いちじく

無花果、漢字の通り花のない植物である。
通学路には野生のいちじく、いちじく畑がいくつかあった。
いつから、あれはいちじくだ!と覚えたのかは分からないが、変な形の木、変な形の葉っぱ、変なところになる実、という認識だった。

父がいつからかドライいちじくにはまり、ホールで袋に入ったものを買ってきては、ブランデーと砂糖で煮て、タッパーいっぱいに、茶色く輝くいちじく煮を作ってくれた。
パンにのせたり、ヨーグルトにのせたり、帰宅して冷蔵庫からつまんだり。もう止めにしないと、と思いながらもつい次の手が伸びてしまう。
父はお酒が一滴も飲めない人。夜遅くからスタートし、毎度ブランデーの匂いと戦いながら、あの美味しいゴールを目指して煮ていた。
今でも帰省とのタイミングが合えば、食べることができる父のつくりおきの一つだ。

生のいちじくをまるごとを食べたのは、大学生になってから。
アルバイトで参加したファーマーズマーケットで「食べて食べて!余ったら家で凍らせて食べ!」と、突然いただいたのだった。
何とも言えない控えめな甘さ。プチプチした食感。繊維の感じ。いちじくは大人の食べ物だな、と思った。

帰宅して、一つずついちじくをラップで包み、凍らせた。
風呂上がりに、かじってみる。少しずつ体温で溶けていくいちじくは、何とも言えない美味しさだった。

そういえば、札幌ではなかなかお目にかかれない。
探し回って、やっと百貨店のスーパーで見つけた!と思ったのだが、そこにいたのはモーツァルトを聴いて育ったいちじく。育ちのよさが値段に出ている。悩むこと数秒、見送ることにした。また来年。

いちじくは旬の短い果物だと私は思う。つい最近見送ったばかりなので、あの控えめな甘さまであと一年。すでに待ち遠しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?