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選歌 令和6年7月号

幾たびの桜に逢へば満つらむか吾はさびしゑ心さびしゑ

渡辺茂子


ちりちりと溶けるチーズを鉄板に泳がしてゐる春愁ひとつ

臼井良夫


香ばしいクロワッサンの朝食に形似ている雲を目で追う

児玉南海子


皿を洗ふ妖精が来てくれぬかと少女は思ひ今でも思ふ

高田香澄


浮き雲にトランポリンのぷあんぷあん捻挫の足とドジな私

髙間照子


健啖の妻へひと切れカツ分ち相もかはらぬ夕食風情

橋本俊明


ふかぶかと椅子に腰かけ息を吐く午前十時のひとりの厨

宮本照男


夕焼けをワイングラスに流し込みあった事もなかったことも

森崎理加


きっちりと畳まれ重ねて仕舞われた白いタオルにその人を見る

渡邊富紀子


円空仏笑まい笑まわれ緩む頬エンドウ豆の弾ける音す

小笠原朝子


落ち着いてアナンは語りぬ。如是我聞、いのちは甘くしきものだと

鎌田国寿


沈黙という武器ありされどこの吾に使いこなせる自信のありや

北岡礼子


春風が吹きいる庭のムスカリにもやもやが晴れ清しき朝

篠原和子


偶数で割り切れない数抜き出せる算数はじめ孫時間なり

渡辺ちとせ


美容室で細く剃られし眉問えば育てていると乙女子は言う

青山良子


散歩路に友の消息知りたくも表札おぼろとなりて諦む

井手彩朕子


イギリスの獣医は言ひぬ生真面目に猫のまなこで世界を見ると

高貝次郎


スマホには無数の写真眠りをり棚には使はれぬカメラが眠る

成田ヱツ子


目の前の人と話すもは常にスマホの画面心はいづこ

西原寿美子


カーテンを引けば「キラキラ」浮遊塵静から動の暮し始まる

伊関正太郎


反対に帽子を被り少年は光集めて農道走る

佐藤愛子


血管の諸々と浮く手を翳し過ぎ来し生業の数数を恋う

田中春代


陽の方へ向きて咲きたる花々に習いて生きよ石竹然り

松下睦子


土緩み梅もほどけて香の立ちぬメジロのようなおしゃべりしよう

建部智美


遮光とうさみしさありて新調の春のカーテンに部屋仄暗し

髙橋律子


白濁の石鹸水にて洗い捨つ心の芥転居の夜に

福留夕音


なぜかしら遠い座席という言葉口突いて出る脈絡もなく

清水素子


雨空を詫びるが如く満開のデイゴの列は島を照らせり(沖縄県花)

高橋美香子


足場より俯瞰す吾が家・庭・道路鳥の目線に気分爽快

田中昭子


泣いているね、大人も分かるわその気持ち四月初めの園児の散歩

三上眞知子





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