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Vol.2〜デジタル化しながら、楽しくやるPTA

取材日:2019年12月12日 
文部科学省の研究所で科学技術政策の調査研究を行う林 和弘さんは、江東区越中島小学校のPTA副会長を1年、会長を4年経験し、会長4年目には江東区の全小学校44校(2016年度時)のPTA連合会会長を兼務で1年間務めた。次年度のPTA役員を決める学級委員だった奥さんが苦労しているのを見かねて、副会長に立候補したのが始まりだ。それまで女性を中心とした活動を手伝いに行くなど、林さんの積極的な姿が周囲の目にとまり、次年度にPTA会長になった。初めはPTAに興味がなかったが、結果的に5年間もPTAを牽引してきた。5年間のPTA活動を通じて、林さんが大切にしてきたことや、具体的な取り組みを紹介する。(以下、カギ括弧の主語は林さん。)

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東京都江東区⽴越中島⼩学校第13代PTA会⻑・2016年度 江東区⼩学校
PTA連合会会⻑
林 和弘さん

とにかく楽しく、一生懸命やる

「うちの学校は550人~600人規模。PTA加入率は100%で、会費は年間4800円。PTAの会長職は、とにかく楽しくやった。」と林さんは言う。
「PTA活動を楽しむコツは、決して高圧的にならず、一生懸命やっている姿を周囲に見せること。仕事と家庭があってのPTAだから、全力を注ぐことはできないが、保護者の方々と子どもはしっかり見ている。」
PTA活動を説明する時などは、ボランティアベースであることも踏まえて自分の考えを押し付けることはせずに、ロジックか、感情に訴えるのか、傾聴しながら相手に合わせて語りかけることを注意していた。
そうすることで、周囲の協力を得ながら、楽しんで役員をすることができた。そんな姿が伝わったからか、PTAにクレームを言ってくる保護者はほとんどいなかった。また、林さんがPTA会長なった翌年からは、本部役員は全て立候補で決まったそうだ。

情報の見える化と共有

具体的な取り組みの1つとして、Google スプレッドシートを使って情報交流の効率化を進めた。Googleスプレッドシートは、インターネットを介して使用するWebアプリケーションの1つで、無料で誰でも利用することができる。林さんは、ITの得意な副会長さんの協力を得ながら各委員会がそれぞれの活動内容を共通のスプレッドシートに記入して、役員が委員会全体の活動履歴を見られるようにした。
今では、LINEやSlackなどの利用が考えられるが、2013年頃はこのくらいの汎用ツールを導入するくらいがちょうどよかったと言う。「会長1年目のときはまだガラケーの保護者も結構いらっしゃったのですが、4年目には、ほとんどの方がスマホに移行されていました。この変化の波に乗れたのも良かったかもしれません。」

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Googleスプレッドシートの活用

レガシーを尊重しつつ、デジタル化を推進


デジタル化が進めば効率が良くなることは想像できるが、普段PCを使わない人や、デジタルに慣れていない人から反対意見があった場合はどうすればいいだろうか。
「対立した時は、相手を潰すのではなく、相手の考え方を尊重しつつ、もっと便利にできますよという伝え方をするようにした。」
ペーパーレス化を推奨した際に、紙の良さを訴える副校長先と対立したことがあった。その時は、紙の良さを認めつつ、紙ではできない利便性を丁寧に伝えた。
「紙をめくるよりも、検索できたら便利でしょう。引用しているページに、ポチッと押して移れたら便利じゃないですか。Webの始まった頃は、これからは紙はいらなくなると思われたのですが、結局、市場が受け入れたのは紙の視認性を維持したPDFだった。紙には紙の良さがあって今に至っている。そのような対話に加えて実際に便利なサービスを提供することで、デジタル化を受け入れてもらった。」実は林さんは1990年代から学術研究論文の電子化と研究者への啓発に取り組んでおり、今で言うデジタルトランスフォーメーションのノウハウをPTAでも活用していたのだった。

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会長1年目のときの本部役員のみなさん

電話連絡網から効果的なメール連絡へ




同様に校長先生とコミュニケーションをとり、実現したことの1つが電話連絡網の実施的廃止だった。代替として、専用のwebツールを導入するとコストが折り合わなかったので、江東区に災害や不審者が出たときに学校からメールが届くツールに着目した。保護者は全て登録することになっているが、登録率が上がらず、また、滅多にメールは来ないので意識されづらい。これを使えないかと林さんは思った。ツールの約款を確認したところ、災害、不審者など緊急時での利用の他、”校長先生が認める場合”に使えるとあった。校長に掛け合ったところ、区にも確認してもらってうまく導入できた。
その結果、PTAはコストを全く掛けずに効率の良い連絡手段を得ることができ、PTA側でこのメールの登録率を上げる周知活動をすることで学校側もメリットを得た。(区は区でこのツールの利用実績が上がることを歓迎した。)
普通は個人情報に対する問題がある為、学校から各家庭の連絡先を聞けず、PTAで各家庭全ての個人情報を調べる必要があるが、学校が使っているツールを使うことでそのような手間もかけずに、PTAの連絡を、各家庭にメールで届けられるようになった。

