引き算のおいしさ。仙台せり鍋。
春の摘み菜など、古来から、さまざな場面で日本人に愛されてきたせりは、
数少ない日本原産のお野菜で、『万葉集』や『日本書紀』にも登場します。
そのせりを主役にしたシンプルな鍋の美学は、いつ、どのように、宮城の地に生まれたのでしょうか?
「地元に行って、せりの根のウマさを味わえば、通になれる!」とブレイク中のせり鍋を目指し、冬の仙台を訪れる観光客の方も増えていますが、その魅力の奥深さは、まだまだ知られていないような気がします。
ということで2月24日(土)20時から、このローカルなお鍋の真髄をご紹介するメタバースイベントを開催します。↓
今回の記事は、その先取りトークです(^o^)
はぴみんのずんだ党フードサミット せり鍋編 先取りトーク①
宮城のせり栽培は、400年前から。
せりの生産量日本一の宮城県。現在の名取市にある上余田(かみようでん)村では、1620年からせりの優良株選定に取り組んでいたという記録があります。江戸時代初期から、本格的にせりの栽培が行われてきたのです。
献立も自分で考えるほどグルメだった伊達政宗の献立にも、せりが出てくるそうです。
若い頃、京都伏見に長期滞在した政宗は、都の食文化の影響でせりを好んで食べていたのではないか、また、仙台に近い名取市の上余田・下余田(しもようでん)では、水温が一定の湧水にめぐまれているので、せり栽培が盛んになったのではないかと考えられています。
(宮城県編集・発行「みやぎ・仙台 日本一!百選」34~35ページより)
「名取せり本」は、必見ですよ!
宮城県内で栽培されているせりの8割は、この名取市産ですが、仙台せりと呼ばれています。名取市の生活経済部商工観光課は、「名取せり本」というすばらしく熱量に満ちた冊子を発行しています。
この「名取せり本」は、 ↓ からダウンロードできます。
ぜひ、ご覧になって、名取のみなさんのせり愛に圧倒されてください!
有機農法でせりを作ったら、根っこが一番美味しくなった。
さて、仙台せり鍋と言えば、「三浦農園」の三浦隆弘さんという人の存在について触れずに語ることはできません。
約20年前、名取市下余田でせり農家を営む三浦さんは、有機農法で根っこが美味しくなったせりを地元で喜んでもらいたいと思い、仙台の「いな穂」という居酒屋の店主とせり鍋の提供を始めました。
(KURASHITO「名取 せり農家『三浦農園』三浦隆弘さん」より)
KURASHITOに掲載されている奥口文結さんのインタビュー記事 ↑ では、三浦さんの地域に生きる人としての力強い姿勢が丁寧に描かれています。
日々、仙台せり鍋という引き算の美学を通じて、三浦さんは、何を体現し、何を私たちに教えてくれているのか? 改めて考えてみたいと思います。
① 地元に想い入れがある人たちがいること
その筆頭として、やっぱり、地元の農家と飲食店の方々の存在は大きいですよね。食を担うこの方たちこそが、地域の人々の生活を支えています。
けれども、今の日本の状況では、どちらも生業(なりわい)としていくのはとても大変です。
2021年4月23日の朝日新聞デジタルの記事には、名取市のせり農家は、「水につかっての収穫作業などが敬遠され、(中略)55人まで減っている。味も見栄えも評価は高いのに、需要に生産が追いつかない。」とあります。
それでも三浦さんは、400年単位の時間軸の流れの中にいる自分をイメージしています。受け継いだバトンを、どう手渡していくかを考えながら、地元でコツコツといろんな人と向き合うことを積み重ねていくと言っています。
名取にとって、せりとは何か? せりを通して、自分たちの食文化をどう形作っていくのか? を考え、地元の魅力を見つけていく。
根本のところに、「どうやったらみんなをうまく巻き込み、みんなをいいところに連れていけるか」という想いを持つ三浦さん。
「今だけ、カネだけ、自分だけ」という風潮が半世紀以上も続いたせいで、貧富の格差拡大が止まらず、社会の荒廃が加速しています。
もしも、自分がお金をたくさん持っていたとしても、モノを作ってくれる人たち、様々なサービスを担ってくれる人たちが疲弊して、みんな再起不能になってしまったら。あるいは、周りに信用できないような人しかいなくなってしまうとしたら。それでも、「自分だけは大丈夫」と思えるでしょうか?
