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わたしのはなし

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あったことを、あったまま。わたくしごと。日常、頭の中、日記と記憶の話が中心。
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#旅の準備

 君が実家に帰るというから、キャリーケースを渡した。  これは10年ほど前、友だちの結婚式にいくときに買った。  もう、人生初めての旅行らしい旅行で、「旅行といえばキャリーケースでしょう」と言って、慌てて買った。行き先は宮古島で、結婚式用のワンピースやあれこれも持たなきゃいけなかったから、どうしても必要だった。  買ったはいいのだけれど、遠出の機会が少ないうえに、たいていはリュックですませていたから、こいつを使う機会はほとんどない。  先日、実家に帰るときにキャリーケース

身軽な時間

 家から遠く離れたスターバックスに来ている。  何をしているかって、ぼおっとしている。  ここへは、花を見に来た。  水槽のあぶくと、花を。  わたしはnoteを毎日更新するということを自分に課していて、書きだめするほどの情熱や計画性もないので、仕方がないので今日もこうして書いている。仕事のある日は、仕事のあと。眠るまでのどこかの時間で。あるいは、目覚ましをかけて眠る。23時に起きるように。  家にいると、何かしなくちゃな。と思う。  正確には「何かすべきタスクを放置し

東京は灯されて

 今日は仕事をして、買い物までした。えらいなあ。  必要なものを買いに行くって立派な家事だし、めんどう。からだが重い。誰かが当たり前に、悩む前にさくっと終えてしまうことに、わたしはずいぶんと時間がかかる。  今日も仕事に行ってえらい。買い物までしてえらい。きちんと、褒めたい。  ドトールの、さらりとしたコーヒーを飲みながら、今日のエッセイを書くことにした。今日もきちんと、コーヒーが美味しい。  本日は最寄りのドトールから、日常(あるいは思考)の切れ端をお届けしているのだけれ

なんでもいいもの、よくないもの

 むかし、美容院が嫌いだった。  最近は決してそんなことはないのだけれど、思い通りの髪型にならなかったり、その場では良くてもあとで手入れが大変だったり、理由はいろいろあったけれど、「どうしたい?」と問われるのが嫌だったからかもしれない。  いつも頼んでいることは、毛量を減らすことと、前髪を切ること。  あとはよくわからなくて、目立つところにある白髪は隠したいけれど、髪色を尋ねられると困る。たぶん、好きな色と似合う色は違うし、わたしが分身して2色試せるとしたら好みくらいは選べ

ワンピースを、いくつかと

 時折する想像がある。  定期的に訪れる、という意味では病と言っていいかもしれない。  あるいは、癖、とか。  YouTubeを徘徊していたらルームツアーの動画を見つけて、それが妙に素敵だった。  お部屋そのものは、よくある賃貸で、それはわたしの部屋にも、友だちの部屋にも見えるような規模感だったのにも関わらず、デスクにも棚にもお気に入りのものが、きちんと飾られていた。  わたしだってお気に入りを飾っているはずなのに、なんていうかゴチャッとしている。  そのルームツアーは「

ズルと贅沢

 会社をちょっと早めに切り上げて、散歩に来た。  最近ちょっと忙しくて帰りは遅めだったし、今日はちょっと手が空いた。やらなきゃいけないことはたくさんある。でも、ズルと贅沢こそ、今すべきではなかろうか。  ズルっていうのは、あんまり得意じゃなかった。  根が真面目というわけでもなく、「明日もサボりたいのに、今日サボっちゃったら明日は頑張らなきゃいけない」なんて思っていた。明日は本当に具合が悪くなるかもしれないしね。  本当に体調不良で過ごしていたこの数年は「具合の良いときには

絶対に、たい焼き

 たい焼きを買った。  今日はどうしてもたい焼きだった。そういう日があってもいいと思う。  プリンだとかバームクーヘンだとか、たくさんの誘惑を退け、たい焼きにたどり着いた。あんこか、クリームか、あんクリームか、たいそう悩んだけれど、あんこにしてみた。  たい焼きを食べるには帰り道を迂回しなくてはいけなくて、何を食べるか選ぶのは楽しくもあり、決められない自分を疎ましく思ったりもする。  けれどもいま、鞄の中にはたい焼きがある。  それは、大げさに言えば叶えた夢のひとつであ

