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Let's BEnjoy vol.5 期間限定無料公開「クローズアップ阪大のトイレ~生理用品無料配布からこれからのトイレ像まで~ MeWプロジェクト篇」


まえがき

無料公開の理由

この記事をご覧いただきありがとうございます。
我々大阪大学トイレ研究会が毎年発行している「Let's BEnjoy」という会誌の一部記事を期間限定で無料公開いたします。

この時期は新歓や学祭の時期であり、阪大トイレ研究会がどのような活動を行っているのかを多くの方に知っていただくために公開する運びとなりました。
新入生の方はもちろん、2回生以上、大学関係者、あるいは外部の方すべての方に大阪大学トイレ研究会がどのような活動を行なうサークルなのか、その一端だけでも知っていただけますと幸いです。

もし、この記事や活動を見て興味を持った、あるいは入会したいと思っていただいた場合はX(旧Twitter)アカウントかメール( handaitoilet@gmail.com )にご連絡していただければと思います。
また、Let's BEnjoyをすべてご覧になりたい場合は以下のサイトで電子版を購入することができますので、ぜひそちらもよろしくお願いします。

また、この記事に対する感想や意見も募集しております。ぜひ質問箱にお願いします。

この記事の選定理由

 前述したように活動内容を知ってもらうためでもありますが、それだけでなく、大阪大学のトイレについて知ってもらうことも我々の活動目的の一つにあります。
 「クローズアップ阪大のトイレ」という記事はその目的に沿ったものでもあるため、今回公開することとしました。

 授業開始1週間が経ち、女子トイレ・多目的トイレを利用された方のなかにはお気づきの方もいらっしゃると思いますが、大阪大学では生理用品の無料配布を実施しています。
 この取り組みは、多くの女子トイレや多目的トイレに特製のディスペンサーが置かれていて、そこから自由にとることができるというものです。現在の設置状況は以下のマップや表からご確認いただけます。

 この取り組みがどのように行なわれているのかを取材したものが「クローズアップ阪大のトイレ~生理用品無料配布からこれからのトイレ像まで~」という記事です。大学全体で実施しているダイバーシティ&インクルージョンセンターと、その取り組みを始めたMeWプロジェクトの方々に取材した記事の2つがあります。

 今回はなぜ無料配布を始めたのか、どのように大学全体で実施するに至ったのかを知っていただくとともに、大阪大学でトイレに関する取り組みを行なっている団体の紹介もかねてMeWプロジェクト篇を公開することにしました。

※以下の内容は取材当時(2022/9/19)のものです。現在は異なる可能性があります。

インタビュアー:🐟🦆

本編

MeWプロジェクトメンバーの自己紹介

杉田 映理 先生(以下:杉田先生)
 じゃあ一応年齢順ということでトップバッターで(笑)。大阪大学人間科学研究科の共生学系、学科目で言うと共生学科目の中の国際協力学の教員をしています、杉田と申します。
 またインタビューの中でゆっくり話できればと思いますけれども、国際協力学ということで「なんで生理用品?」という感じがあると思うんですが、元々アフリカの月経問題を研究していて、国際比較みたいなことをやる中で日本も月経対処がすごく遅れてるねっていうことで、そこからアクションリサーチであるMeWプロジェクトへと繋がりました。よろしくお願いします。

アクションリサーチ
社会の課題に対して、研究者と個々の問題の当事者が質的な研究方法(主にインタビューや参与観察など)で解明し、得られた知見を社会生活に還元することを目的とした実践と研究を統合した研究法である。

小塩 若菜 さん(以下:小塩さん)
小塩若菜と申します。私は人間科学研究科の共生学系の国際協力学の博士前期課程の2年生です。杉田先生の研究室にいます。
 修論では日本の月経教育について書こうとしていて、今高校生にアンケートを取ったりとかフォーカスグループインタビューをしようとしているところです。日本の月経教育はすごく遅れているなと思うので、そこに対してちょっとでも問題提起できたらなっていうふうに思っています。
 もともと学部は大阪大学ではなくて東洋大学で、その時に杉田先生のゼミに入っていたんですけど、女性のエンパワーメントに関心があって。で、国際協力についてやりたいなと思っている中で月経というテーマを知ったんですね。途上国の女の子たちが月経対処で困っているっていうような問題を知ってそこから研究というか、月経について考えたりするようになりました。
 で、阪大に入学して、4月でしたよね。夕方くらいに急に電話がかかってきて、研究室に行ったら急に「クローズアップ現代」の生理に関する特集を見させられ…(笑)。で、(杉田先生に)「一緒に日本の月経問題のアクションリサーチやろうよ。」みたいなのを言われて、「はい、やりましょう!」となりました。そういうところから私と杉田先生と、国際協力の事務補佐員の秘書さんと三人で最初にMeWプロジェクトをスタートさせたというような感じです。よろしくお願いします。

