熊本で世界がぶつかった日
このnoteは、11/30(土)に熊本県で幕を開けた女子ハンドボール世界選手権の開幕戦、日本vsアルゼンチンを終えての感想を綴ったものです。
大会は12/15(日)まで続きます。大会へ興味をもってくれたり、観戦のきっかけになれば嬉しいです。
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正直、行くか迷っていた。
首都圏開催ならまだしも、会場は熊本。千葉に住む僕にとっては距離的に遠い。お金もかかる。
職場で世界選手権の話をしても、返ってくる言葉は「初めて知った」。世間じゃこんなものだよな、ラクビーW杯の影に隠れて終わるんだろうな、とまで感じた。
それでも、世界大会が日本で開催されるなんて一生に一度の機会かもしれないから、勢いでホテルと航空券、そして観戦チケットを押さえた。「楽しみ!」より「買っちゃった…」という気持ちのほうが、そのときは大きかった。
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開幕が近づき、徐々に盛り上がりが形になってきた。有志でグッズを作成したり、各地でパブリックビューイングを企画したり、選手たちが想いを発信し始めたり。
一つ一つは決して大きくない。内輪ノリかもしれない。けれど、日本のハンドボールを「なんとかしたい」と想う人たちが手を取り合って、着実に輪は拡がっていた。
僕自身もそうしたファンの行動や、選手たちの大会への道のりや覚悟を知り、応援せずにはいられなくなった。
そして11月28日。熊本行き前日を迎えた。
ワクワクして寝れない。こんな感覚久しぶりだ。「買っちゃった」なんて気持ちは、吹き飛んでいた。
ただ、不安は少しばかりあった。SNSの盛り上がりとは裏腹に、実際には現地も盛り上がっていないんじゃないだろうか。会場も空席が目立ってしまうのではないだろうか、と。
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そして翌日、熊本に飛んだ。阿蘇くまもと空港では、あらゆる場所にハンドボールを感じた。まずはほっとした。
バスに乗って市街地へ。のどかな田舎道を抜けると、至るところでポスターやのぼり旗が目に入った。中心地では、ツリーがそびえ立っていた。
また、街を歩いていたらスロベニア代表とセネガル代表の選手たちを見かけた。写真を撮りたいと聞くと、快く撮ってくれた。
撮ってくれたついでに「熊本はどう?」と聞くと、彼女たちは「素晴らしい街ね!」と笑顔で答えてくれた。熊本県民じゃないけど、嬉しかった。
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迎えた11月30日、幕が上がる日。
「おりひめライナー」と名がついたシャトルバスに乗る。いよいよ始まるという高揚感と、どれだけ人が集まるかという不安、半々でバスの中を過ごした。
約30分後、会場となるパークドーム熊本に到着。バスを降り、歩道橋を渡る。不安は消えた。
まだ開場まで1時間ほどあるというのに、多くの人が待機列を作っている。時間が経つにつれ、その列はどんどん長くなる。早く開場してくれと、イライラしながらワクワクした。
そして、12時を迎えた。人がドームの中へ流れていく。ボランティアの高校生の笑顔が、とても眩しかった。
選手たちが戦うコートを見た瞬間、気持ちが高まった。吊り下げ式の大型ビジョン、スタンドの傾斜、なによりコートと距離が近い。どこからでも見応えを感じることができる。
ファンゾーンへ向かった。地元の食材を使った飲食ブースは大盛況。子どもたちはストラックアウトを楽しんでいた。
正直に言うと、人の動線や規模感には課題がある。だけど一ファンとしては、この際そんなことはどうでもいい。こんなにも人が集まったことが、ただ嬉しい。
3時半、開会式が始まった。オープニングの和太鼓の音が、僕の心を揺さぶるように響いた。数々のパフォーマンスに、会場からは暖かい拍手が飛んだ。
そして、IHF第一副会長のジョエル・デルプランク氏により、開会が宣言された。
選手たちのアップもあっという間に終わった。いよいよだ。
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待ちわびていた。
国旗を先頭にアルゼンチンの選手、そして日本代表のおりひめ達が勇ましく登場した。見渡せば、人で埋まったスタンド。そして割れんばかりの拍手。不安に思っていた自分がバカらしかった。
鳥肌が立った。素晴らしい会場と大勢の観客の中で、ハンドボールの世界大会が始まる。心の奥底から込み上げてくるものがあった。目には涙が溜まった。
