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選歌 令和6年5月号

まっかな爪消して行くなり雨の中今日の会議は元職の会(松下睦子)

寒き夜にサクラの精は生れしとふ雪降る今宵しづかに待ちぬ(岩本ちずる)

程々の疲れセーター身に纏ひ朝のコンビニ午後のコンビニ(臼井良夫)

恵方から点火されたる左義長の弾ける音は山登りゆく(浦山増二)

淋しさを重ね重ねて三月の空は未だに白雪散らす(児玉南海子)

驚きているのは鹿も同じらしふいの出会いに固まっている(高田好)

白子産一番海苔のあざあざし目に食べて今朝は二度に味はふ(橋本俊明)

三歳はどんどん人に成りゆくか早くも園に好きな異性の出来(三上眞知子)

深海のさかなのように灯りつけ午前六時の師走のさんぽ(宮本照男)

少しずつ何かが歪んでいくようなコロナの後の神の敷く道(森崎理加)

懐かしき名のみ残る茶碗蒸し「プラ」の容器の宅配の品(伊関正太郎)

何にでも柚子の香添える人だった脈絡もなくふと思い出す(小笠原朝子)

風に舞う枯葉のように頼りなくわたしの意識は散らばるばかり(鎌田国寿)

鳥たちにアピールしているかのように万両の実のぎりぎりの彩(青山良子)

懐石膳進むにつれて有明の海の碧さの刻々変はる(井手彩朕子)

冷で呑む獨酒の味ふるさとの若かりし日のおふくろの味(高貝次郎)

春の草次々芽吹く路を行く萎ゆる吾が足今日は軽やか(谷脇恵子)

雪晴れの向かつ山腹上りつめあっぱれ羚羊空を見上げる(永田賢之助)

国会に緊迫つづく空気無く議員バッジ居並ぶようだ(渡辺ちとせ)

下り坂膝の動きの危ふさよたかがこれしきされどこれ程(成田ヱツ子)

映画館君の隣で見る時はいつでもペプシコーラでいたい(渡邊富紀子)

靴紐も結べぬ父と向き合う日熱き紅茶をゆっくり淹れる(建部智美)

百均の修正テープに消せるよな悔いのいくつかありてこの冬(髙橋律子)

巡りくる想いの納めきれぬ日は夜更けて録画の寅さんに会う(仲野京子)

ひそやかに心の階段降りゆくと地下室ありて轍がありぬ(福留夕音)

雪の日はこの春種まく野菜花、去年と同じと夫は譲らぬ(今野恵美子)

音楽はたのしむものと隔てなくわれらの身近に与えし人逝く(才藤榮子)

骨格の模型置かれた整骨院立派な骨は体育選手だ(清水素子)

赤信号みんで渡り裏金をせっせとつくる政治屋さんは(髙間照子)

秋来ればサフラン摘みゐし祖母思ふ指に花粉のあまたを染めて(友成節子)



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