⑤ハローワークを活用する

 ないないと思いながらも、少しでも琴線に引っかかったなら、どこであっても応募してみようと思った。畑違いであろうがなんであろうが、何が一生を彩るかわからない。とはいえ、早々引っ掛かるものがないから進まないのであるが、待遇面で驚くようなものがごく稀にある。求人票の記載だけを信じれば、公共交通機関が未発達で、不便極まりない我が家からでも、通勤にベストな立地に在り、ハードルもそれほど高くないように思えるものを発見!一先ず窓口へ相談に行く。対応してくれたのは若い女性の職員で、一年前、応募した際に対応してくれたのも彼女だった気がした。多くが男性のベテラン職員なので、覚えがあったのだ。
 唯一気になるのが、ハードルが低すぎることであった。職種は一般事務とあるが、その割に給料も勤務時間も恐ろしく良心的。【同一業での経験があれば尚可】とあるが、経験不問とも記載されているので、なくても応募出来ないわけではないようなのだ。
 私の不安と同じように、不信感を感じた様子の女性職員が、その一つ一つを受け止め、丁寧に確認した後、募集先に問い合わせてくれる。予想的中であった。
 先方が求める人材は、もっとハードルが高く、私のような未経験者が太刀打ちできるようなものではなかったことが判明。しかし、求人票の記載内容が不明瞭であり、誤解を招くとの理由から、その場で職員により指導が入った。
 美味し過ぎる話がそう簡単に転がっているはずがないとは思っていたものの、残念だったのには違いない。一方、親切丁寧でありながら、必要なところはしっかり押さえ、〝相手への指導〟という判断を即座に行った職員に対し、心から拍手喝采した。
 半月後、別の求人に対し、再び窓口を訪れた。遠方で、通勤に不安があるものの、待遇にも希望が持て、尚且つ職務経験が活きる職種に思えた求人だった。
 今度はベテランの男性職員が対応。2、3聞きたいことがあり、募集先への問い合わせを願い出たが、経験豊富が売りなのか、自己判断でものを言い、「こうだと思う」と問い合わせる前から疑問を解消しようとする。しかし曖昧さが否めない為、「前は問い合わせてくださったのですが…」と引き下がらずにいると、ようやく受話器を取って行動に移した。
 質問を代弁してくれているはずが、語りが不明瞭で仕方ないのが気に掛かった。こちらの意図を無視し、要約して相手方に質問する。最終的に2つになった質問のうち、1つを確認しないまま電話を切ろうとしたので慌てた。電話しておきながら質問を省かなければならないほど、億劫なのかと思ったら情けなくなった。
 疑問は完全に解消されなかったが、最終的に「応募するのかしないのか…」という決断を、電話を繋いだまま求められる。同じ求人に対し、二度も三度も窓口を訪れる気はなかったので、応募する旨伝えてもらい、後ほど紹介状を発行してもらった。
 書類選考の結果が1週間以内に届き、面接はそれからだと書かれてある。〝求職者マイページ〟を通じて、こちらの名前が公表される…というようなことを男性職員が言うのだが、まるで意味がわからず、何度か質問したもののやはりわからないままだった。〝求職者マイページ〟に対する説明はなく、どうやら募集先と応募者を繋ぐ、連絡ボードのようなものらしい…と、調べて行くうちに知った。
 書類選考結果の通知方法は、二重線が引かれていなかった【求職者マイページに連絡・郵送・Eメール】のいずれかで通知されるのだと判断した。求職者マイページを、私は開設していなかったから、郵送かメールでの通知を待つことに…。
 しかし履歴書を発送し、記載されていた1週間を越しても、書類選考の通知は届かなかった。一方で、〝求職者マイページ〟の件が気に掛かり、やはり開設が必要で、連絡が行き違っているのかと懸念する。ハローワークを介そうか迷ったが、業務に追われ、時間が取れない。応募先のHPに採用に関する問い合わせフォームがあったため、ハローワークの業務時間外にそちらから問い合わせをした。
 翌日、儀礼的な不採用メールが届く。沢山の人が同じ文言を読んだのだろうな…と思った。
 半月後、豊かさは望めなくても、平平凡凡で未来を穏やかに…と見付けた求人は、2日で消えた。地元の工場における経理事務で、自宅から徒歩10分程度。待遇は100点満点ではなく、スタートが苦しいであろうことは想像出来た。生活が安定するまで2、3年はかかるし、経理の経験もない。従業員12名のうち、女性社員が1名というのも気に掛かったが、女性社会に翻弄され続けた過去の経験から、そこは反って面白いと感じて不安にはならなかった。唯、工場で事務をしながら定年まで自分が働く姿を想像するのがとても難しかった。転職に疲れ果て、いずれは地元の小さな会社で事務でも出来れば…と漠然とは思っていたのに、それが現実になるのを想像しながら、取り敢えず週明けにハローワークへ行こうと考えていた矢先、水曜、木曜と求人を確認した後、金曜には消えたので思わず「嘘やろ?」と叫んだ。何だかマンガのようだった。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?