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孫S子の幸せ

私の孫S子(5才)の話である。

S子は誰とでも仲よく遊び、大人顔負けの気配りができる子だ。特に、自分より弱い人に優しいところがS子の長所だと私は思っている。

S子は遠方に住む従姉のH子(7才)にも、会えば人懐っこい笑顔で積極的に話しかけ、遊びの提案をする。H子にとってはS子のやること全部が魅力的に映るらしく、年上のH子が年下のS子の真似をする。S子はまるで「小さなインフルエンサー」のようだ。

そんなS子の特筆すべき能力とは「表現力」にほかならない。2才のとき、「怖い顔して」と頼むと、何度でも目をつりあげてにらむ表情を作ってくれた。その顔が本当に怖かったので、この子は将来スケバンになってしまうのではないかと本気で心配したくらいだ。

感受性が強く、表現力があり、体もやわらかいS子は、ダンスもうまい。YouTubeで見たダンスの振り付けをすぐに覚えてしまうし、先日はボディビルのポージングを本物のボディビルダーさながらにやっていた。S子は見たものを真似することに長けているのだと思う。

そんなS子を見ていて思うことがある。この子は女優になったら成功するのではないだろうか、と。S子が「劇団ひまわり」に入ったら、きっと子役の役がもらえて活躍できると思うのだ。目立ちたがり屋で負けず嫌いなS子は、家の中で注目を集めがちな兄よりも自分を見てほしいと思っているはずだから、劇団への入団を勧めたら喜んで入りそうな気がする。

しかし、問題は、S子が子役として成功したとして、それで本人が幸せになれるかどうかということだ。S子は演技力があるが故に悪役で使われる可能性もある。演技派の主役としてブレイクすれば皆にチヤホヤされるだろうが、いじわるな役で成功したら、悪役ばかりを演じさせられそうだ。その結果、世間では、S子は役柄と同じ「いじわるな子」だと誤解され、学校でいじめられるかもしれない。

子役として成功しても、学校で孤立してしまったら、S子はどうなるだろう?

そう考えると、S子は劇団ひまわりに入らないほうがいいような気がする。人の幸せは有名になることではないからだ。

子役の逸材が近くにあるのにそれを放っておくのは忍びないが、いつかS子が自分から女優になりたいと言い出すまで、待ったほうがいいのだろう。そして、いつかそのときが来たら、全力で応援したいと思う。その日がくるまで、S子の成長をそっと見守るだけに留めておこう。





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