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胃カメラはじめてものがたり

胃カメラに対するポジティブなイメージがまったくなかった。「牛になったかと思った」「自分のものではない声が出た」なんていう10年以上前に聞いたヘビーな体験談から「経鼻でもおえっとはなる」なんていう割と最近のライトな体験談まで、とにかく胃カメラは苦行。らしい。

しかし、バリウム検査もまた苦行。いわゆる絶叫系が苦手なので、ジェットコースターだのバンジージャンプだのには挑戦することなく今世をやり過ごそうと決めているのだけれども、バリウム検査ってジェットコースターでありバンジージャンプなのでは?わたしは頭が足よりも低いところに置かれる状態に異常な恐怖心を持つ傾向にある。歯医者さんでもたまに、あれ、頭低くない?落ちるかも。助けてー。と思うことがあるほどに。バリウム検査を受けるたび、命綱なしで(両肩の車止め的なものはあるけれども全身を支えるにはあまりにも心許ない)逆さまにされている時、毎回最悪の事態を覚悟していたのだ。毎回「落ちるー」だか「落ちるかもしれません」だか「もう無理です」などの声を発してしまう。手すりに必死につかまる腕もぷるぷる震えている気がするし。手の平に滲む汗で手すりもすべりそうだし。こんなのみんなやっているの?わたしが極度の運動音痴で(当然腕の筋力も弱かろう)ずっと体育が2だった(5段階評価の時代の話です)ことを差し置いても、35歳以上の健康診断の必須項目とするにはあまりにも過酷。あまりにも~過酷。

今年は初めて胃カメラに挑戦した。胃カメラで予約されていたのだ。たしかに胃カメラでいいよねと何か月か前に聞かれたような気がしたけれども、いやバリウムでお願いします、と覆すほどバリウム推しではないし、どうしても覚悟が決まらなければキャンセルすればいいかと思っていたらあれよあれよと時は過ぎてその日がやってきた。やってきてしまった。

当日持参して提出する問診票に胃カメラを口からと鼻からどちらが希望かの項目があったので、はじめてなのに鼻から希望にしていいかどうかわからなかったので(もちろんいいです)口からに〇をしておいた。

検査当日。身長・体重測定、視力検査、聴力検査、胸部レントゲン、血圧測定、採血などをテンポよく済ませて、残るは胃カメラのみ。どきどき。

呼ばれる。看護師さんに胃カメラははじめてか、問診票には口から希望になっているけれども強いこだわりがあるのでなければ鼻からの方がオススメだと言われて、それならばぜひとも鼻からで宜しくお願いいたします、となって鼻から胃カメラの準備が進む。普段から嘔吐反射は強いほうかと聞かれて「とても」と答え、歯磨きの時とかも?と聞かれて「それはないです。」と答えて思い出したのだけれども、わたしの嘔吐反射の思い出ってそういえば幼稚園だか小学生の低学年の頃かに歯医者さんで型どりをした時のものだ。いくらなんでも古すぎる。そして、歯磨きをする時におえっとなる人は「あれがないと朝が来た気がしない」というマインドで自ら歯ブラシで喉の奥の方を刺激して「おえっ」をもらいにいっているのだと思っていたけれども、そうかあれは嘔吐反射が強い人たちだったのか。歯磨きでおえっとなる人たちが嘔吐反射が強い人たちだとすれば、わたしは嘔吐反射が強くないということになる。果たして。

個室のブースのようなところで、鼻の通りをよくするという薬を両方の鼻に噴射される。鼻から胃カメラが難しい人は、この段階でかなり違和感を感じるそうだけれども、わたしはまあまあいけそうだった。もちろん多少の違和感はあるけれども。少し時間を置くそうで、その間に飲んでおいてと胃の中をきれいにするという紙コップに入ったドリンクを渡された。おいしいものではないので一気にぐっと飲んだほうがいいとのことで、指示通りぐっと飲んだ。美味しくはなかったけれども、味のことはもう完全に忘れた。

少し時間をおいて、次は鼻腔に麻酔のジェリー状のものが注入される。嘔吐反射が強いなら喉にも麻酔をできますよ、と言われて、歯磨きでおえっとならないわたしが嘔吐反射が強い人ぶっていいのかどうか迷いながらも(もちろんいいです)、喉にも麻酔をお願いいたします。で、喉にも麻酔が噴射された。鼻に突っ込んだ麻酔と喉に噴射された麻酔は別のものだったので、そのあたりはご心配なく。喉に麻酔をする場合は検査終了後30分~1時間くらいは水分を摂取できないそうなのだけれども、全然かまわない。検査の辛さが軽減されるならば、1時間程度喉がからからになろうがまったく問題ない。

そしてついに、つつつ、ついに、呼ばれる。検査中は出てくる唾液は飲み込まずに出すように、とかなんとかの説明を看護師さんから受けたものの、唾液を飲み込まずに垂れ流すことが訓練なしの一発勝負で果たしてできるだろうかと新しい不安が募る。ドクター登場。「初めてなんですね」なんて言われるので、初めての胃カメラで地獄を体験する被験者を目の当たりにしてきたドクターの戦歴に思いを馳せる。嘔吐反射が強いと思って生きてきたけれども、もしかしたらおそらくたぶん嘔吐反射が強くはない胃カメラはじめましてのわたしです、お手柔らかに宜しくお願いいたします。

いよいよ。わたしのかわいい鼻の穴にカメラが入る。事前にリサーチした情報によると、目をつぶると神経がそこに集中してしまうので、目を明けておいたほうが紛れるらしい。色々紛れるらしい。喉を通る時におえっとなるのを覚悟していたのに、なんとおえっとならずにするっと入ってしまった。モニターで画像を凝視していたら、カメラが入る際に鼻の内側が鼻毛とともに(鼻毛を主に)ドアップで映し出されたのはインパクトが大きかったけれども、その先はとてもきれいだった。「これから十二指腸のほうに入っていきますね」と言われてなんらかの覚悟がいるのかと思ったけれども、カメラはすいすいと進む、痛みも辛さもなく。十二指腸もとてもきれい、らしかった。

再度胃の中や入り口を点検してカメラは出てきた。おえっどころか、垂れ流すほどの唾液も出ていない。「上手ですね」と言われたけれども、上手とは。看護師さんは検査の間ずっと背中をさすってくださっていて、胃カメラを苦手とする人にとってこれがどれだけ支えになろうかと、嘔吐反射の強くないわたしは冷静に観察していた。5分だかか10分だか、あっという間にわたしのはじめての胃カメラ体験は終了した。

どうやらわたしは鼻から胃カメラなら全然大丈夫みたいだ。嘔吐反射がすごく強いタイプだと思って生きてきたけれども、実は嘔吐反射が強くない側だということも分かったし、とりあえず今のところは胃も十二指腸もきれいだということがわかったので、とても満足のいく健康診断だった。

胃カメラ、地獄のイメージが先行して敬遠されている方もいらっしゃると思うけれども、鼻からの胃カメラならわたしのようにおえっとならずに済む前例もあるので、ぜひ勇気を出してチャレンジしてみて頂きたい。わたしが麻酔が効きやすい体質だったのかもしれないし、実はドクターがゴッドハンドだったのかもしれない、わたしがゴリラなのかもしれないので、これはあくまで一例だけれども。話が違うじゃないか、胃カメラめちゃくちゃ地獄だったぞという体験談もそれはそれで読みたい。

な、長い!本日もご清聴ありがとうございました。

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