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見えないものをどう伝えるか。

【2023.2 記事の下に追記あり】

12月に入ってから、「昼だけプロテイン」ダイエットを1週間体験した。
たった1週間なので痩せてはいないと思うけど、間食をほとんどしなくなり、今年の夏以降毎晩のように飲んでいたビールも控えめになった(ただ単に寒くなったからかもしれない)。
自分を律する気持ちが生まれ、生活リズムが少し整うのは、いいものだ。

プロテイン粉末は、これまで私の人生に縁のなかったものだけれど、「おみくじ制作」の仕事をいただいた関係で飲んでみたのだった。

「おみくじ」と「プロテイン」の関係は後で触れるとして、まず、「裏側を見たり聞いたりするのが好き」な件について触れたい。

姉は、ここ一年半ほど、おそらく外出自粛をきっかけに過去の宝塚関係(その他の舞台も)のDVDの中古品をよく買うようになった。私は配信(で視聴する)派だけれど、姉によると「特典の稽古風景や座談会が好きだから、DVD(またはブルーレイ)がいいのよ、やっぱり」だそうだ。

確かに、稽古風景を観たり座談会で裏話を聞いた上で本編を観ると、さらに魅力が増すように思える。

数年前、『カメラを止めるな!』という映画が流行って、私はテレビ放映でしか観ていないのだけれど、ゾンビ映画の撮影中に実際に惨事が起こる…のが前半で、後半、それが劇中劇だったことが明かされ、そんなB級(C級?)ホラーを制作する人々のドタバタがコメディタッチで描かれる…というもので、「裏側」の面白さから話題・人気になったのがよく分かった。

『シン・ゴジラ』(映画館で観た)も、政府関係を中心に仕事の現場というか国民側には見えない「裏側」を扱っていた点が面白かった。

NHKの『サラメシ』(働く人のランチタイムを紹介する番組)でも、働く人、場所のちょっとした側面や裏側が垣間見えるところが私は好きなのかもしれない。

今回私が「おみくじ制作」の仕事をして、その関係でプロテインを飲んだのも「裏側」の話を気に入ったのがきっかけなので、これからその話をします。

通販サイトを運営しているその会社(ひとまずW社さんとします)では、連日、とても多くのお客さんに商品を発送しておられるという。

アクセス解析によると、オンラインショップを利用する人のほとんどがスマホからの訪問で、画面で目にしてもらえるのは、ほぼ商品ページのみだとか。
キーワード検索→商品ページ→購入→商品到着。
この流れでは、商品の送り手と受け取り手のやり取りは、どうしても無機質なものになる。

通販とはそんなものだろうと私自身も思うけれど、そういえば、たまに個人や小規模のネットショップで買い物をした時に、手書きのメッセージや「おまけ」の品をつけてもらえると嬉しかったり印象に残ったりするので、それが大半の「無機質なやり取り」と「そうでないもの」の違いだろう。

他社との差別化をはかり、気に入ってリピーターにもなってもらう。またレビューを書いて広めてもらう。

これは、ネット時代では経営上のごく基本的な考え方だろうけど、W社さんの考えはそれだけではないようだった。無機質になりがちなやり取りの中に、私が以前、小さな文具系ショップの買い物で経験して感じたような、「人の体温」「気持ち」のようなものを、商品に添えたいのだという。

W社さんの皆さんはあれこれ考えをめぐらせた結果、
「たくさんのショップの中から選んでくださったお客様に、〈ありがとう〉や〈これからもどうぞよろしく〉の気持ちを届けるため」に、「ご縁に感謝」ということから五円玉を封入して、お客様へのご挨拶状や他商品のフライヤーとともに商品に同梱することにした。

実際は猿が5匹(5猿)描かれた可愛いポチ袋です。

(1)まず、二人がかりで銀行へ行き、大量の五円玉に両替してくる。

(2)中には汚れている硬貨もあるため、別の社員がそれを洗って乾かす。

(3)その後、ポチ袋へ封入する作業を外部委託する。

工賃(@17円)+ポチ袋(@10円)代がかかる。

以上のように、W社さんでは商品に「ささやかな気持ち」を添えるために、結構な労力と費用(5円+工賃+袋代)をかけているのだった。

ただ、数万件という注文に対応する中でご縁玉(五円玉)を用意するのは大変なこと、また複数の配送業者を利用する中で日本郵便では現金を送れないので、五円玉でなく同程度の「植物の種」(食材になるハーブ系だと伺ったような…)を同梱していたものの「発芽しない」などの不良品やトラブル対応などを気にする必要が出てくるなど、様々な面で「同梱するのを別の〈何か〉に出来ないだろうか」と考えるようになった。

