見出し画像

AYA世代の癌のお金の話

こんにちは。36歳の独身女性肺癌患者です。今日は癌治療に関わるお金の話をします。これは私個人の話でもあり、若くして癌にかかった人みんなに関わる話でもあります。主旨としては、癌治療の費用が高いので、AYA世代の癌治療の経済的支援がもっと手厚かったら生きる勇気がわくのにな、というものです。それではLet's go.

先週、診察に行ってきました。今年1月から始まった分子標的薬「タグリッソ」による治療はこれ以上ないほど奏功しており、経過は順調です。私は診察を隔月にしてもらっています。例えば、3月の最初と最後に受診して、次の受診は4月をとばして5月の初旬にする、といった具合です。これは、治療費、特にお薬代の節約のためです。高額療養費制度を使って、1ヶ月以上分のお薬を処方して貰えば、制度の上限分までの支払いで済み、病院にかからなかった月には支払いが発生しないのです。状況は各個人で違うので、この方法はみんなが使えるわけではありませんが、医療費負担に苦しんでいる人はお医者さんと相談して活用されることをおすすめします。

さて、この方法で多少の節約が叶ったわけですが、依然として癌の治療費は高額です。特に、癌の薬は高いのです。例えば、私が使っているタグリッソ40mgは1日分1錠の薬価が9,670円です。私は標準80mgの半量で処方されているのですが、80mgの薬価は当然倍の1錠18540.2円です。以前、薬を飲む時に誤って錠剤をゴミ箱に落としてしまったことがあるのですが、まあ必死になって探しましたよね……。

今月は月末にももう一度受診があるので、先週処方されたのは23錠だったのですが、今領収証を見ると3割負担の場合の請求金額は224,230円でした。それが高額療養費制度のおかげで自己負担分は定額57,600円になっています。今月末にもう一度受診し6月に受診しなくてもいいように1ヶ月分以上の処方をしてもらう際は、もう上限に達しているので今月は追加の薬代は発生しません。

それとは別に、外来分、つまり診察そのものや採血・レントゲンといった検査の費用も請求されますが、これは後日役所に行って申し立てれば還ってきます。ちなみに先週の外来分の請求は4,670円でした。今月末の受診ではCTも撮るのでもっと高額になる予定です。還ってくるお金とはいえ、それが還ってくるのは数ヶ月先です。窓口では支払いをしなくてはなりません。

いくら高額療養費制度で非常に多額の医療費をカバーして貰っており、さらに今は隔月受診という工夫で支払いを節約できているとはいえ、57,600円はそれでも高額です。一度のことならともかく、癌は継続的な治療が必要となります。高額な医療費の支払いが治療を受けている限り将来的に毎月発生する(厳密に言うと、高額療養費制度には「多数回該当」という仕組みがあり、過去12か月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から上限額がいくらか下がります。)見通しというのは、絶望を誘うものです。生きるために無条件で毎月余分のお金がかかるの、アンフェアじゃないですか?

幸いなことに、私にはいくらか貯金があります。この貯金がなければどうなっていただろうと、いつも思うのです。20代、30代の若い世代の癌患者の中には、罹患前からあまり蓄えもなく毎月ギリギリでやりくりしていた人も少なくないでしょう。治療費が出せないから治療を諦めるなどというケースがあってもおかしくないと思います。今はまだ治療費が支払えている私だって、持病があって常に満足に収入が得られるわけではないので貯金は目減りしていきます。いつまで払えばいいのか分からない医療費のことを考えると、私はいつも「長生きしたくない」という気持ちになります。ステージIVなので完治する可能性は限りなく低いですが、「治ったらどうしよう」という皮肉な恐怖心もあります。貯金がなくなり、30代後半に得られるはずだったキャリアの発展の機会も逃した後、老後の金銭的な不安と再発の恐怖を抱きながら生きていくのは苦しいだろうなと想像するのです。

癌は本来高齢者に多発する病気です。30代では乳癌など一部の癌がちらほら見られるようになるけれど、30代の肺癌は非常に珍しいと医師の友人から聞きました。AYA世代と呼ばれる15歳から39歳までの年齢層の癌の発症率は、全体の2%ほどだそうです。お金を持っておらず人数も少ないAYA世代の癌患者への経済的支援は、もっとあってもいいのではないでしょうか。高額な医療費が、私の闘病への意欲を挫いています。癌になったのは私が何か悪いことをしたからではないのに、罰されているような気持ちです。

これは甘えなのでしょうか。確かに癌以外の難病でも毎月高額の医療費がかかるケースはいくらでもあるでしょう。全ての高額治療費を支援する余裕はないという見方もあります。高齢者の癌患者への医療費支援がどの程度充実しているのか私は不勉強でよく知りません。高齢者の医療費負担が3割ではなく1割であることも、癌の治療費の前ではあまり意味をなさないでしょう。高齢者だって治療費に苦しんでいるかもしれません。でも、病気になるまでに資産を形成する機会が乏しかったAYA世代の癌や難病は、やはり高齢者の癌とは異なる困難をもたらすのは事実だと思います。

私はいつまで生きるのでしょうか。今は治療が奏功していて、時々治っちゃうんじゃないかと思うことすらあります。でも、将来の見通しは極めて立てにくい。そのことにものすごく苦しんでいます。私の戦略は、癌が増悪して働けなくなってお金もなくなったら生活保護制度を利用することです。生活保護だったら医療費の心配はしなくて済みますからね。(現在生活保護制度利用者の医療費負担についての議論もあるようですが)そしてホスピスに入って全ての心配から解放され、苦痛が著しい場合はモルヒネをガンガン打って貰って薬で眠らせてもらうのです。

今この時点で私が人生に前向きになれない理由はお金のことだけではありませんが、お金のことが解決したらどれだけ気持ちが楽になるでしょう。AYA世代の癌特有の困難は色々言われているものの、私にとってはその中でも経済面の負担が大きなイシューのように思われます。本当に、他の人はどうしているのでしょうね。実はAYA世代の癌患者グループに入ったのです。しかしまだ活動できていません。お金のことも含めて、他の人の経験を聞いてみたいものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?