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何度でも読み返したいnote5

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何度でも読み返したいnoteの備忘録です。更新は終了しました(2024.6.10)。
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2020年8月の記事一覧

ショートショート「記憶屋」(読了時間3分)

 今、俺の手元には100万円もの金がある。先ほど「記憶」を売ってきたのだ。  その奇妙な店はちょっとした路地を入った所にあった。看板には「記憶売ります、買います」の文字。興味を惹かれて、俺は店の中に入ってみた。  木造独特の匂いがする店内は、一見すると古書店のようにも思える。だが、店内にはレジとして利用しているのであろう机が置いてあるだけで、商品は見当たらない。  不思議に思いながら店内を見回していると、やがて奥から店主らしき若い男が出てきた。 「いらっしゃいませ」 「変

キッチンの奥にしまったのは、やさしい思い出と未来への願い。

私は育児しながら、自分の子供時代をなぞっているのかもしれない。 実家のキッチンには、海外の食器とグラスが並んでいる。 誕生日やクリスマスなど、ちょっとしたハレの日に使うものだ。 食器集めが趣味だった母は、父が出張に行くと必ず「食器やグラス」をお土産に頼んでいたらしい。 幼いころから何となく視界に入っていたそのちょっと高そうなグラスを、初めて使ったのは12歳の時。 寒い時期だったと思う。 そのころ母は家事を一手に担っていた上に仕事が忙しく、反抗的な娘を2人も抱えていた。