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【森と音楽のひろば】森から生まれた“音”にふれよう「グランドピアノのしくみを知ろう」〜今日からきみもピアノ博士〜

2023年6月24日(土)、今年度から新たに始まった【森と音楽のひろば】で、初めてのピアノ企画「グランドピアノのしくみを知ろう〜今日からきみもピアノ博士〜」を開催しました。

【森と音楽のひろば】は、良質な音楽と楽器に触れる体験を通じて「自然(木)が、人間の知恵によって芸術(楽器)に生まれ変わる」瞬間を感じてもらう、新しいかたちの木育授業です。

林業センターにグランドピアノがやってきた!

授業開催の前日23日(金)、飯能市林業センターの入り口には見慣れない1台の大きなトラックが──。

トラックの側面に描かれているイラスト、あれってもしかして…?
なにやら大きなに荷物が運び込まれました
男の人3人がかりでとっても重そう!

屈強な男性3人がかりで運び込んでいるこの大きな荷物はなんでしょう…?

梱包が解かれて中が見えてきました…むむ!?
この姿ならもうお分かりですね!

こ、これは…!

そう!なんと「グランドピアノ」です!
この日、飯能市林業センターに初めてグランドピアノがやってきました!

林業センターのホールが一気に華やかな雰囲気になりました!

300年の歴史を持ち、「楽器の王様」と呼ばれるグランドピアノ。ヴァイオリンなどの弦楽器と同様、ピアノも木からできている楽器です。飯能の名産・西川材によってつくられた木の香りたっぷりの空間に、素敵な仲間が加わりました。

このグランドピアノを使って、いったいどんな授業が行われるのでしょうか…!?

グランドピアノの音を聴いてみよう!

そして、授業当日。今回は、7組17人の親子のみなさんがあそび気に来てくれました!

今日の先生は、調律師の西川昌孝さん(有限会社 西川ピアノ調律所代表取締役)、そして私・中ノ森めぐみ(ピアニスト)です。

西川昌孝さん(左)と筆者・中ノ森(右)

みなさんは「調律師」という職業をご存じですか?

ピアノは、鍵盤に連動するハンマーが内部に張られた弦を叩くことで音が出る楽器です。
ピアノのふた(天板)を開けると、中には整然と太い弦が張られています。基本的にはいつも同じ音が出るのですが、時間の経過や湿度などの気候条件によって弦の状態は少しずつ変わり、それに伴って音色も変化してしまいます。
調律師は、そんなピアノの音を正しい音に直したり、音色を調整したり、時には修理・修復も行って、ピアノを最適な状態に保つお仕事をしています。西川先生はさらに自らピアノ製作も手がけられ、ピアノを隅から隅まで知り尽くした、まさに「ピアノ博士」の名にふさわしいピアノの専門家です。

授業ではまず、子どもたちにピアノの周りへ集まってもらって、私が1曲演奏しました。弾いたのは子どもたちにも耳馴染みのある、ショパン作曲「子犬のワルツ」です。

好きなところ、好きな体勢で演奏を聴いてもらいます

子どもたちは、コンサートのように静かに座って聴くのではなく、めいめい好きな場所に立ったり座ったりしてもらいました。いろんな角度からピアノの中を覗いたり、背の届かない子は丸太に乗って、あるいはピアノの下に潜り込んで、ピアノから音が出る際の様子を観察します。

ピアノの近くで聞くと音の迫力が違うね!
ピアノの下にもぐってみたお友だちも。聞こえ方はどうだった?

演奏中も、もちろんおしゃべり自由です。
「あ、あそこが動いてる!」
「ここ、金色だよ!」
ピアノと同じようにコロコロと弾む子どもたちの声がここかしこから飛んできて、演奏している私もワクワクしました。

音が鳴るのはどこかな?

演奏が終わると、ピアノ博士・西川先生が子どもたちに問いかけます。
「いまの演奏、音はどこから鳴っていたかな?」
そう言って、おもむろに先生が取り出したのは、なんと聴診器!
「さぁ、音が鳴る場所を探してみよう!」
子どもたちには一人ひとり、順番に「音が鳴っている」と思った場所に聴診器を当ててもらいました。その都度、鍵盤を押して音を出します。

音が出ていると思うところに聴診器を当ててみよう!

