彼女の一声で、戦友と出逢えた
私には、変だった時期が存在する。
家族から見ても職場の人から見ても、かなり変だったと思う。
何が変だったかというと、
荷物が異常に多かった。
母親には出かけ際「家出??」と確認されていたし、
渋谷でお茶をするつもりで会った友達には「登山??」と聞かれた。
それだけなら良かった。
大量の荷物を、トートバッグやリュックサックに押し込んで抱えて出掛けていても、
せいぜい「荷物がすごいデカい人」くらいなものだろう。
しかしある時から、さらなる苦難が加わる。
荷物への愛(執着)が強すぎるあまり、汚れることを恐れてまともに触ることが出来なくなってしまったのである。
その頃私は、世の中にあるありとあらゆる〝汚〟を恐れていた。
床に落ちればもちろん〝汚〟
床に置いたものと触れたものは等しく〝汚〟
そんな恐怖に囚われ、大切なカバンを抱えていては電車に乗ることさえままならない状態になっていた。
そんな生活が続いたある日、限界を感じた私は
「大切な荷物たちを〝ガード〟できる殻が必要だ!」と思いつく。
そう思い立った私は、一生懸命荷物を守りながら、一目散にみなとみらいのワールドポーターズに向かった。
ここで以前見た商品こそ、〝ガード〟に相応しいと思っていた。
閉店間際に駆け込んだ鞄屋に、「それ」はあった。
愛らしい笑顔を見せるピカチュウが浮き上がった、
艶やかで「ピカピカ」のキャリーケースだ。
当時の私は映画「名探偵ピカチュウ」の影響で、ピカチュウをはじめとしたポケモンの可愛さにどハマりしており、
都内各所のポケモンセンターを巡り、ポケモングッズを集めることがつらい日々のささやかな楽しみだった。
キャリーケースを買うなら、間違いなくこれ!と決めていた。
このキャリーケースに、大切な荷物を「鞄ごと」ぶち込んでしまえば、汚れなど怖くないと考えたのである。
(ピカピカのキャリーケースが汚れるのは気にならないのか?という疑問を持った方もいると思うが、そもそもキャリーはタイヤが地面を転がっている時点で全然綺麗なものじゃないので気にならないという理論である。)
しかし、いざ買おうかとピカキャリーを目の前にして、
ひとつの難問が立ちはだかった。
カラーバリエーションだ。
その売り場には、
まさしく「ピカチュウ⚡️」という感じの、今にも鳴き声が聞こえてきそうな眩しい黄色のキャリーケースと、
深い暗闇が艶やかに光を反射し、僅かな凸凹で表現されたピカチュウのシルエットが上品に浮かび上がる黒色のキャリーケースがあった。
ピカチュウなんだしもちろん黄色やろ!と一度は思ったのだが、
これを旅行などではなく日常使いしようとしていた私には、
「黄色って派手だし服装選ぶかな……黒の方が使いやすい……?」という迷いが生じてしまった。
色違いで一生悩めるタイプの私が売り場でしばらくオロオロしていたところ、
一人の女性店員さんが話しかけに来てくれた。
「ピカチュウ可愛いですよね〜❣️」明るくハツラツとした彼女に、
今の迷いどころを伝えてみたところ、彼女は一瞬の躊躇いもなく、こう言った。
「キャリーケースは派手なほどカワイイです‼️」
「キャリーケース持ってる人に対して、『服と合ってるか』とか気にする人いません‼️‼️」
それはそうだ。
なんとなく、自分の中で、根底では「そうだよな」と思っていた部分が、明確化されてとても腑に落ちた気がする。
元々ピカチュウの求めて来てる時点で、キャリーなんて眩しいハデハデが可愛いに決まってるじゃない。
あと、たしかに街中でキャリー引いてる人を見て「旅行かな」と思うことはあっても、コーディネートなんか気になったこともなかったわ。
あぁ、良かった、この店員さんが、
私のどの意見にも「たしかにそうですよね〜😖両方可愛くて迷いますよねぇ〜〜😣」と完全同意するタイプの人じゃなくて。
こんなにも気持ち良く言い切ってくれて。
そして、迷いが完全に消えた私は、つやつやピカチュウカラーのキャリーケースを家に連れて帰り、
早速荷物を詰めた。
お気に入りの鞄も、財布も、化粧ポーチも、全部この中に入れた。
※ちなみに、キャリーケースに入れるとかなり取り出しにくいので、「使う用」のどうでもいい見た目の財布などを別で用意しておくという意味不明な生活様式だった。
それでも、好きな物は肌身離さず「持ち歩く」ことに意味があった。
大好きな鞄を持って、大好きな服を着て、大好きなアクセサリーを身につけて、大好きな靴を履いて出かけられる日は、
きっとまたいつか来る。
汚れから守ることより、「好きな自分でいる」ことを大切にできる日はまた必ず来る。
だからその日まで、大切なもの達はこのピカチュウが、守ってくれるんだ。
思うようにオシャレはできないけれど、泣いてしまう日もあるけれど、
明るいキャリーケースが私と共に歩いてくれる。
そこから数ヶ月間、キャリーケースを引いて仕事に行き、
同僚に「今日はこれから遠征ですか?」と聞かれたり、
帰り道にドン・キホーテに寄る姿がどう見ても中国人旅行者だったりもしたが、
それでも、そのキャリーケースと共に歩んだ時間は、変だけど少しだけ楽しい闘いだった。
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