そして最終的にオリジナルの「おみくじ」はどうだろうか、という話になり、ネットで色々調べてたどり着いたのが、「はにほみくじ」だったという。
「はにほみくじ」とは、東寺や深大寺、東大寺などで引くような「元三大師系のおみくじ」(五言絶句の漢詩とその和解などが記載されたもの。和歌の書かれたおみくじとは違って、やや読みづらい)の世界に興味を持った私が国会図書館のデジタルデータや古書店で入手した資料やテキストをもとに「いろは順」に47番まで作ったもの。
他に、元三大師系みくじを100番まで全てまとめたZINE(『レッツおみくじ』)やお寺さんからのご依頼で1〜100番までの「宝寿みくじ」を制作した経緯などもnoteで紹介していたことから、「おみくじが好きでいろいろ調べている人に絵も文章も制作してもらいたい」となったようだ。

はにほみくじ
宝寿みくじ

フリーで活動をしていると、ネット経由やお店に来て仕事の依頼をしてくださる方は時々おられるのだけれど、長年の経験から、降って湧いたようなお話には腰が引ける傾向にある。だからやり取りの初期の段階では、私はどこか慎重に、距離を取るような態度だったかもしれない。

それでも、W社さんの代表の方は段階を踏み、その上で実際に関東から奈良まで会いに来られて、対面した最初に上に書いた五円玉の裏話などをしてくださり、それを聞いているうちに「面白いなぁ」と思った。おそらくその方は、こちらを面白がらせるために鉄板ネタとしてその話題を出したのではなく、おみくじを依頼する上でデザイン、イラスト等制作料がいくらになるのか、それを伝えないといけないだろうとお考えになり、その計算をする上で、まず現状はいくらかかっているかを説明する行きがかり上の話だったと思われ、その点が面白かった。美辞麗句や情緒的な話より、具体的、即物的な話が私は好きだ。

ホームページを見に行くと、お洒落でシンプルな作りで、ネットショップでの人気ナンバーワンは「わたしのプロテインダイエット」という商品だと聞いたとおり、サイトには美容や健康情報、関連商品などが多く載っていた。

直接お会いした方を含め、話し方やメール上の文面の端々から私がその会社に好感を持ったのは中の人たちの「ほのぼのムード」だったのだけれど、サイト自体はスマートな世界観だったので少し意外だった。

きっと、会社の方が仰るとおり、買い物をする方の多くがスマホで「2週間 ダイエット プロテイン」などのキーワード検索でやってくるため、サイト全体をじっくり見てもらうことは難しく、必然的に簡潔な内容になっているのだろう。

仕事を引き受けるにあたり、おみくじには中の人たちのあったかさを彷彿させる「ほのぼのキャラ」を登場させて、言葉遣いも少しでも親しみの持てるものにしたいと思った。

そして出来た「開運みくじ」がこちら。実際のものは商品をお買い上げいただいたお客様がご覧になるものなので、ここでは元三大師みくじ20番吉を参考に今回用に作成した番外編の一枚を(20番の運勢イメージは、M-1グランプリで先日優勝された漫才コンビ「錦鯉」さんのような形かなと思い、イラストもそのような場面にしてみた)。

実際のおみくじも同様に、元三大師みくじをベースに、同じ吉や大吉でも幅広い内容のものを参考に作成して、イラストは自分の解釈で創作した。
少しだけ実際の内容を紹介すると、上の見本の一番下にある「あなたは〜」の部分はこんな感じ。

例えば「シンデレラ的〜」は、これまでの不運が一転して幸せになる運気。

おみくじに登場するのは、先ほど五円玉の話で再現シーンを演じたクマのトリオ。
先ほどからのW社さん改め「ウーマン・ジャパン」(WOMEN JAPAN)さんという会社のキャラなので、くーまん、うーちゃん、まーちゃん、という名前に。3人で「くーまんJAPAN」を結成してコントか何かやっているかもしれない裏設定を勝手に想像したりして…