ピアノの中の弦に聴診器を当てた子。
ポーン。「…聞こえた!」
次に、ピアノの外枠(フレーム)に当てた子。
ポーン。「…聞こえた!」
その次、ピアノの底面(響板)に当てた子。
ポーン。「…聞こえた!」

あれ、全員聞こえましたね?
親御さんたちも不思議そうな顔をしています。
西川先生が教えてくれました。
「みんな音が聞こえたね。その通り!実は、ピアノはすべての部品が鳴っているんだよ!」
これには大人も子どもも「へー!」と驚きの声があがります。

弦やフレーム・響板だけでなく、ピアノの脚も、脚の下のキャスターまでもが鳴っているということを知った子どもたちから、面白い質問が出ました。「じゃあ、床も鳴ってるの?」
床にも聴診器を当ててみました。
ポーン。「…聞こえた!」

ピアノの音は、床にもしっかり伝わっていました。
ピアノ全体で音を共鳴させ、その音が周囲の床や壁、空気へも伝播することで、私たちはピアノの豊かな音色を楽しむことができるんですね。

音を触ったことはありますか?

さらに西川先生は子どもたちに尋ねます。
「音を触ったことはありますか? 捕まえたことは?」
できるわけない、と思いますよね。
そこで、今度は子どもたちにビニール手袋をはめてもらい、再びピアノの周りに集まってもらいました。そして、1人ずつそっと弦の上に指を置きます(ピアノの弦は直接手で触ると手の油がついてしまい、楽器が痛む原因になるので注意してくださいね)。

ピアノの中の弦に触ってみましょう!
弦にそっとタッチ。この状態で鍵盤をたたいてみると…?

西川先生が「ポーン」と鍵盤をたたくと、子どもたちは、「わ!」と思わず手を離しました。
ピアノの柔らかな音からは想像がつかないくらい、鍵盤の先に繋がる弦は、とても強く振動していたのです。
「ビリビリする!」「震えた!」と目を丸くする子どもたち。

この体験は、親御さんたちにも試してもらいました。
「音が鳴るとき、弦はこんなに振動しているんだね」
と、親御さんたちもびっくりされていました。

ビリビリ伝わる音の振動に親御さんたちもびっくり!

ピアノの音は「見える」!?

「音には触ることができたね。では、音を見たことある人はいるかな?」
子どもたちは、しばらく考え込み、「うーん、見たことない…」と答えます。
すると西川先生、「それじゃあ、見てみよう!」と、大量のピンポン玉がピアノの中に投げ込みました!
いったい何が起こるんでしょうか?

ピンポン玉を使ってピアノの音を「見て」みよう

西川先生が鍵盤を押すと、ピンポン玉がピョン!と勢い良く跳ね上がりました!
これも全員チャレンジしてみよう、ということで、3人ずつ順番にピアノの鍵盤を押していきます。
押した鍵盤の先の弦の真上にちょうどピンポン玉が乗っていると、球は勢いよく跳ね上がりました。弦の場所が合っていても、ちょっとしたズレで少ししか飛ばないときもあります。ちなみに、良い音で演奏したときほど、球は高く綺麗に跳ね上がるそうです。

ピンポン玉が跳ねるのが楽しい!どの鍵盤を押したらうまく跳ねるかな

グランドピアノを「解体」しちゃおう!

ピアノの音の出るしくみが分かってきたところで、西川先生がピアノの底面のネジを外し始めました!

え、ここって外れるの?子どもたちも興味津々です

ピアノの鍵盤を押すとハンマーが弦を打つ一連のしくみを、「アクション」と呼びます。
鍵盤の両端には拍子木(「火の用心!」の時に使うアレ)が嵌め込まれているのですが、これを取ると、なんと「アクション」をまるごと取り出すことができるんです!(一般の方はマネしないでね)

