ

1980年3月から静岡県内の水族館で飼育される。マツコではなく「ミミ」という名前だった。ショーに出演するための訓練を受け、1983年7月23日、4歳の時にイルカの「水中ロデオショー」を始める。地元紙の静岡新聞は「こんなことは朝メシ前」という見出しで下記のように取り上げた。

・イルカの背びれに片手でつかまり、もう一方の手を振り観客に愛嬌を振りまく
・水を怖がる性質があるも、6か月の訓練で水中ショーも何のその
・ユーモラスな姿が大人気。金曜日をのぞき、1日5回行われる
(静岡新聞1983年7月24日付)


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片手を上げてイルカの背に乗るショー

「ミミ」「スワコ」としての名も

チンパンジーのショーは各地で行われていた時代だが、水が苦手なチンパンジーによる「イルカのロデオ」は数少ない例だったのではないだろうか。やがてショーは中止になり、ミミは1992年、愛知県犬山市の「日本モンキーセンター」に移動する。 大型類人猿情報ネットワーク「GAIN」によると、名前はミミから「スワコ」になったと記録されている(当時からスワコではなくマツコとして飼育していたという情報もある)。

日本モンキーセンターによると、来園から約3か月後にチンパンジーの群れのメンバーとの顔合わせをスタートした。大きな群れとの同居を目指していたが、体をかまれてけがすることが多く、一度群れと引き離した。その後、おすの「デンスケ」(現在推定35歳)との同居に成功した。マツコは一部のメンバーとは落ち着いてコミュニケーションをとれたという。

静岡→愛知→栃木→茨城へ

その後、2002年から栃木県の動物園で6年間過ごし、2008年に4施設目となるかみね動物園に移動する。かみね動物園のチンパンジーの群れづくりを紹介している本『動物翻訳家』(集英社)によると、当時のマツコは無表情で、顔の色は真っ白。体はブヨブヨで、筋肉に張りもなかった。しばらくの時間、屋内で単独で暮らしていたことが影響したという。

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かみね動物園に来園した時のマツコ。今より全体的に白みがかっている=2008年、同園提供

野生のチンパンジーは、数十頭以上の群れで暮らす。子どものころに群れで過ごせないと、成長してチンパンジーとのコミュニケーションが難しくなる場合がある。マツコはその一人だったのかもしれない。かみね動物園での群れの合流も簡単ではなかった。

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続きはチンパンジー「マツコ」の半生②へ。かみね動物園の飼育係にマツコやチンパンジーのことを詳しく聞きます。

【チンパンジー】
ヒト科チンパンジー属。人にもっとも近いサルの一種で、知能が発達している。アフリカ西部から中央部にかけての森林にすむ。感情表現が豊かでよく声を発する。国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧IB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高い)に指定。ワシントン条約ではジャイアントパンダなどと同じく、商業目的の国際取引を禁止する「付属書Ⅰ」に掲載されている。


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