辻村深月本レビュー「噛み合わない会話と、ある過去について」
辻村深月の本はこれが2冊目だ。1冊目は「傲慢と善良」。この本を読み、どうしてここまで人の内面を露わにできる言葉が書けるのだろうと感銘を受けた。そして次に選んだのがこの「嚙み合わない会話と、ある過去について」だ。
人は皆、心の中に幽霊を抱えている
一見怪談話、SF系なのかと思えるこの解説文。全く異なります。
誰かに理解してほしい、でも理解されない。
こうしたかったのにできなかった。
かつて、誰かとの間に噛み合わない会話があった。
自分の想いとは裏腹に、噛み合わない過去があった。
ここで生じるのが、上記の解説文中の「幽霊」です。私が抱えている幽霊も想像しました。それでいうと、いろんな幽霊を抱えているなあと。
私の抱える「幽霊」
今作は、4つの短編集であった。特に私の幽霊と近そうな2作について書きたい。
①ナベちゃんのヨメ
女子との方が仲が良く、誰にでも「いい人」であったナベちゃんが結婚する。が、婚約者を優先しすぎ、傍から見るとそれは共依存の何物でもない。かつての友人を傷つけ、離れられ、「孤独」になってしまう。
女子たちは「それでいいのかな」というが、1人の女子が、「ナベちゃんは今幸せなんだと思う。私ら、いい人だと思ってたけど、誰もナベちゃんをたった1人の男としては必要としなかった。ナベちゃんには、ナベちゃんだけを必要としてくれる人ができたんだよ」と言った。
ナベちゃんには、利用されるだけ利用され、どれだけ恋人がほしいと思っても叶わなかった「噛み合わない過去」があった。
誰でもいいから、誰かに自分だけを必要としてほしい、その人だけいればいいと思える存在が欲しいと思ったことはないだろうか。
私にはある。学生時代ほとんど恋人がいたことがない。高校・大学と上がっていけば、自然と恋人ができるものだと思っていたし、周りも何となくそういう雰囲気がある。だから余計焦るし寂しいし、「噛み合わなかった過去」が積もっていく。
②ママ・はは
’真面目教’の母親の「こうすべき」に縛られてきたスミちゃんの話。
「親は親、子は子」と絶対的な立場の下で育てられると、子が大人になり対等な立場になったときにあっさり捨てられるのだそうだ。
そう、虐待されたわけではない、だけど、理解してもらえなかった思いや、通じなかった会話がある。対話することを諦め、それが幽霊となって彷徨っているのだ。
親は絶対的で、感謝せねばならない、この固定概念で余計戸惑い、親に感謝も出来ない自分は悪い子だと自分自身を責めてしまう。
いつか成仏させたい
ナベちゃんの場合、たった1人自分を必要としてくれる人の存在が幽霊を成仏させてくれた。スミちゃんの場合、親から離れ自立したことで成仏させられた。
心の中に抱える様々な幽霊。幽霊を抱えて生きる人は、過去に捉われている人だと思う。今を精一杯生きて、いつか私の中にある幽霊たちを成仏させたい。
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