漫才「落語」(BFC2落ちたやつ)

(舞台上にコンビであるAとB、登場。センターマイクの前で足を止める)

A「おれ、落語やりたいんだよね」
B「へえ。落語。いいじゃない。今どき珍しいね」
A「だろ? でもどうやったらなれんのかな」
B「なんだろうな。でもまあとりあえず、着物と扇子が要るな」
A「えっ。扇子」
B「そうだよ。扇子。ほら、ソバ啜る真似とかで使うじゃない」
A「……参ったな」
B「どうしたんだよ」
A「……おれ、右手ないんだよ」
B「えっ。右手ないの」
A「そうだよ。だから扇子持てねえや。どうしよう」
B「うーん……。まあ、扇子は左手でも何とかなるんじゃないか?」
A「そうかあ。まあ、左手はあるからな」
B「じゃあいいよ。着物はあるの?」
A「あるよ」
B「じゃあそれ着て座布団に座って話しゃなんとかなるだろ」
A「座布団?」
B「座布団だよ。落語家が座ってんだろ。そこに正座して話すんだよ」
A「……参ったな」
B「またかよ。今度は何?」
A「……おれ、左足ないんだよ」
B「左足ないの」
A「左足ないんだよ」
B「そりゃ参ったな」
A「何とかして正座せずに落語できねえかなあ」
B「落語ってバリアフリーがなってねえからなあ。まあでも、本当に落語したいんなら、何とかなるんじゃないか?」
A「協会も動くか」
B「協会も動くよ」
A「じゃあ俺だけ椅子に座らせてもらう形で」
B「多少浮くけど、まあいいだろ。熱意があれば。で、何の噺をやるんだ?」
A「どうしようかね。おれ目がないからさ……」
B「ちょっと待て。目がないって?」
A「比喩的な意味じゃなくてね」
B「そっちの方がより事は重大だよ。目がないだって?」
A「『いやあ、全く落語に目がなくってね!』 これを枕にしようと思って」
B「笑えねえよ! お前ないものづくしじゃねえか。しょぼい百均じゃないんだから」
A(朗々とした調子で読み上げる)
「『物があふれる資本主義の世の中、足りない尽くしの私めでございますが、どうかこの場だけは皆さまの心のスキマをお埋めできればと思っております……』」
B「完璧だよ。お前噺家になれるよ」
A「よせやい。照れるぜ」
B「まあそれはともかく。目がなくても耳がありゃ噺は覚えられるからな。一応聞くが、耳はあるんだよな?」
A「お前、さっきから俺と喋ってること忘れてねえか。これで耳なかったらおかしいだろ」
B「確かにな。いや、バカなこと聞いてすまんかった」
A「まあ舌はないんだけど」
B「舌がない!?」
A「舌はないね」
B「『は』ってなんだよ。さっきからお前、ないものの方が多いじゃねえか」
A「厳密に言うと、口ごとない」
B「お前の顔面、とんでもないことになってねえか?」
A「でも人間顔だけじゃないからさ」
B「お前は顔以外も問題だよ」
A「そうかなあ」
B「そうだよ。逆に聞くけど、体で何が残ってんだよ」
A「まあ腹はあるかな」
B「ふんふん」
A「あとくるぶしと……ここからだと見えるのはそれくらいかな」
B「どこから見てんだよ」
A「首が長くってね」
B「首は長いのかよ」
(A、仕切り直すように)
A「『腹は黒いが心は錦』! ということでやっていきたいと思うんですけども」
B「今さら仕切り直せねえよ! まずな、そもそも、手も足も目も口もない奴が、落語家なんてできるわけねえだろ! いい加減にしろよ!」
A「(ため息)はー、やめやめ。しょうもねえ。落語がそんなにも懐の浅いもんだとは思ってなかった。何が『業の肯定』だよ」
B「業も何も、お前は生まれたときから業背負い過ぎだよ。生きてることが奇跡みたいなもんだ」
A「『生きてる』ねえ」
B「何だよ」
A「俺って、実は死んでんだよね」
B「だろうな」
AB「どうもありがとうございました」

(A、B頭を下げる。退場。暗転)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?