音楽と人

 ライブのチケットを買おうか悩んでいる。  最近のわたしは、べしょっとしている。  食事も睡眠も充分で、仕事に行けば良い人をきちんと演じることができるのに、家に帰ると覇気がない。眠いのとちょっと違う。何もしたくない。  まるで、咲かない蕾をぶら下げた植物みたいに。  水も栄養も日光も充分なはずで、去年はこれで綺麗に咲いたのに、今年はなんだか全然ダメ。みたいな。べしょっと。  ライブのチケットを買おうか悩んでいる。  一万円のチケット。  わたしにはずいぶん高価で(ライブの

新しい答え

 本を買った。  気持ちとか体力とか、少し余力が出てきて、最初にしたことは友達に会うこと。その次がゲームで、それから仕事帰りの寄り道。  そして、本を買った。  Switchでできるスナフキンのゲームをやってみたら、なかなかおもしろくて、ムーミン好きの友達にプレイしたら「原作通りだ」と言っていたので、原作が気になっていたところ  寄り道した本屋に、ムーミン全巻セットが売っていて、うっかり買ってしまった。  約6000円。  ずっと欲しかったゲーム「プリンセスピーチ」とほと

心の泡

 電車とバスを乗り継いで、ここまで来た。  道のりはどう考えても面倒で、「電車とバスに乗ること」そのものをご褒美だと思わなければ、とてもやっていられなかった。  けれども、「ここの椅子に座る」と決めたら、物事は進んでいった。  もう決めてしまえば、それだけのことだった。  乗り換えがわからなくて、バス乗り場がわからなくて、あたしはきちんとそれぞれ泣きそうになったけれど、もう進むしかなかった。  たどり着いたスターバックスで、たくさんの花と、水槽の泡を見て、今までの苦労はス

晴れやかなこと

「もう、怒っちゃうわ」と言って、あなたは空気を殴っていた。  わたしはそれをとても、好ましいと思う。  自分のせいじゃないトラブルで、たぶんわたしなら顔面蒼白になるところだった。自分の伝達の仕方が悪かったからとか、やってしまったとか、とにかく落下するようなネガティブになったはずだ。  殴るようなネガティブ、というのは晴れやかだと思う。  腹は立つけれど、きちんと殴って(空気を)、しっかり愚痴って  わたしが悲しいとき  そして本当は腹が立っているとしたら  こんなふうに

町田の冒険

 町田に向かいながら、町田のことを思い出している。  あれは確か、十九の頃。  スタジオは、深夜だった。  深夜パックというのが、通常の時間帯よりも安く、メンバーとの予定も合わせやすいため、時折使っていた。0時から、4時までとか、5時までとか。  その日もそんな風なはずだった。  スタジオは3時半とか4時までで、松屋で牛丼でも食べて始発まで時間を潰せばよかったのに、ベースが「このあいだ玉学まで歩いて道を覚えたんだ」というようなことを言い出した。  玉学というのは、今となっ

母の血脈

 わたしには、母がふたりいる。  生みの親と育ての親だとか、父親の再婚相手だとか、そういうことではなく、二人目の母は、母の親友である。  生きるのがへたくそなわたしに、十代の頃から変わらず寄り添ってくれる人で、東京に来てからの二十余年、わたしたちは欠かさず手紙の交換をしている。 「母の友達と文通をしている」というと変な文脈のような気がするけれど、わたしは母親に手紙を書いているのだ。  静岡に帰って、ふたりの母とお茶をすることになった。  いつもならカフェに行くところなのだけ

Happy Birthdayのひとりごと

 最近、うまく言葉が出てこなかった。  もう1500日も毎日書いているのに、いまさら何を……と思う気もするのだけれど、たぶん、今までの千五百日が奇跡だったんだと思う。  いや、これまでの日々だって容易いものではなかった……何度捻り出して、唇を噛んだだろう。  スガシカオのことを思い出していた。  スガシカオのことを思い出すときは、なんていうかろくでもないような日びの最中にある。  実際に言葉も出ずに、眠ってばかりの日々だった。  何でこんな歌詞を書いたんだろう。  ス