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黙ってたって過ぎてゆく - 2020.11.11

自分の顔にぴったりと合う眼鏡をかけた瞬間には、バチーン!という音が聞こえる。それはもう奇跡みたいな出会いで、僕はその眼鏡が九万四千円もしなければすぐに連れ帰っていたと思う。僕と眼鏡とを隔てるのはお金だけで、けれども資本主義のぶ厚い壁に対して僕はあまりにも無力だった。こんなことなら出会いたくなかった。僕らはさながら、令和のロミオとジュリエットと言ったところだろうか。迷う理由が値段なら買え、買う理由が値段ならやめておけとはよく言ったものだが、僕にはそんなお金はないし、ファミリーセールに行くと余計な物を買い、安い居酒屋では必ずご飯を頼みすぎる。

先日銀座をブラついた目的の一つに、佃眞吾という作家の個展があった。よく行く店の常連さんにすごく趣味の合う方がいて、きっと僕も好きだろうと紹介してくれたのだ。木工作家である佃氏が作った器や箱やお盆は、木目も質感も雰囲気もとにかく抜群に素晴らしい。一つとして同じ木目は存在せず、いずれも一点もののお盆はやはり僕の物欲を大いに刺激したものだ。そうして、あわよくばお迎えしようと息巻いて行った個展で、またしても資本主義の分厚い壁に阻まれた。

お盆は、お茶の仕事をする僕にとっては仕事道具と呼んでも遜色なく、必要を超えて必須と言っても過言ではない。そんなお盆だが、数万円のお盆は僕にはまだ早い。これは言い訳だが、数万円のお盆を使えるほどには、僕はまだ何も成していない。いやこれも言い訳だ。今の僕生活に余裕はないし、今の経済状況でこのお盆を買うとキャッシュフローが終わる。迷う理由が値段なら買えだ?なら買う金を寄越せ!と思ったが僕よ、まずは働け。

あなたのおかげで生活苦から抜け出せそうです