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PTAの連絡に既存のツールを活用

4年目に、PTA連合会長に


越中島小学校PTA会長4年目に、江東区立小学校PTA連合会会長になった。

江東区は亀戸や門前仲町といった昔ながらの下町エリアと、有明や豊洲といった新しい臨海エリアが共存し、毎年約1万人ずつ人口が増えている特殊な区だ。
その連合会は、江東区にある小学校44校(2016年度時)のPTA会長の集まり。
年に3回会長会があり、バレーボール、ソフトボールなどのスポーツ大会の取り回しや、地域の毎年の恒例行事の管理報告などについて話し合う。他には、子育てに役立つ講演会や江東区の教育に携わる職員との情報交換会を年に1回行う。

「連合会長を引き受けた時は、会議に出れば良いだけだと思っていたが、全く違った。」
林さんは、約2万人の区の小学校保護者の代表として、1年間で80を超える区の会議に参加、あるいはイベントを取り回した。


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連合会のイベントを一元管理したスプレッドシート

越中島小学校のPTAで導入したGoogleスプレッドシートによる情報共有が、ここでも活かされた。連合会のイベントを全て1つのスプレッドシートにまとめて会長全員が見られるようにし、連合会の活動を見える化した。そして、今まで行事の度にメールや郵便でやり取りしていた出欠なども同じシートに各自記入してもらうことで、コミュニケーションコストを減らした。
「当初反対する人もいたが、便利さが一度分かれば人は戻れない。これも試行錯誤しながら無理なく進めるようにし、私の次の連合会長のときに運用が整いました。」
業務の効率化をしながら、イベントや会議の後は飲み会をして、会長同士の交流も深めた。
「今まで各地区の会長たちは、会長会が終わるとそれぞれ地元に戻ってから飲んでいたが、せっかく区として集まる機会ですから、事前に懇親会の呼びかけと出欠を取ることで、皆が一堂に集まり緩くコミュニケーションする場も作れた。」
飲み会の場では、PTA会長同士、抱えている様々な想いを話しあい、地域交流も進んだ。

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江東区の各地区から集まった飲み会
(緑色のポロシャツは連合会の公式ウェア)

行政とPTAの対話を促す


また、行政とPTAの対話を促すことも始めた。連合会として、これまでも行政が保護者に向けて一方向の施策を解説する会や、保護者が事前に協議して、改善案を行政に伝える会合があったが、なかなかうまくいかなかった。例えば、こちらが区に要望を伝えても、行政側は手続き上も含めてその場で即答することはできないので、検討します、ということくらいしか返答できず、そのうちPTA会長もそのような形骸化した会合に出なくなっていった。そこで、林さんは連合会役員、江東区教育委員会と相談して、形式張らずに行政とPTAがお互いの情報を交換しあう場を新たに作った。そこでは不登校問題や、放課後の過ごし方、学校・通学路の安全、学校の施設などのテーマについて現状ベースでお互いに話し合うことが出来た。

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行政とPTAとの対話会

PTAは必要か?



最後に、PTAは必要かどうか聞いてみた。
「PTAという名前である必要はないかもしれないが、地域と保護者と学校が子供たちのために連携する組織は間違いなく必要。そうしないと、通学路の安全一つとっても成立しない。連合会では“子育ては親育ち。“というスローガンを掲げ、さらにその先に”親が育てば地域が育ち、地域が育てば文化が育つ”と言うようにしている。やらされ感を持ったり、仕事として捉えるとモチベーションが下がる。こどものためであり、さらに自身が地域社会にも貢献するこの活動をいかに面白くやるか。人としての幅を広げる社会勉強になると思ってやるとよいかもしれない。」


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2016年度 江東区⼩学校PTA連合会のスローガン


編集後記
インタビューを通じて、林さんから「学びながらやった」「勉強になった」という言葉が多く出てきたのが印象的でした。
異なる立場一人一人との関わりを大切にしながら、デジタル技術を使い、学びながら、楽しみながらPTAを推進してきた結果、周囲からの信頼を得て、PTAを楽しく推進できたのだと感じました。
取材/文 横尾 由梨子






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