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【観劇】大竹しのぶ主演「女の一生」

 新橋演舞場へ大竹しのぶさん主演「女の一生」を観てきました。劇場へ足を運んで席に座るとやがて舞台の幕があいてお芝居が始まる…その光景はもしかしたら奇跡かも知れない。カーテンコールでの大竹さんを観て私はそう感じるほど貴重な時間になりました。


★物語 

 「女の一生」は森本薫氏が文学座へ書き下ろした作品で杉村春子さんの代表作でもあり、今回は大竹しのぶさんが挑むということになったんですね。物語の主人公は親をなくした「けい」。縁あって16才の頃住み込みとして堤家で働くことになり、堤家の次男の栄ニとほのかに心を寄せあっていたものの亡くなった堤家の夫に変わり家を守っていた堤家の妻のしずは、けいの人柄を見込んで人は良いものの何処か気の弱い長男の伸太郎の嫁になるよう懇願、自分を拾ってくれたしずへの恩からけいは栄ニへの思いを経ち伸太郎と結婚。それからすぐに栄ニは堤家を飛び出し、やがてけいは娘をひとり産み伸太郎に変わって堤家の商売を切り盛りする…という明治、大正、戦後の昭和までのけいの40年を描いたものでした。

 

★女たち、男たち

 16才から60代までを演じた大竹さん。声色はもちろん視線の向け方、歩く姿勢や座り方、着物の着こなしをそれぞれの年代で演じ分けておられるのは素晴らしかったです…。さらに人懐っこく何処か生意気でも素直で可愛らしかった少女のけいが、叶わなかった栄ニとの恋のことを誰にも告げず、栄ニへの未練、不甲斐ない自分への嫌悪感、出生の境遇への悔しさ、時代へのあきらめなどをすべて堤家の商売を切り盛りすることへのエネルギーに変え、強くたくましい女になってゆくまでを表面だけではなく、まるでけいの内面が客席の私たちに見えるように表現された大竹さんに本当に感服しました。

 他に母のしずを銀粉蝶さん、伸太郎に段田安則さん(段田さんは演出もされました)、栄ニに高橋克実さん、そして伸太郎と栄ニの叔父、章介に風間杜夫さんが演じられましたが、段田さんの家を切り盛りしてくれた、けいへ感謝しつつも自分へ心を許してくれない、けいに愛されていないと知る伸太郎の男のジレンマ、高橋さんの自分ではなく兄を選んだという悲しみを抱えて激動の時代を生きた栄ニの危うく懸命な男の生き方、さらに、けいの栄ニへの心の内を知りつつも黙ってけいを支えた風間さん演じた叔父・章介の寛大で(おそらく)自身もけいへ思いを抱いていた男の姿…など、演出と皆さんのお芝居に引き込まれました。客席の私たちは「女の一生」とそれを見届けた「男たちの一生」を観ていたんですね。


★ラストシーンに

 物語のラストは昭和20年、けいと栄ニが終戦後の掘建小屋の前で再会する場面でした。再会を喜んだふたり。けいはそれまでの自分の人生を振り返り、「私の人生はこれから」と栄ニに話します。栄ニはけいに「踊りましょう」と話しそれに応えようとするけい…というシーンで終わりました。その後のふたりはどうなったのでしょう。それはわかりませんが私は確かな「希望」を観ました。

 思い通りにならない人生。制限のある人生。それでも自分の人生の主役を生きぬくのならその先に「決して間違いではない私だけの人生」が待っているはず。今回の舞台でそう勇気づけられました。

 カーテンコールは最後の場面の演者だけという異例のもので、さらにソーシャルディスタンスを取るため多数の席が空けられており、いつもの新橋演舞場とは異なる少ない数のお客様でしたが、大竹さんが自身のラジオ番組で今回の舞台はお客様が少ないけれど拍手はとても大きかったと話されていたので嬉しかったです☆

 初めにも書きましたが席に座ればやがて幕があいてお芝居が始まるということが実は当たり前ではないということを、カーテンコールで泣きそうな表情を観せてくれた大竹さんにもらい泣き。今後もお芝居を拝見したいです。

 あ、それから高橋克実さん!テレビに魂を売ったと笑、会見でイジられていましたがとてもかっこよかったです☆


#舞台感想

 

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