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陶芸体験から得た「人としての器」に通じる学び

「人としての器」の研究に取り組む中で、次第に実際の器をつくることへの興味が湧き、陶芸体験に参加してみました。

そして、実際に器をつくってみると、その奥深さに気づき、普段から言語による抽象概念ばかりに触れている自分を反省しました。

今回の陶芸体験を通じて、自分の手でつくる器は唯一無二であること、そこには予期せぬ偶然が生じること、慎重さと大胆さを併せ持つ必要があること、中心軸を決して外してはいけないこと――など「人としての器」にも通じる重要な教訓を得られました。

そこで、今回の体験から得た学びを六つの観点でまとめます。


①自分がつくる器は唯一無二である

人間がつくる器に、一つとして同じ形のものは存在しないということを学びました。

器をつくる工程は大きく「作りたい形を構想する→粘土を成型する→乾燥させる→素焼きをする→釉薬をかけて色付けする→本焼きをする」に分かれます。

はじめの構想や成型の段階で自分らしさのイメージが投影されることになりますし、その後の乾燥や焼きの段階では水分が抜けて収縮するため、当初想像した通りになるとは限らないと教わりました。

完成した器には、その人らしさが投影されるとともに、偶然の条件も加わり、まさに唯一無二の出来になるということは、人としての器にも通じる学びでした。


②どのような器をつくるかを構想することの難しさ

いざ器をつくろうと思っても、「どのような器を作ろうか」という構想が非常に難しいことがわかりました。

自分の作りたい器の形は、案外、自分でもはっきりとイメージできていないのです。

だからこそ、他者の作品を見ながら、「自分もこういうふうにしたい」とインスピレーションを得ることが大切だと気づかされました。

人としての器においても、「自分はどのような人間になりたいのか?」という問いを通じて、自己認識を深めていくことが必要になります。

そして、自己認識を深めるうえでは他者の器も知り、他者にしっかりと耳を傾けて対話をしていく姿勢が大切だと学びました。


③土の個性に沿った扱い方

今回、私が触ったのは、粒度の細かい石が含まれる白土でした。

この白土は繊細で滑らかな感触があり、ろくろの上では生き物のように動き回りました。

一方、陶芸の初心者にとっては荒い土のほうが扱いやすく、また割れやひびも少なくなると教わりました。

これに対して、白土はその繊細さから歪みやすい特性を持ちますが、出来上がりの色の乗りは鮮やかで、手触りも心地よいものになります。

このことは人間の心にも通じると思いました。

繊細な人ほど、厳しい人間関係の中にいると心にひびが生じることがあります。しかし、その繊細さゆえに多くの人に共感をもたらすこともあるでしょう。

もちろん、大胆な荒い土にも個性や趣きがあり、そこに良し悪しがあるわけではありません。

それぞれの人が自身の個性を深く理解しつつも、その個性が引き立つような器を作り方をしていくことが重要であると感じました。


④軸の大切さ

電動ろくろのうえで粘土の成型を進める際に、中心軸を外さないことが大切になります。

軸が大きくぶれてしまうと、元の軸へ戻すのは困難になり、やり直すしかない状況に陥ります。

これは、人としての器においても同様だと思いました。

自身らしい価値観や信念といった「軸」を見失って、焦りからやみくもに新しい器をつくろうとすれば、本来の自己を歪めることになりかねません。

自分らしい軸とは何か、大切にしたい軸から逸れていないかを、日々、振り返りながら器の成長を進めていくことが重要と言えるでしょう。


⑤慎重さと大胆さ

電動ろくろの上で形を整える際のスタンスとして、「慎重さと大胆さ」が求められます。

ちょっとした力の入れ具合で、器の形が思いもよらない方向に変わるため、軸から外れないような慎重さが求められます。

このため初心者がいきなり大きな器をつくろうとするのは困難であり、身の丈に合った量の土を扱う必要があります。

一方で、最初の段階で形が崩れるのを恐れて慎重になりすぎると、なかなか思った通りの形に変化していきません。

そのため、器をつくるうえで、大胆に挑戦するという勇気も欠かせないと気づきました。

人としての器を作る際にも、この慎重さと大胆さのバランスを意識することが大切と言えるでしょう。


⑥偶然に降りかかる試練

成型の工程が終わり、丸みを帯びた器ができあがると、充実感とともにその美しさに感動しました。

自分の手で形づくった器が、独自の形態と輝きを放っている様子は、まさに自分らしい作品を創造したと思える瞬間でした。

しかし、その後の乾燥や焼きの工程では、思いがけず割れやヒビが入ることがあるとも聞かされました。

成型の段階でどんなに最高傑作だと思っていたとしても、その後、偶然の試練が降りかかりボツになってしまうことがあるのです。

これは人生において直面するさまざまな困難とも似ているように感じました。

順風満帆に進んでいても、突如、自分ではどうにもならない事態に見舞われるときもあります。

そのとき、そうした困難も受容しながら、その経験をさらに良い器をつくろうという糧にしていくことが大切であると学びました。


まとめ

今回の陶芸体験を通じて、構想の難しさ、慎重さと大胆さ、軸を持つことの大切さなど数多くの学びを得ました。

私たち一人ひとりが作る器には、それぞれ唯一無二の個性や魅力があります。

これから、乾燥、素焼き、本焼きを経て、仕上げに向かっていきますが、その長い道のりでは、思いがけない出来事が起こるかもしれません。

人としての器をつくるときにも、先を急ぐではなく、一つひとつの工程にじっくりと向き合いながら、自分にとっての大切な作品をつくることが重要と言えるのではないかと思います。


より詳しく「人としての器」を学びたい方は、金曜の夜は”いれものがたり”にご参加ください。

これまでの研究成果のエッセンスを紹介し、対話形式で理解を深める入門版ワークショップです。


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