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黙ってたって過ぎてゆく - 2020.11.8

好きな星野源の曲に「歩く歩く街を征服」という歌詞がある。昔からこの手の「この街は僕のもの」的な歌詞や言葉がすごく好きだ。LINEのプロフィール画像は「TOKYO IS YOURS」と描かれたグラフィティだし、毛皮のマリーズで一番好きなのは「ティン・パン・アレイ」の始まりだ。その場所に居場所が認められている感覚。街を見下ろし、あるいは練り歩き、そこに存在する主体としての自分。街に内包された自分ではなく、僕が自ら街にいるその手触り。それを初めて自覚したのは、先述のグラフィティを見付けた時だった。その瞬間、確かに東京は僕のものだったし、そして同時にあなたのものでもあった。

都市の手触りは、そこかしこに転がっている。団地の灯り、銭湯の煙突、路地裏のごちゃごちゃの配管、自転車で走りながら会話する男子高校生達、ラーメン屋の休憩時間、日曜の始発のカオス感、下北沢「珉亭」 などなど。それらに触れた時、僕は確かに都市に存在していて、僕の中に都市が生まれる。あまり抽象度の高い話をしても仕方がないので軽く説明しておくと、そこに感じた魅力って多分、自分だけのものなのだよな。その蓄積は僕らの心に都市を作り上げる。僕には僕だけの東京があって、僕の目で見るこの街はきっと他人から見た東京とは少し違う。僕は日々そういう瞬間を心に貯めて、僕だけの東京を作り上げていくのだ。

この週末は久々にまとまった時間が取れたので、あてもなく街をブラついてみた。展示を観に行き、疲れたら喫茶店に入り、何か欲しいものはないかとデパートを徘徊する。コロナで引きこもりがちだった上に今は土日も大体仕事をしているので、長らくそういう気ままな散策からは気持ちが遠のいていたのだが、あれはやはり良いな。ずっと同じ場所にいるのもまた良いことだけれども、普段見ないものに視点を当てることは僕にとってはすごく大事なことで、本や音楽でする追体験もいいけど、やはりフィールドワークは楽しい。

銀座の交差点で、やたらと自撮りをしているカップルがいた。最初は訝しげに眺めていたのだが、よくよく見ると彼らはその手にハリー・ウィンストンの紙袋を携えている。途端に自分の想像力の乏しさを恥じた。二人の思い出を好きなだけ残せばいい。その瞬間だけは多少の迷惑だって許される。少なくとも僕の街では、そう決まっている。

あなたのおかげで生活苦から抜け出せそうです