マガジンのカバー画像

クッキーはいかが?

332
1200文字以下のエッセイ集。クッキーをつまむような気軽さで、かじっているうちに終わってしまう、短めの物語たち
運営しているクリエイター

2024年2月の記事一覧

8分未来

「あっ、やべっ……」 デスク正面の時計、23時20分。 慌ててスマホに目を落とす。 23時9分。 自室の時計は、10分くらい進めている。 なんだか時計の多い家で、2DKなのに5箇所くらいある。 わたしの部屋のやつは、IKEAのお気に入りで、2代目。 自分の部屋だけ、10分”くらい”進めている。 ”くらい”っていうのが重要で、5の倍数だとすぐに脳内で計算できちゃうので、「あ、まだ5分(10分)余裕がある」ってすぐ安心しちゃう。 でも、7分とか8分とか9分(あるいは3分と

健やかさの中心

ときどき、 どれだけ食べても、おなかがいっぱいにならない夜がある。 それほど空腹感を感じない晩ごはんを、一度食べて 食べ終わったそのときに、胃袋に何もいないような、食べる前と何も変わっていないような錯覚を 何度も、繰り返す。 少しずつ、少しずつ食べて、いつか満たされることを願うのに そのときは、訪れない。 食べ過ぎることと、寝過ぎることを、悪く思う自分がいる。 そりゃあ、痩せていたほうが気分が良いことも学んだし、 少ない食事でたくさん動けたほうがコスパもいいし、 そんなふ

「から揚げ、食べる?」

その日、冷蔵庫には山盛りのから揚げが入っていて それはまるで来客を予期したかのように、ひとりでは到底食べきれない量だった。 「から揚げ、食べる?」 別に、お腹がいっぱいだったら、無理をしなくていい。 食べたくない気分というならば、それでもいい。 そういうときは、「いまは平気」って言ってくれれば大丈夫。 でももし、「から揚げ」 その言葉に、少しでも胸が躍る気持ちがあって 少しでも、お腹に隙間があって あるいは、隙間があるような気がして 食べちゃおうかなあ。と思ったら。