![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144252317/rectangle_large_type_2_d27f6d4bfacd448e8e989f959898db31.jpeg?width=1200)
暴走スル者
「エネルギーレベルが違うってもんだ。。。」
彼女の暴走に引きずられ無様にドゴッ!っと尻餅をつき尾骶骨損傷を疑いながらヨロヨロと立ち上がるサルは吐き捨てる。
闇のメス。
砂埃を巻き上げ疾走するバッファローガール。
リルは27kg。
ポウくんの50kg超えに比べればヒヨッ子かに思われた。
けれど。。。そう、あの有名なカリスマドッグトレーナーが「エネルギー」ってよく言ってたけど、そう、それだ、エネルギーが違うのだ。
闇のメス、こいつの動きは半端じゃねえ。
超高速の加速と回転。
ビュンビュンッ跳ね回っている、そう、ビュンビュンッだ。
白目を剥いて爆走しブーメランを追う。空を舞いフリスピーをキャッチする。呼べば弾丸の如きに飛んでくる。
ポウくんは、そんな動きはしないのだ。
ポウくんは、シャナリシャナリと貴婦人のごとくお歩きになる。ボールを猫パンチで襲い三振する。呼んでも、エエ〜トォ〜と牛のように頭を振りながらフラフラやってくる。
ど田舎の少なすぎる刺激の中で、他のイヌを見つけたとたん走り出したら止まらない彼女。
ぼくらはこの暴走シタガールを学校に入れることにした。
他のイヌにお熱すぎる彼女を慣れさせるためだ。
森の中に佇むイヌの幼稚園。
本日ぼくらは彼女を連れ、門を叩くってもんだ。
「はああ、もう2歳ですと『幼稚園』とはいきませんね、中学生くらいですからね〜」
先生は言う。
なるほど、「幼稚園」とはパピークラスというもので、パピーと呼ぶにふさわしい者しか入れないとな。
黒々と筋肉を際立たせた27kgの2歳のメスはお呼びじゃないのだ。
隣人が質問に答える間、ぼくは怒られるのが怖くて黙りこくっていた。
そう、以前違うトレーニングスクールに行った際、散々な目にあったからだ。
「フラット?。。。なんか混じってます?ボーダーかな?こういう犬種はなかなか落ちつけないもんですよ、この子はまだ若いですしね〜」
けれど、この優しげでいかにも「幼稚園の先生」という雰囲気の女性はニコニコと、そんなに問題はなさそうですね〜、とありがたいお言葉を下すった。
先生曰く、他のイヌの気配がする知らない場所で怖がらずに建物について入り、指示で座って待つことができている、この年でこの犬種では落ち着いている方だ、と!
先生「どのくらい待つことができますか〜?」
ブラブラうろつき出すリルを無言で座らせモジモジとぼくはいう、
ぼく「えーーーートォ、夕飯の前は、支度ができるまでハウスでステイと言って、だいたい15分くらいかなあ〜フセして待ってます、あとは、庭でステイと指示してその場を離れ、私が見えなくなっても私が戻るまで、または呼ぶまで待ってます、あ〜、他に気が散るものがない時に限りますけど。。。」
先生「すばらしい!そこまでできれば十分じゃないですか」
ぼく「そーですか!?へへ〜ありがとうございますッ!」
さっきまで陰気に黙りこくっておったぼくは急にうれしくなった。
そんなこんなでぼくはすっかり気を良くし、闇のバッファローガールは先生に「とってこーい」で散々遊んでもらいご満悦だ。
先生のドッグランは周りをどんぐり林に囲まれ、ひんやりと涼しく、少し傾斜があって投げ輪っかのおもちゃが転がり、加速し、リルは尻尾を巻き上げすっ飛んでいる。
「すごい!すごい!」と拍手喝采され、何やら得意げだ。
「自分の体もちゃんとわかって落ち着いて休憩も取ってますし、これだけ指示が入れば上出来ですよ!他のワンちゃんとの挨拶の仕方と無視の仕方はこういう子には難しいこともあるのでそこだけできるようになれば完璧ですね!まずうちの子から慣れてもらって、だんだん他の子にもなれるようにしましょう。大きい子も来るので仲良くなれるといいですね。」
しかし、やはりデカくて力が強いということで、ポウくんが使っていたような胸にリードをつけれるハーネスを勧めてくれた。止めるとき、三分の一の力で止めれるから飼い主が安全であると。
うん、ぼくも前ワッカハーネスは大好きだ。ポウくんはユリウスK9のかっこいいハーネスをしてくれたっけ。ポウくんはふだんは全然引っ張ったりしないけど、パニクったときのロデオを止めるのにこのハーネスは活躍した。
「チョークチェーンにしろ」、と言われないことが嬉しかった。
「首輪は頚椎を痛めることがあるのでハーネスでいいですよ〜」
ああ、なんてお優しい先生さまなのだろうか。
リルもすっかり先生が大好きのようだ、輪っか投げて!とおねだりしている。彼女が楽しそうなのが何よりだ。
前のスクールでは恐怖で縮み上がって顔は強ばり異様におとなしかった、その時の帰り道、シンと黙りこくったぼくら勢員がモウイキタクナイ。。。と思ったもんだ。
「イヌも人間が口角を上げてる顔が好きなんですよ!怒られてばかりだと楽しくないですからね!楽しく練習しましょう!」
と、ポジティブトレーニングの先生は言う。
アリガタヤアリガタヤ!是非ともよろしくおねがいしますだ!
帰り道、ぼくらはご機嫌だった。
リルは褒められ、ぼくらも褒められた。
ポジティブトレーニングはイヌにやる気を起こさせ、アホな飼い主もアゲアゲにするのだ。