鍵盤が外されました!
ピアノってこんなふうに“分解”できるんです
「アクション」について説明する西川先生

外枠と「アクション」に分解されたピアノを見て、みなさんびっくり。いつも見ているピアノとは全然違う姿になりました。

すると、ここで西川先生から私に指令!
「鍵盤のないピアノで、カエルの歌を弾いてみてください」
と、笑顔でハンマーを渡されました…。

いいえ、私はプロのピアニスト!こんな無茶ぶりされたって、しっかり弾いてみせるわ!
ハンマーを握りしめ、弦を上から直接叩きました。その結果……

ハンマーを握って、「か、え、る、の…あれ!?」

4つ目の音で間違えて、即終了!(恥ずかしい~)

ふだん押している鍵盤と弦の並びは同じなはずなのに、鍵盤がなくなるだけでなかなか思い通りの音を出すこともできないことを、私自身も身をもって知ることができました。

ピアノの表現力は無限大

ピアノと同じ木でできた楽器であるヴァイオリンは、弓で弦を擦って音を出し、指で直接弦を押さえて音程を変えるため、正確な音を出すこと自体が難しいと言われます。
一方、ピアノは、鍵盤を押すだけで正しい音を出すことができます。それは、ピアノが内部にこれだけ複雑な構造を持っているからこそなせる技なのです。

誰でも簡単に音を出すことができるピアノ。
しかし、複雑なマシンであるがゆえに、ちょっとした弾き方の違いで音の厚みも響き方も全く違うものになりますし、逆に表現力を無限に引き出すこともできます。

子どもたちには、少し難しいお話だったでしょうか。
でも、真剣に先生のお話を聞いてくれる姿は、もう立派な「ピアノ博士」でした。

最後に、もう一度演奏を聴いてみよう

「ピアノの鍵盤は、ぜんぶで88あります。では、白い鍵盤はいくつで、黒い鍵盤はいくつでしょう?はい、めぐみ先生!」

西川先生の質問に答えられなかった私…(本日2度目の、恥ずかしい~!)

名誉挽回?とばかりに、ショパンがほぼ黒い鍵盤だけを使って作曲したエチュード「黒鍵」を演奏しました。
今回も最初の「子犬のワルツ」の演奏と同様、お子さんたち、そして今回は大人の方も、好きな場所で聴いてもらいました。ピアノのことをたくさん知ってから聞く演奏は、また違う印象になったかもしれません。

最後はたくさんの拍手をいただき、授業は無事終了しました。

みんなピアノの下にもぐりこんでいます

終了後、西川先生から子どもたちへ、ピアノのハンマーをかたどったキーホルダーのお土産がプレゼントされました。
ハンマーには数字が記されています。それは鍵盤の番号で、下から数えて何番目の音かということを表しています。みんなとても気に入ってくれたようです。

今回は初めて開催する授業で、参加者のみなさんがどんな反応をされるかドキドキしていましたが、お子さんたちは好奇心旺盛で集中力も高く、お話をよく聞いて実験も真剣に取り組んでくれたので、大成功で終えることができました。
ピアノという楽器を隅々まで知ることで、ピアノに対する関心や愛着も高まったのではないかなと思います。親御さんの反応もよく、大人の方にも楽しんでいただけたのはよかったです。

一応これで解散…となったのですが、西川先生には「ピアノの木の種類は?」「ピアノの長さはどこを測っているのですか?」など、追加の質問がたくさん寄せられました。
私にもピアノの音の出し方について質問をいただいて、熱気冷めやらぬ「放課後」が幕を開けたのでした…!?

ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!

「森と音楽のひろば」では、これからも音楽と木育による楽しい授業を開催していきます。
次回は7月22日(土)の「idobata音楽会 子どものための公開リハーサル~はじめてのクラシック音楽~」、お子さん連れではふだんなかなか聞きに行けないクラシック演奏を、ご家族みんなで気軽に楽しんでいただける機会となっています。
次回のご参加もお待ちしています!

【森と音楽のひろば】
「idobata音楽会 子どものための公開リハーサル~はじめてのクラシック音楽~」

日時 : 2023年7月22日(土)14:00〜15:00
会場 : おやこのキャンパス(飯能市林業センター)
対象 : 先着10組。4歳以上の親子(未就学児の入場可)
     (親子でお申込みください。お子様のみの参加はできません)
費用 : 大人・子どもとも1人につき500円

「おやこのキャンパス」ホームページも見てね!

(レポート:中ノ森 めぐみ)

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