見出し画像

いでよ、EUV

引き続きEUVのお話。
EUVは Extreme UltraViolet の略で、日本語ではだいたいの場合「極紫外線」と訳されていることが多い。
「極」という職人の最上位に位置するようなお言葉は、紫外線においても同様でこれ以上ないくらい波長の短い紫外線を指す。

本記事で注目するのはEUVの作り方である。
電球やLEDのように電気を流して発光できるほどお手軽ではなくて、その作り方はとんでもなく回りくどい。
まさに職人が伝統工芸品の完成形を見越して、いくつもの工程を粛々と丹精込めて進めていくのに似ている。
実際にEUV露光装置は多くの職人がその職人技をもって部品一つをそれぞれ作り上げ、天才たちの知見と計算結果を実現しているので、国境を越えた最先端最高レベルの技術の結晶と言えるだろう。

さてEUVの作り方に話を戻そう。
EUVを出す物質は、皆さんご存じの錫である。
昔から人類の工芸品や工業製品に使われているおなじみの材料は、21世紀も人類の生活基盤を支えてくれている。
錫は叩けばその形を簡単に変え、はねいぬの小物入れにもなってくれているが、人類のチカラで叩く程度ではEUVは出てくれない。
人類のチカラ程度では、全くもってエネルギが足りないからだ。

ではどうやったら錫がEUVを出してくれるのだろうか。
その答えは、はねいぬのライフワークでもあるレーザが持っている。
レーザは小さく集光すればするほど、そのエネルギは倍率ドン!実際には二乗ドン!
錫に向かって小さな点に集光したレーザは、その集光点で錫がEUVを出すために十分なエネルギに達するのだ。
ついにEUVが産まれる。

まずは電気を作って、その電気を使ってCO2レーザを発振させ、CO2レーザを錫に当てて、やっとEUVが産まれたのだ。

そしてその源は、やっぱりレーザなのである。
AI、データセンター、そして最新スマホが今ここ存在できているのは、レーザ無しではありえない。
これがレーザ屋さんの矜持であり、ブラックなお客様や営業のお願いにも応えようと頑張るモチベーションである。

余談だが、現在のEUV露光装置に使われているCO2レーザの出力は、150kWとも200kWとも言われている。
CO2レーザで厚さ1cmの鉄板をチョコレートの様に切断するのには、8~10kWもあれば十分なのにその15倍以上のパワーが必要なのである。
以前取り上げたDragon Fireなど文字通り足元にも及ばない。
そんな超トンデモ出力のCO2レーザが、先端半導体工場には何台も入っていて稼働しているそうだ。
冷静に考えると恐怖であるが、その工場がないと人類の欲望を満たせない。
人類とは罪な生き物である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?