ワニのこと。
知り合いから手紙などをもらったりしたときの便箋だとか、その人の持ち物を見たり本人から話を聞いたりして、「ああ、何々さんは〇〇が好きで、そのグッズを買う傾向があるんだな」と知らぬ間にインプットされて、別の日にお店でその〇〇のグッズを見つけると、「あの人こんなの好きかな。それともこのテイストの〇〇はあまり好みではないかも」などと考えたりすることが増えて、案外そんなことが自分の生活の中の数パーセントを満たしていたりするものだ。
昔、姉の職場に付き合っている相手の名字にちなんで、「カニ」のグッズを集めている人がいると聞いて、私など一度も会ったことないのに、出先でカニの箸置きやノートなどを見つけては勝手に買って「見つけたよ、これもあげて」とコレクションのお手伝いの押し売り的なことまでしていたこともあった。
〇〇の中に入るのは、もちろんスヌーピーとかムーミン、すみっこぐらしなどのキャラクターもあるだろうけれど、私が気になるのはそれが実在の生き物の場合だ。
出会った人にはウサギ、ネコ、カピパラ、ハシビロコウ、カエル、ペンギン、パンダなど、様々な動物(グッズ)好きさんがいたけれど、ウサギやネコなど実際に自宅で飼っている(一緒に暮らしている)場合は、毛並みや耳の形、模様なども似ているものを選ぶようだし、カエルの場合は目のくりっとした漫画チックなものではなく鳥獣戯画的なテイストやシンプルなゆるいタッチを好むなど選定基準が結構厳しい人が多いようで、フクロウのグッズを集めてガラスケースに飾っていた友人に出先で見つけた置き物をあげた時の薄い反応から、誰しも好きな動物だからって何でもかんでも欲しいわけじゃないと学んだこともあった。
私にとって、そんな〇〇な生き物は特にない。ラマのブローチ、キツネのペンダント、カバの置物、ハリネズミ柄のブラウス、カエルのケーブルクリップ、もぐらの湯たんぽ、たぬきの手ぬぐい、スワンの鉛筆削り、招き猫の置き物、アリクイのハンカチ、などなど人からいただいたものや自分で買ったものなど色々お気に入りはあるが、格別に特定の何かに思い入れがあるわけではないけど自分なりの基準はそれなりにあって、だけど「それなりの基準」はとても曖昧なものだ。
そんな中で、ワニは比較的特別な存在かもしれない。
友人二人の名刺やSNSのアイコンなどのデザインを頼まれて制作したことがあり、片方は男性で私が勝手にラコステ風にワニの中に屋号を入れてみたことから(本人は別の動物が好きだそう)、もう一方はもともと好きだからと、ワニのイラストを希望されたことから、二人に対して私はワニグッズを贈ったり、ワニの絵柄のポストカードなどを使ったりしてきた(だから、記憶には残っていても手元にはないお気に入りワニグッズも多い)。
ワニといえば、まず思い出すのはこのお話だ。山本夏彦さんが訳したレオポール・ショヴォの『年を歴た鰐の話』、そして原作(出口裕弘さんの訳)をもとに『頭山』などのアニメーション作家山村浩二さんが自分の絵と文で挑んだ『年をとった鰐』。
ワニが登場する話の中で、こんなにも切なくて絵になるものは他にないのではないか。その美しさと悲しさは年取ったワニと心を通わせるタコのお嬢さんの存在によってより一層引き立つ。このお話との出会いが私の中で「ワニは別格」と思うきっかけになった。
さらに近年、奈良に住んでいたときに近所の輸入雑貨のお店でワニのゲーナに出会ったことで、ワニの供給量が一気に増えたこともあるかもしれない。人気キャラクター『チェブラーシカ』は私も以前からグッズを見かけたりして知っていたけれど、もともとは『ワニのゲーナ』という絵本がはじまりで、主人公はワニの方だったらしい。私としては、そのゲーナの表現のバリエーションに惹かれるものがあった。
お店では実際にいくつかゲーナグッズを買ったけれど、上の二人にもプレゼントして、自分用にも選んで3個買いしたのはこちら。
同じ店で買った動物絵本にもワニ。
同じ頃、近所の絵本専門店で見つけた『ヴィクターとクリスタベル』で、ワニ表現の最高峰の一つに出会ったような気がした。
私は量産品の雑貨のデザイン(イラスト)の仕事をしているので、以前から、いろんな動物の参考資料としてポストカードや紙雑貨などを買う癖があり、ワニもそう多くはないけれどもともと持っていた。
ワニというのは、パンダやシマエナガのように、本体自体が可愛いのではなく、絵にするときにもどう表現するか振り幅が広い、扱いが難しい動物だろうと思う。
うちにある『絵本の100年展』の図録(p.113~115)に載っているジェームズ・マーシャルの『Fox On Stage キツネくん』(1992)に登場するワニの姿はかなり可愛い。ただワニより画面左下のカエルの破壊力が凄いかもしれない。
長いことお気に入りだった(今は最後の一枚ずつが残っているのみ)ワニ付箋。
いしいひさいち氏の漫画の登場人物がこういう表情をしている気がする。シンプルさと色が良い。
シンプルなシルエットで表現したものはインテリアにもよく合う。
シンプルさに脱力をプラスしたものもいい。お気に入りの一筆箋がこちら。
ゆるいのがある一方で、リアル寄りの表現もいい。中世ヨーロッパの甲冑のようなカッコ良さがあるエッシャーの『ワニ』(画像は二つ折りカード)も家にあった。
リアル寄りだけど大人向けのインテリアに合うIKEAのぬいぐるみ。写真がぼやけてしまいました。細部まで素晴らしいです。
とはいえ、絵にするならデフォルメできてナンボ、というところもあると思うのです。下の画像は父が資料としてどこかで入手したらしき海外の包装紙?か何か。
ワニより左のカメやゾウの表現力に惹かれて長年保管している切り抜きだけど、こうしてみると、様々な動物の配置バランスをとるためにワニの形は隙間を埋める意味で有効なのだなというのも分かります。
今後ワニの何かを入手したりいいものを街で見かけたら、その画像をこのページに貼り足して自分用ワニアーカイブページにしたいし、いつか他の動物でもやってみたい。
*****
最後に。
私はデザインやイラストの仕事をしているものの、いつも指示に従って制作するので、自分なりの絵柄、あるいは自分の望むイラストとはどんなものか、いつも足元がぐらついていて、なんとなく先延ばしにしていたら数十年経ってしまいました。
何か好きな「感じ」のものを形にしたい気持ちはあっても、それを実際に形にするにはセンスと技術が伴わずなんとも難しいというか、私には「デフォルメ」のセンスがなくて真面目に描いてしまうウザさがあって、ワニというモチーフは、その殻を破るために取り組むにはとても良いのではないかと思ったりもするのです。
そんな思いで年の暮れ、描いてみたワニ。季節のご挨拶です。
近々、実際にワニをたくさん見るために熱川バナナワニ園に行きたいです。
追伸:ワニといえば、つい最近『ペリリュー ―楽園のゲルニカ― 』1〜11巻武田 一義 (著), 平塚 柾緒(太平洋戦争研究会) (企画・原案)/白泉社、という漫画を読んで、それまでワニを単に絵柄のモチーフとして都合よく見ていた自分に冷や水を浴びせられるというか、ハッとさせられました。太平洋戦争を描いた作品としては水木しげるさんやこうの史代さんの漫画や古処誠二さんの小説、塚本晋也 さん(出演, 監督)の『野火』が自分の中では印象深いのですが、この作品にもとても胸を揺さぶられる場面や気になる人物が多く登場して心に残りました。