フォーカスグループインタビュー
対象者を共通した属性を有するグループに分けて、調査テーマについて質問し、自由に発言をしてもらう形式のインタビューのこと。

三浦 遥 さん(以下:三浦さん)
 私も人間科学研究科の共生学系の国際協力学、今M1ですね。博士前期課程1年生の三浦遥と申します。
 私も若菜さんと一緒で杉田先生のゼミの学生なんですけれども、私は今年の4月に入学したので本当にプロジェクトの最初のベースの部分ができた状態からの参加で、4月からたくさんの嬉しいお話、いろんなイベントとかが舞い込んできてて、すごい楽しく参加させていただいてるような感じです。
 研究テーマなんですけれども、私も月経教育のところをずっとやってみたいなと思っています。学部生の頃にネパールのボランティアに行ったことがあるんですが、ネパールの田舎の小中学校のトイレはすごく衛生環境が悪かったり、一緒にボランティアに参加した人が急に生理になっちゃってどうしようとなりました。そういうところから生理用品であったり、世界のトイレの衛生状況に興味があって、このゼミに参加したようなかたちになります。今は男性教員に対する月経教育というところにアプローチをかけていまして、今ネパールの保健の教科書の改訂時期らしくて、そこのプロジェクトにも参加させていただきました。ネパールって男性の教員がすごく多い国なので、この男性に向けてのアプローチをどうしていこうかなというところを修論で書く予定です。よろしくお願いいたします。

Mewプロジェクトとは

杉田先生
 経緯というところで言うと、私たちとして強調したいのは、生理ブームっていうのがある意味今日本に来ているけれども、それに急遽乗っかったってわけではない。

小塩さん:ではない。

杉田先生
 そうそうそう。
 でもそれがすごい追い風になって、MeWディスペンサーをメディアで取り上げていただいたりとか、いろんなところに関心を持っていただいているところがあるんですが。先ほど申し上げたように、元々は世界的な潮流の中で月経対処というのが大きな課題になっていて、そういう世界的な背景を踏まえているからこそ、うちの国際協力学が取り組んでいる意義もあるのかなって思います。私自身はアフリカで月経の研究をしていて、その後2017年から2020年まで科学研究費っていうのをもらって国際比較をしていました。
 ちょっと宣伝になるんですけれども一応その成果として、『月経の人類学』という本を出しました。そういう研究をする中で、日本の月経問題をちゃんと考えようというのが背景としてありました。
 で、コロナで海外に行けないことも理由としてはあったんですけど、私は日本の月経問題を調査しようと思ってたんですね。ニーズ調査をしてその結果を踏まえて、何かしらのアクションリサーチを取りたいと思っていて。
 実は生理用品の無償配布っていうのは途上国とかあるいはアメリカのいくつかの州やヨーロッパで既に行われていて、日本にもそれが必要だという認識はあったんですね。それに、(無償配布を)やるとしたらトイレの中での提供が必要だろうという認識もあって。
 だけどもまずはニーズ調査だなと考えていたところに、丁度去年の3月に、「#みんなの生理」っていう(当時)学生の任意団体が学生に対してアンケート調査を行って、学生の中にいわゆる経済的理由で生理用品が買えない人が5人に1人いるという調査結果を公表しました。
 それが一挙にマスコミとかにも取り上げられて大きな社会問題として認識されたんですよね。ちょうどこちら(杉田先生側)がインタビューというような形で子ども食堂に行ったりとかしたいなと思っていたところにそういうニュースが一気に広まったので、もうニーズ調査してそこからアクションっていうのは時間がもったいないなと思って。
 いきなりニーズありきでアクションリサーチを始めようということで、とにかくトイレの中で無償で生理用品を取れる仕組み作りをしようと、そこからMeWプロジェクトがスタートしました。

