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フチのある世界と図案のこと。

昔、カメラで撮った写真をプリントする際、フチありかフチなし、ツヤ消しかツヤ仕上げか店頭で聞かれて、指紋が目立つのが嫌な私はフチなしツヤ消し(マット仕上げ)を選ぶことが多かった。ただ用途によっては光沢を選ぶこともあって、その場合はフチありにして白い部分を指先でつまんで写真を扱っていたように思う。

普段の仕事や、仕事に限らず自分でポストカードなどを印刷する際にも、フチの有無は意識する。そのデザインではカットラインいっぱいまで塗りや柄を入れる(塗り足しあり)か、そうでないか。
マスキングテープや包装紙などの仕事では柄を上下左右でつなぐことが必須で、背景のうっすらした汚れや生地などのテクスチャや水彩タッチなどもきっちりつなげる。そうした作業のない枠内に収まり白いフチがあるデザインは楽だという利点だけでなく、額装したように締まって見えたり、バラバラな絵を並べた場合にもごちゃつかずスッキリ見えて美しいのがいい。

白いフチが魅力、といえばその代表格が切手だけれど、先日古書店でこんな本を見つけた。

下田直子のステッチ・ワーク『切手 X 刺繍』(株式会社グラフィックス社/2011)

一時期、古い鍵やレース、楽譜などと切手をコラージュしたデザインの注文が多かった頃には材料として「シンプルな建物や紋章の切手」を必死で探したりしていたけれど、個人的に「これいいなぁ〜」と思って買うときは、「いつかこの配色やこの模様をヒントになにか作りたいなぁ」などと、「アイデアの種」として手に入れていた。ただ実際に「何か」になったことはほとんどないので、こうして図案をパッチワークや刺繍作品に昇華されているのを見て嬉しくなった。下は、本に登場していた切手がウチにも少しあったのでスキャンしたもの。

本に載っていたのは左上:ブルガリアの民族衣装切手と、右上:ブルガリアのハーブ切手。下の不足料切手はハンガリーのものだけれど、本にはカラフルで可愛らしいチェコの不足料切手が載っている。

私はわりと年中テンションが低くて何に対しても盛り上がりに欠けるのだけれど、特に今年は5月以降どうにもぼんやりしてしまっていたところ、この本に載っていた切手や作品の配色からヒントを得て、7月になってようやくアイデアに煮詰まっていたある企画を進めることができた。
企画といってもコンペに応募するだけなので1円にもならないかもしれないけれど、自分にとって「何かに没頭して作業するひととき」を取り戻したことで、生きるための種火を取り戻したような感じがする。
創作に限った話ではなく、何か一つ「やる気」のとっかかりを見つければ、スポーツクライミングだかボルダリングのように、まずルートを見つけて何かに挑戦する目処がつくというか。

その本を見ながら、ああ図案てのはやっぱり面白いもんだなぁと改めて思い、そういえば私は日々色々なものに刺激を受けて「ワクワク」やときめきをもらってどうにか機嫌を直しながら生きているのだったなぁ、ということに気づいた。使い倒しているためシワシワですが、こちらもそんなお守り的存在。

morita Miw(森田MiW)ポケットハンカチ。他にも人魚や色々あるけど洗濯したりどこかで落としたり。

森田美和さんのイラスト・デザインはどれもとても素敵なのだけど、私はこのフチありシリーズが好きで、リピート買いしてしまう。

そして、誰かにお手紙を書こうと買ったのに、結局手放せないのが、細見美術館で買った老舗古代裂商「今昔西村」さんのポストカード。フチが四角ではなく着物のシルエットになっているのが効果的。普段はくすんだ色を好んで身につけるくせに、何かこうした配色や柄にはグッとくるものがあって、特に赤と黄色が好きなことに気づくのです。

自作の「いろはマッチ」でも、フチありの方がよりラベルっぽくてマッチ感が出ている気がする(お客さんに好まれるかどうかは別として)。

ハニホ堂/いろはマッチ柄のブックカバー より。

私の部屋の壁には絵はない代わりに地図を貼っていて、ただ、以前店をしていた時にブックカバー 兼ポスターを展示するために額装して、マットを選ぶのがとても楽しかった覚えがある。ブックカバーでもあるので周囲に少し余白があるこの絵。

これを額装して飾ったところ、木の色と古い壁に不思議となじんでいい具合だった。ワクマジック。

そんなわけで、今日はフチがどうのこうのと書きながら、結局私は「図案」が好きなのだなという話なのかもしれません。
昔、いろいろな資料を見たりしてインスピレーションを受けて自分が良いと思う図案を作り、描けたら端をカットして二回りほど大きな白い台紙(ケント紙)に貼って展示会で売ったり、注文図案の場合も、やはり見栄えを良くするためと保護のために台紙に貼って(巻くので上二箇所にしか両面テープをつけない)届けたことを今回思い出し、あれは台紙でもあったけど、額縁のような効果もあったんだなと。

今も確定申告時だけは職業欄に図案家と書いている(文字数が少ないから)ものの、このところずっと私は頼まれたものを頼まれた通りに仕上げる仕事(量産品を売るにはそれが一番なのですが)に安住するようになり、自発的に自分の中から生まれる未知の図案やデザインを生み出して即売会的な展示会などをしたり売り込みに行くことはなくなった。お店をしたことで、物づくりは以前よりは積極的に楽しくできた面もあるけれど、不思議なことにいつしか「ハニホ堂っぽく」という謎の「ワク」を自分の頭でこしらえて、そこに不自由さを覚えることがあった。

先日松濤美術館で『津田青楓 図案と、時代と、』を観て、理屈ではなく、素敵な意匠に出会うと心がおどるなぁと実感した。環境や誰か自分以外の人を変えることは難しいけれど、変化すべきなのは自分だ。ワクワクするセンサー(その感性はまだ自分に残っていることに気づけただけでよかった)をもっと開放してみようかという気になった。

2022年6/18〜7/18(前期)7/20〜8/14(後期)まで開催

図録の中に好きなページがたくさんあるものの、無断で掲載できないのでチラシの裏面を。会場では絵巻風?日記というか書き付け(とても味があって面白い)や漱石とのやりとり(ちょっとグッとくる)などもあって、作品に添えられた解説を読むのも楽しかった。まさかの往復はがきで申し込むというスタイルで特別イベントの「木版摺りの実演」も見学して摺り体験もして、大いに刺激を受けて帰ってきたのでした。

この記事を書いていて、白い枠といえばと思い出し、「あれはどこにあったっけ?」とあちこちの引き出しを探して、何日も経ってからやっと出てきた「20年以上前に買ってから結構長いこと部屋に飾っていた絵」も載せておきます。

中央下部にイヌイット語が見えます。左にSummer on the landと英語があり、この絵は台紙と重ねて透明な袋にラッピングされてアメリカ西海岸の土産物店で売られていた記憶があります。この絵の線に長年憧れていた私。白い枠の余白部分がいい味だしてます。

最後に、ヘッダーの画像は手持ちの切手を並べてスキャンしたものでした。デジタルな世界が進んでも、こういう小さくてざらっとした手触りの「何か」は手元に残しておいて、たまに手にとるのもいいものですね。さぁ、8月だ〜