くーまんちゃんトリオの自己紹介マンガ。仕事ではなく今回の記事のために描いたので雑です…

これらのキャラを、商品に同梱するA4サイズの案内(お客様へのご挨拶やセールの案内、レビュー投稿のお願いなど)にも登場させた。頼まれもしないのに空いたスペースに4コマ漫画も添えたところ、あたたかな会社の皆さまには喜んでいただけたけれど、事務的な内容のものだからこそ、実際にお客さんに届いてすぐに「紙ゴミ」へポイ、とされずにゆっくり見ていただけて、読んだ方の気分が少しでもほぐれたらいいなぁ、と切に願っている。

*****

そんなこんなで、私がプロテインを飲んでいたのは、お仕事で制作したおみくじやA4のフライヤーが同梱される商品(の中でも一番人気)ということで、実際に自分で試してみたのでした。
この仕事(座りっぱなしであまり運動をしない)では、あまりお昼にお腹が空かないのと、没頭して昼時を逃すことが結構多いので、栄養を摂れて手軽に飲める(私はあたたかいミルクに溶かした)プロテイン粉末は、思っていた以上にありがたい品でした。
初日だけ慣れずに「え〜無理かもっ。三日で限界か…」と思ったものの、それは牛乳の量を間違えたせいで、適量にちゃんと混ぜれば飲みやすく、今も昼を食べそびれた日などに飲んでいます。甥が「残ったら飲むからちょーだい」というので、男性には馴染みあるモノなのかも。

これはお金をいただいて書いたプロモーション記事ではないので、プロテインを買ってね、という意図はないのですが、サイトへのリンクを下に(商品画像から飛べるように)載せておきます。
私のグッと来たポイントとしては、中の人たちが「何か気持ちを届けたい」と、努力を日々されておられるという話とそのクールなサイトとのギャップに驚くというか、そこが面白いので、それを感じていただけたら。

こちらの会社、おみくじ制作をするにあたり、印刷はネットで注文可能なのに、現地(印刷所)まで足を運んで相手のお顔を見て頼まれたそうで、私にだってメールで相談すればいいようなモノだけど(ただし、メールでなら断った可能性もある)わざわざ会いに来てくださって、そして一番先に見本刷りを送ってくださるなど、お客様だけじゃなく外注先のこともとても大事にしてくださるんだなと。

見本刷りとは別に、のり付けした完成品のおみくじと、実際と同じ状態でOPP袋に入れられたものが丁寧なお手紙とともに届いた。この記事を書いている最中に受け取ったのでびっくりです。

長くお取引している先様に共通することですが、メールでの些細なやりとりやお返事の早さ、その内容、サンプルに添えられたお手紙など、細部まで気遣いが行き届く人と作るものは、どこか心が通っているというか「見えないんだけど、肌で感じられる体温が宿っている」ように思うんです。改めてそんなことを感じた出来事でした。

*もしこちらの会社で扱っておられる商品を購入された方のうち一人でも、「なんだろう、このおみくじは…このクマたちは何?」と興味を持って検索された時に、ほんの少しでも趣旨が伝わるといいなと思って、今回書きました。

「わたしのプロテインダイエット」。
お気に入りはアーモンドミルクとヨーグルト、ブルーベリー味。
くーまんちゃんとその仲間たち。

【2022.9追記】
その後、「お客様はリピーターの方が多いので、出来るだけ違う種類のおみくじが届くようにしたいんです」とのことで、おみくじの追加作成ご依頼があり、種類が当初の倍に増えました。適当に自分で考えたのではなく、元三大師系のみくじ本を参考にしたり、四柱推命や八卦なども参考にしながら一つずつ作ったので、実際に自分が買い物をして「好きなタイプの大吉」が届いたときは「ヤッタァ、これ来た」って感じで嬉しかったです。

【2023.2追記】
2022年夏の終わり。関東に越してきたことだしせっかくなので、とご挨拶がてら会社訪問をしたある日。ランチ(候補の店を5つほど考えてくださっていた)をご馳走になった後、近くの喫茶店へ案内されて、お腹はいっぱいだったのだけど「マツコの知らない世界で紹介されたんですよ」と勧められ、アンバターサンド(お店での商品名は「アンプレス」)を3人でシェアすることに。
カットされて4切れあったので、遠慮の塊が最後まで残っていたら、会社の方がお店の人に「これ、すみませんが持ち帰りにしていただけますか?」とお願いして、アルミホイルに包んで渡してくださって。
そのお土産の小さな一切れに何やら甘くて優しい色んなものが詰まっている気がして、「この会社とは長い付き合いになるといいなぁ、」と思ったのでした。

珈琲ショパン(東京・淡路町)のアンプレス。