ディスペンサーの開発について

杉田先生
 まず(生理用品を配布する箱は)どんな形が良いんだろうっていうので、最初はカプセルに入れてガチャガチャみたいな感じにして(生理用品を)おろすのがいいんじゃないかとか、マクドナルドのストローが出てくるみたいな感じでポチっと押してタンポンが出てくるようにした方が良いんじゃないかとか。あと紙コップがシュッシュって出る装置がありますよね、ああいうのを応用できないかとか、色んなものを取り寄せて実験してるっていう期間がありました。そういうのをやり始めたのが3月ですかね。
 4月に若菜さんが入学してこられたので月経研究ということで引っ張りこんだんですね。それと秘書の山本さんっていう女性が、本来は事務補佐員の役割ではないんですが、個人的にすごく関心を持ってくださっていたので、3人でこういう形がいいんじゃないか、ああいう形がいいんじゃないかとか、その中で必要な要素を洗い出していきました。
 女性のウェルビーイングっていうことが1つ大切なことだったんですけれども、もう1つ、環境配慮というところはやっぱり大切にしたいねっていうのがありました。で、実は最初、ディスペンサーの形が(PLA製のものと段ボール製のものと)2つあったんです。

ウェルビーイング(well-being)
直訳すると「幸福」。厚生労働省は、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」と定義している。

全学での配布の際に採用されなかったPLA製ディスペンサーについてのお話は、電子版および冊子版に記載されているQRコードから読むことができます。

2024年3月追記

小塩さん
 段ボールの方はタマパックさんっていう大阪の段ボール会社さんに協力していただいて制作しました。最初の打ち合わせの時に私たち、プリンターのインクの箱を3つ並べて下に出口を作って、上からナプキンとタンポンをいれられるようにした試作品を持って行ったんです。それを基に一緒にディスカッションしながら作っていったんですが、段ボール会社さんならではの工夫がすごかったんです。

杉田先生
 段ボールだからこそ、微調整が割と簡単にできる。段ボール会社さんはカスタマイズすることに慣れていらっしゃるから、「この角度を15度じゃなくて17度にしてください」って言ったら「じゃあ」って言って調整してもらえる。箱の中の傾斜の調整とかもしょっちゅう打ち合せしながら共同開発っていう感じでやらせていただきました。

人間科学部棟での実証実験について

小塩さん
 教員をやってる院生に、私がMeWディスペンサーを学校にいれたいんだって話をした時に、やっぱりいたずらをされるのが不安だという声がすごくありました。中学生とか高校生とか、たくさん一度に(生理用品を)取られてしまうんじゃないかとか、落書きとか壊されたりするんじゃないかみたいな心配をされたりしました。

🐟
 確か全学にディスペンサーが置かれる前に、人間科学部の方でMeWプロジェクトさんが実験してデータを取っていたということをお聞きしたのですが、その時はたくさん生理用品を取る方はおられたのでしょうか?

杉田先生
 プロジェクトのフェーズの概略を言うと、いわゆる開発段階が去年の3月から8月くらいまであって、去年の9月から今年の3月ぐらいまでが実証実験段階で人間科学研究棟で、(生理用品無料配布を)やったんです。

小塩さん
 人間科学部(以降人科とする)に関しては、女子学生でチームを組んで補充をしていました。2021年度の時には私含めて4人の女子でチームを組んでいました。その時は実証実験段階ということで(ディスペンサーを)トイレ内の共用部に1つと個室に1ついれていました。週に1回1時間だけ本館チームと東館・北館チームの二手にわかれて補充に行ってたんですけど、減るトイレもあれば全く減らないトイレもあったりして、トイレの利用度っていうのが見えてくるのが面白かったです。
 使いたくないトイレには誰も入らないし、入られないトイレの生理用品は取っていかれないという感じです。 
 やっぱり(生理用品が)ごそっと無くなる場所はありますが、それは別に良いと思っています。私たちの最大の目的は女性のウェルビーイングの向上ですが、本当に切実な理由でどうしても必要な人もいると思うんですね。もう全部、1か月の中の1週間分必要な人もいると思うし。
 逆に生理の貧困だとか、生理ってかわいそうなものだというふうにしてしまうと、余計に月経がスティグマ化されてしまって、助けを求められなくなったり、困っていると言いづらくなってしまう。そうじゃなくて、全員に(生理用品の無料配布を)することで、本当に困っている人もアクセスしやすくなるっていうところが私たちのやっていることのすごく重要なポイントだと思っています。

