レンズ越しのおっさん

 「もうちょっとこっち寄って~」と言いながら彼女を引き寄せる。上手く撮れたかな、と確認したら知らない人が写りこんでた。僕らより前面に。

「は? 何これ、アプリ? だとしたらつまんないんだけど」と言われたって、僕だって面白いなんて思っちゃいない。

 心霊現象じみたことが起きてるのに、二人ともビビってないのは、周りに人が居る安心感もあったけど、あまりにハッキリ写っていて、なにより「気付いて!」って書いたTシャツを着てたのが大きい。

 「いや~よかった、昼食抜きも覚悟してたよ」

 (食事の心配してる)(やっぱり幽霊じゃないんだ)と話す。まあ、全身を写すために距離を取ってるから聞こえやしない。

 「脅かすようなことした後で悪いんだけど、この千円で何か買ってきてくれないかな?」

 「は?」

 「ああ、すまんね、朝から何も食べてないから気が急いてしまった。説明が必要だな」

 彼はとうとうと語り始めた。何度も説明してきたんだろうな、というこなれた感じがした。話が長い人だとも思った。

 レンズ越しじゃないと認識してもらえないこと、普段ならメガネを通せばOKなのに、今日は能力の調子が良く(悪く?)機械を通さないと見えないこと、そんなタイミングで冷蔵庫がカラだったこと、映えスポットなら気付いてもらえるだろうと張っていたこと。確かにスマホを外すと姿が見えない。ARみたいだ。

 「……まあ、事情は分かりましたよ。コンビニのおにぎりでいいですか?」

 「出来たら梅とツナマヨで。釣りは取っといて」と千円札を渡してくる。うわ、千円札が無から生成された感が。

 「さて、彼女さん。ごめんなさいね彼氏さんにおつかい頼ませて」「ああ、いえ……」

 「戻ってくるまでの間、退屈でしょうし、レンズの話をさせてもらおうかな」

 (学習漫画の導入みたいだな)

 【続く】



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