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【エッセイ】ビッグウェーブ

年上の友人から聞いた平成のはじめの頃の話です。


9月の週末、友人はヘアカットのためいつもいく美容院に行きました。その美容院は常連さんも多く予約なしでもカットしてくれたそう。

その日は大きな台風がすぎたばかりで、町内のあちらこちらで朝から清掃作業をされている人々もいらしたそうです。

美容院に入り、少しすると友人の番になって鏡台前のイスに座ると、お店のオーナーさんが申し訳なさそうに友人に

「いつもありがとうね。昨日は大きい台風だったからお店の水道が調子悪くて。今日はシャンプーはビッグウェーブになるけどいい?」

と聞いてきました。

友人は『大きな台風だったから、お店の水道や設備が調子悪くて水圧が高いのかな…?でも多少お水が強めに出て髪を洗っても問題ないし…』と思って

「大丈夫ですよ。」

と答えたので

オーナーは

「ごめんね~。ありがとうね。」

と申し訳なさそうに言って、カットをはじめたそうです。


やがてカットが終わると、オーナーが友人に

「じゃ、行きましょうか」

と言って友人の髪をタオルで巻くとイスから立つよう促しました。友人が

「え?どこに…?」

と聞くと

「ここから少し先にある『ビッグウェーブ』さんです」


実は、『ビッグウェーブ』というのは水圧の話ではなく、友人の行った美容院から数分離れた先にある別の美容院の名前で、シャンプー・トリートメントなどのすすぎはそのお店の水道をかりておこなうとのことでした(!)

友人がよく行く美容院は2階建ての建物の2階にあり、台風で水道設備が壊れてほとんどお水がでないので、その日は了解をもらったお客様はみんな、お水を使う作業は歩いて『ビッグウェーブ』に行き、終わるとまた歩いてもとの美容院へ戻る…を繰り返していたんですね笑。

友人は、オーナーさんと一緒に歩くときにはその姿が可笑しくて、我慢できずに大爆笑。勘違いした自分にも大爆笑。その日の常連さんもみんな笑っていたそうです笑。


信じらないような話ですね笑。沖縄らしいというか、平成のはじめというか、昭和のなごりというか…なんとも平和で穏やかな話です。令和の今、そういうことをしようとすると、おそらく

・水道が調子悪いなら営業するな

・客を歩かせるなんてふざけるな

などなど、クレームになりそうです。オーナーに直接言わなくても、SNSにいろいろと書かれてしまうかも…と不安にもなるかも。

でもよく考えると、すすぎ作業に水道をかしてくれた『ビッグウェーブ』のオーナーさんも協力的というか親切というか…粋な方ですね。


9月に台風が来ると友人のこの話を思い出します。

「向こう三軒両隣」という言葉を聞かなくなって久しいですが、SNSで繋がる喜びを知る分、ご近所のような適度なリアル繋がりの持ち方も覚えておきたいなと思います。



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