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選歌 令和6年6月号


長年に書きたる文字の曲がりゆく老い行くことのこれもひとつと

渡辺茂子


身の痛み忘るる瞬間サイネリア、エニシダ、マグサに水呑ますとき

青山良子


息子の死して貰へる勲章など要らぬウ・露の母らの悲しみいかに

岩本ちずる
 

九割が一人参加の女性とう  つるまぬ人との相席の旅

小笠原朝子


この青をたどりてゆけば能登の海わがふるさとに繋がる大海

児玉南海子


浮き島のごとき日本に生き継げとイタリア渡りのミモザはそよぐ

高田香澄


たわいなく笑って話しているうちに目尻に溜まる涙の苦さ

高田好


生きていることの気力を確かめて弥生の空に諸手を翳す

田中春代


年間の予定表の最後には卒業式あり  すでに寂しい

渡邊富紀子


聞いたこともない声色で君の告ぐひとへの想い溢れたコップ

伊雪佑


もう二度と逢えないことは知っている  またねと云って別れた人よ

鎌田国寿


津波怖いと夜泣きをしたる末の孫この秋受験と夢膨らます

今野恵美子


戦場の馬は如何なる声をあげ落ちてゆきしか切岸の風

佐田公子


プーチンは間接殺人者? なあるほど高野公彦の一首の重さ

高貝次郎


少年のやうな鋭き声に鳴き百舌は梅花の枝渡りゆく

友成節子


寝テレビのコロナの日々の春も良し堪能したり春場所相撲

橋本俊明


車椅子空を飛べたら中之島国立美術館モネの絵観たき

毛呂幸


夢に見る亡き子は幼き頃のまま名画の如く抱きやりたし

井手彩朕子


十万人一朝にしてほうむりし弥生十日の空爆日快晴

永田賢之助


棘の無き花に刺されることもある笑顔の奥のあなたの瞳

山口美加代


寒戻る雨夜にはなの香薫けば春の恋しく人の恋しく

髙橋律子


ランチ会よりも絆の深まりぬ父母を支える我らキョウダイ

建部智美


春疾風背中に受けて遣り過ごす見知らぬ人と寄り添いており

田村ふみ子


ふる雨はわれらをふたりならべ置きてうき世の孤悲を生みにけるかも

石谷流花


三度目の核の恐怖にさらされる日本は今年も桜満開

高橋美香子


味噌汁を一口飲んでおお美味し今日は二階の掃除をしよう

玉尾サツ子


列島の開花がニュースとなる日本  平和ボケでも大好きわが国

成田ヱツ子


春の陽にふれて身体がふんわりと軽くなってる5gぐらい

南條和子


とっときのタオル自分のために使お  たまにはいいか自分を一番

三上眞知子


この春に君が包みし紙一つ宝のように残しおきたり

森本啓一







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