三浦さんのように、みんなで幸せになることを考える人が地元に増えていかないと、自分が住んでいる地域自体が、どんどん消滅していってしまう時代に、私たちは生きています。
② しっかりとした消費構造があること
「仙台せり鍋という取り組みは、地元の酔っ払いたちが、身銭を切って、口コミとSNSで広めていったもの。」
消費構造は、エバンジェリストによって作られていきます。コスパのいいものだけを求めている人には、新たな文化を育むことはできません。価値あるものを買い支える心意気があり、頼まれなくても勝手に広めてくれる人たちが地元にいることが重要です。
「せり鍋のお店に食べに行くゆとりはないよ」という人でも、大手資本とか東京中心の価値観に染まらないで、地元での生活実感や本音を大切にしながら身近なものを見ていると、スーパーに買い物に行っても選ぶものが違ってくるのでは。地域のみんなが普通にそうしているだけで、安定した消費構造ができてくるのだと思います。
「500円あれば、地域の未来を変えられる」って、ワクワクする考え方ですよね (^o^)
③ 関係性を深められていること
「地元の人がおいしく食べてもらうのが嬉しいなあ」と思ってせりを作ってくれている。もう、そのお気持ちだけで、こちら側も嬉しくなってしまいます。大切にしたい関係性って、そんなふうに始まるんじゃないでしょうか。
地元のお鍋でお客さんをもてなすこと自体が、「この場所いいまちだろう」と学び合い喜び合う機会になる、と三浦さんは言います。
美味しく楽しい時間を分かち合いながら、その食材を生み出した風土や文化に思いを馳せ、その素晴らしさに触れることによって、人と人との関係性、人と風土との関係性が深められていく。そうやって、お互いに生きる歓びを高めていく。そこにこそ、せり鍋の深い味わいがあるんですね。
「まずは、身の回りの面白い、おいしいものを探してほしいなあ」
そして、見つけたものを、せり鍋を囲んで語り合えたら、一緒に生きていきたいと思う仲間の輪が広がっていきますよね \(^o^)/
三浦隆弘さん流 せり鍋の作り方
材料
鮮度の良いおいしいセリ
鶏肉(肉の脂分があるとベター)
市販の鍋スープ(種類は何でもOK)
① せりの根っこの土と砂を落とす。
きれいな水を張った大きなボールの中に、立てて入れたせりの束をゆすって根から泥を落とす。
次に、流水で1本ずつ、市販の歯ブラシで根っこの外側をきれいにし、根っこの中も開いて中央部分の泥を丁寧に落とすのがポイント。
② せりを切って皿に盛り付ける。
セリをきれいに揃えて、茎と根と葉を食べやすい大きさに切り、それぞれの部位がわかりやすいように、立体的に皿に盛り付ける。
③ 具材を鍋に入れていく。
鍋に入れたスープの中に、鶏肉を最初に全部入れてしまう。鶏肉は、せりを美味しく食べるための出汁と考えるので、肉の脂をスープの中に引き出していく。
まず、根っこを入れて薄く広げ、鶏肉から出た脂を根っこに絡ませる。煮込まずに、しゃぶしゃぶ状態で食べるのがオススメ。茎と葉っぱも、それぞれ順番に入れていく。
根っこに火が通って、茎がしんなりし、葉っぱも汁を吸ってきたら、出来上がり。しゃぶしゃぶでドンドン食べる!
④ シメの雑炊を作る。
せり鍋のシメには、うどん、ラーメン、そば、もちを入れる人もいるが、
宮城県はお米がおいしい場所なのでごはんで雑炊を作る。
鍋にごはんを入れてスープを吸わせ、1人前に1つ、2つぐらいのイメージで全卵を溶いて全体に回し入れ、しゃぶしゃぶにしないで残しておいたせりを上に乗せていく。
鍋の蓋をして火が通るのを待つ。
せりの爽やかな香りとシャキシャキ感がたまりませんね!
カリウム、β-カロテン、葉酸、パテント酸など栄養価に優れたせりを食べると、冬の寒さで縮こまった心身もリフレッシュします 。(^o^)
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