国家斉唱の後、円陣が組まれる。輪がとけると、彼女たちはスタンドに手を掲げた。
その先にいるのは、大会直前に負傷離脱したキャプテン原をはじめ、この試合メンバー外となった選手たち。コートに立つ選手たちは、多くの仲間の想いを背負っている。
そして、笛が吹かれた。9,000人を越える視線がコートに集中する。観客は手拍子で会場を盛り上げ、一つのプレーに歓声を、時にため息を漏らす。控えめに言って、最高だ。こんな雰囲気が日本のハンドボールで味わえるとは思っていなかった。
観客が創る雰囲気に応えるように、選手たちは素晴らしいパフォーマンスを見せた。
Player of the matchに選ばれた大山は常にゲームをコントロールし、相手DFを最後まで悩ませ続けた。
佐々木の力強いロングシュートは日本の得点源となり、世界にも通用することを示した。
相手に流れが与えかけるときは、亀谷の出番だ。彼女のビックセーブは、何度もチームを救った。
センターラインを守る永田と塩田は日本DFの柱。自分たちより一回り大きいPVを相手に、一度も怯むことなく闘い続けた。
らしさを見せたのは多田だろう。途中出場の1プレー目で、持ち前の力強い突破から1点をもぎ取った。
コート上で最もクレバーだったのは石立だ。彼女の時間を作るプレーは、チームに落ち着きを与えた。
書いても書いてもキリがないくらい、観客が唸るような気持ちのこもったプレーを見せてくれた。
中には、良いパフォーマンスができなかった選手もいる。だが、違う選手がうまくカバーしていた。
調子の悪い選手がいても、みんなでお互いをカバーしてプラスに変える。それが今のおりひめJAPANの強みだと思う。
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おりひめJAPANの応援で会場が盛り上がる中、微かだがはっきりと聞こえてくる声援があった。
Argentina!! Argentina!!
アルゼンチンの国旗を掲げて、声を枯らす日本人がいた。アルゼンチンのホストタウン、堺町の方々だろう。
自国以外の国のために必死に声援を送る姿には胸が打たれた。これも、世界選手権の楽しみ方だ。
熊本の街には、ハンドボールを観戦に来た多くの海外の方を見かけた。彼らと一緒に盛り上がることも、忘れられない思い出になるだろう。
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夢のような時間は、あっという間に終わりを迎えた。試合終了のブザーとともに、大歓声と笑顔が会場を包む。
24-20。退場が重なり6人で戦う時間が増えたが、失点は20で抑えた。ハードな合宿の成果が現れていた。
おりひめ達は、ウルリック監督らスタッフ陣に促されコートを一周する。すると、スタンドからたくさんのファンがコートサイドまで降りてきて、ハイタッチ。共に喜びを分かち合った。
これが見たかった。
選手、スタッフ、ファン。それぞれの立場は関係ない。ハンドボールで繋がった仲間として、同じ感情を共有する。そこに古参やにわかの概念はない。日本のハンドボールが目指すべき姿を垣間見たような気がする。
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ハンドボールを文化にしたい。
おりひめJAPANの選手たちが、口々にする言葉だ。同じことを多くのファンも思っていることだろう。
残念ながら、このあとのロシアvs中国の試合は満席とはならなかった。これから空席が目立つ試合も増えるだろう。文化と呼ぶには、ほど遠い現実がある。
ハンドボールに一発逆転はない。3ポイントシュートが無ければ、1トライ5点という概念もない。追い付くには、勝つためには、1点を積み上げるしかない。文化を創るということも、同じことだろう。
小さな石を積み上げていくしかない。コツコツと。そうすれば、大きな石垣になる。震災から立ち上がる熊本城を直に見て、強く感じたことだ。
大会は始まったばかり。各国のチームは素晴らしい試合を魅せてくれるはずだ。
この大会が世間的にどのように見られているかはわからない。たけど僕は確かに見た。おりひめ達の勇敢なプレーと、それに沸く9,000人の観客を。あの景色は、この先も忘れることはないだろう。
未来のハンドボールに関わる子どもたちに、同じ景色を見せてあげられるように、自分にできることをこなして、石を積み上げていきたい。
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選手のみなさん、呼び捨てにしてすみません。笑
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