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選歌 令和5年10月号

妹に誘はれて来し旅なれど始めて心開く気のする
渡辺 茂子

柿の木は身の丈ほどを育てんと地にほろほろと幼実落とす
青山 良子

この道は飛鳥へ続く一本道道租神となり吾のいる道
児玉 南海子

一生を吹かれるように生きてきて風そよぐ階にたどり着きたる
清水 素子

去年、今年、子がひまはりを数多植う退職したるよろこび故か
友成 節子

水分をとれとれと茶を注がれて老のひと日はそこにとどまる
広瀬 美智子

一年中鰻売られて絶滅の危惧とう文字が素通りをする
奥井 満由美

呟けば和文英訳してくれるスマホに感謝  これぐらいがいい
小笠原 朝子

豚丼を食べている時ふと浮かぶ、屠られ際の罪なきまなこ
鎌田 国寿

白菜は七月二十日に播けとあり芽吹き待ち居る八月近し
田口 耕生

人生は槿花一日の栄なりと悟る夕べは下書きのまま
渡辺 ちとせ

今更に宅地の境界教へくるる六十余年住みゐるわれに
斎藤 叡子

俳優を兼ねてゐたとは知らなんだ宇多田純子のこの離れ業
高貝 次郎

確か此処に仕舞ったはずの外出着尻切れトンボの記憶を探る
成田 ヱッ子

コンビナートの夜景を見つつ語る夢一見幸次の熱量知りぬ
橋本 俊明

早朝のみ網戸の風を肌に受け用事なき日は日がなエアコン
松下 睦子

生ビール芝生にならべうみの辺は夏日に向かう10秒チャージ
宮本 照男

八月に生まれ八月に逝きし亡父  天に向かう樹みな緑濃く
高橋 美香子

むらさきの彩ちりばめてアガパンサスは巷のうわさ聞耳立てる
髙間 照子

人生は卒業のない学校と子らと歩まむ  ひと筋の道
西原 寿美子

目印の自販機脇に立つひとの古希を超してもなお麗しき
建部 智美

李の実ジャムに煮ており思い出のルビーの指環の深き色まで
髙橋 律子

陽を浴びて雨に打たれて育ちゆく夏の畑は祖父母の匂い
山内 可奈子

側溝の網目を縫って伸びやかにマリーゴールドは此処に生きおり
仲野 京子

コーヒーのミルクで円を描きながら引揚船の話を聴きぬ
田村 ふみ子

熟したるナワシロイチゴあの頃は洗いもせず口に押し込んだ
玉尾 サツ子

やすらかに昼寝している顔だから起こすでないぞ呼ぶな叫ぶな
永田 賢之助

禍の無きが仕合せな日であると若かりしころ知らずに過ごし
三上 眞知子

目をこらし耳を澄ませば八十八脳は輝やき今日の始まる
森本 啓一

わたくしの居場所せばめて着ない服、読まない本、使はぬ食器
山北 悦子



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