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ロック!ロック!ロック!(扉は閉じられ、ロックスターは変質者になる)

はい、ロックの話をしますよ。もちろん鍵の話。これまで音楽な意味でのロックの話をしたことがないですからね。

ロックされる。閉じ込められたり、どこかに入れなくなるというのは、とても怖いことだ。しかも、だいたいこういうのは、不意打ちでロックされてしまう。

日常から非日常へ。平和な日常にいたはずなのに、突如、恐怖のドン底に突き落とされる。まずはわたしが日常への帰り道を断たれた話。

これは一歩間違えたら、わたしが完全な変態になるところだった。

奥さんとの結婚前、同じマンションで暮らしていたときの話になるのだけど、当時は、おたがいの勤務時間が違うので、奥さんが出勤したあと、わたしは1時間くらいしてから家を出ていた。

ある日、ゴミ出し担当だったわたしは、いつものように顔も洗わず、髪はぼさぼさ、パジャマ代わりの変な服を着た状態で、何の疑問も持たずに家を出た。

だって、すぐ近くのゴミ置き場に行くだけなのに、いったい何を気にすることがある? わたしのゴミ出しはロックだ。実際、髪の毛も、寝ぐせでロックスターのように逆立っていた。

その日はたまたま奥さんが家を出るタイミングと重なった。そこが、これまでの日常とのほんのわずかな差分だった。

ゴミ出しを終え、マンションの扉の前に立ったときに異変に気付く。まさか! ドアノブをがちゃがちゃさせるが、びくともしない。その瞬間は、鍵がかかっているという現実を受け入れられなかった。

あいつ、やりおったな! 奇跡のコラボレーション。わたしもアホだが、奥さんもアホなのだ。

わたしは脳をフル回転させて、現状を把握する。手ぶらだ。携帯もロックされた扉の向こうにある。ゴミ出しのロックスターは、ゴミを出し終えてしまった今、ただの変質者の見た目をしている。

これは……、絶望の未来しか見えない。夜まで家なしの変質者。無一文。無断欠勤の社会不適合者。

身体が動き出していた。わたしがやるべきことは、絶対に奥さんをつかまえること。あろうことか、このマンションは駅近だ。徒歩3分。今の時間帯、大きな通りに出ると、通勤の人がぞろぞろ歩いている。

勝負は1分!
わたしは、10時間に及ぶ変質者よりは1分の変質者を選ぶ!
わたしはダッシュした。

信号の前あたりに奥さんを見つけた! 想像どおりの最悪な絵柄になる。駅の近く、若い女性の背中を、変質者が猛ダッシュで追いかける。こんなの、傍から見たらただの猟奇事件だ。

わたしは「はあはあ」言いながら、なんとか奥さんに追いついて、呼びかける? 奥さんが驚いて、「え、なにっ」って感じで振り返る。

そのリアクションだめ! 猟奇事件の被害者ふうだから!

わたしは鍵を得て、なんとか最悪の事態だけは逃れることができた。奥さんは、うっかりしてた以外の感想を言わなかった。

あえて猟奇事件の容疑者になることで、10時間分の変質者を回避したわたしの死闘。ロック(鍵)の話だけど、ロックの話になった気がする。


話はそこで終わらない! 奥さんはその後、ロック事件の借り(本人は自覚なし)を意外な形で返すことになる。想像していなかった未来が訪れる!

子供がようやく歩けるようになったころ、ひとりでとことこトイレに入り、なにかの弾みで内側から鍵をかけてしまった。猛暑。我が家のエアコンはトイレまで届かない。

わたしひとりだったらパニックになっていたと思う。戸を壊そうとしたかもしれない(シャイニングのジャック・ニコルソン?)。

そのとき奥さんは、トイレのドアノブの下にある溝に10円玉を差し込み、回転させて、簡単に鍵を外してしまった。昔のトイレはそういう作りになっているらしい。

本物のロックスターは奥さん、
わたしはただの猟奇的な変質者ってことでいい。


がっつりエッセイ記事①

がっつりエッセイ記事②


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