杉田先生
 そうなんですよ。だから「生理の貧困対策」っていうふうに私たちとしてはあまり書かれたくないっていうところがあります。今若菜さんが言ったみたいに、本当に生理の貧困で困っている人だけがターゲットっていうことになると、彼女たちも取りにくくなるのでは。
 実は、1年生対象の阪大のある授業で聞いたときに、93%の月経経験者が「生理用品を持っていないときに、急に月経が来てしまったことがある」って言ったんですね。その時にトイレに、トイレットペーパーと同じように生理用品があることで、「月経で困った」「やだな、どうしよう」みたいなものが軽減される。長期的にいくと、そういったことも女性のウェルビーイングにつながるだろうというふうに考えています。
 先ほどおっしゃっていた、(生理用品が)ごそっと無くなった時対策ということについて、これは小塩さんに。

小塩さん
 はい。モニタリングしている中で時々「ちょっと…」って思うのが、多分(ナプキンが)2枚取れちゃって1枚いらないから置いていってくれたのか、生理用品が(ディスペンサー)の蓋の上に置いてあったりとか、あと外蓋と内箱の間に挟まってたりとか…。
 あとは、私たち生理用品の入れ方とか向きをすごい決めてるんですね。でも上から見たときに向きがかわってたりとかして。もしかして誰か上から(箱を)開けて手を入れてないかなとか、生理用品が選ばれてないかなっていうような懸念が、本当に1件、2件くらいだけですけどあって。やっぱり衛生的にもマズいですよね。
 私たち補充メンバーは必ず手を消毒してから補充するようにしてるんですね。なので不特定多数の人が触れるのは良くないので、どういうふうに対策しようかめっちゃ議論しましたよね。何週間にもわたって。
 その結果ディスペンサーの外箱を開けたときに、開けた人にしか見えない張り紙を貼ったんです。内箱の頭に。
 「ふたを開けないでください」というのと、「もし多めに生理用品が取れちゃって要らない場合でも持って帰ってください。友達にあげたりしてください」というのと、「どうしても沢山必要な場合は阪大のキャンパスライフ健康支援・相談センターで、パッケージで配っているので取りに行ってください」っていうような内容を書いてキャンパスライフ健康支援・相談センターのQRコードをつけて貼りました。

 なんで開けた人にしか分からないようにしてるかっていうと、トイレの中に「トイレットペーパーを盗まないでください」とか「いたずらしないでください」とか、そういう張り紙って結構あるじゃないですか。
 そういうのって見ると、「あ、やってる人いるんだな」とか「やってる人がいるんだったらちょっとぐらいいいかな」みたいな心理になってしまう人もいるかなと思って。私たちはこのプロジェクトをすごい大事にしていて、で、すごく応援してくださる方もいっぱいいます。そういう人の気持ちを大事にしたいので、開けた人しか分からないようにしました。

 Menstrual Wellbeingっていう私たちのスタンスを表しているなと思うのが、ディスペンサーにTake one pleaseっていうふうに表記しているこの「おひとつどうぞ」っていう文言です。あれも結構議論しました。まあいろんな書き方があると思うんですね。
 例えば生理の貧困対策で(生理用品を)置かれているところとかは結構、「これは生理の貧困でお困りの方に配布しているものです」とか、「どうしても経済的に必要な方はお持ち帰りください」みたいな書かれ方をしていて。やっぱりそれはさっきも言ったように、月経は自然な現象であって、かわいそうなものではないので、そういった文言は使いたくなかった。
 でも「ご自由にどうぞ」っていうふうに言えるかというと、まだまだ予算の部分も心配されていたし、ごそっと(生理用品が)取られてしまうっていう批判も考えられるし、現実的には補充も頻繁になってくるっていうところで、どうしようかなってなりました。そこでシンプルに、「おひとつどうぞ」でいいんじゃないかということにしました。

🐟
8月にD&Iセンターさんの方にもお話を聞きに行ったのですが、そこでも生理用品の無料配布を生理の貧困のためにしているわけではないという点を強調されていました。

(D&Iセンターの話のなかでで、大学全体で使用されているディスペンサーの話に移る)

配布している生理用品の種類について

🦆
ディスペンサーに「pads1/pads2/タンポン」とだけ書かれていて、どれが何なのかわからなかったけどポスターで分かったと友人が言っていました。複数種類があるのにはどのような意図があるのでしょうか。

↑人間科学部棟に設置されているディスペンサーの表示
↑大学全体で展開されているディスペンサーの表示

杉田先生
 3種類あるのは、3種類あることによって選択するときに一瞬「あ、どれにしようかな」と考えて、自分の体とか環境問題とかとほんの数秒でも向き合うことになればという想いでしてたんですね。
 でも、おっしゃるようにどれが何かわかんないっていうので、ポスターを作成して、いま一応全ディスペンサーの、基本的に上か横かに貼ってあると思うんですが、そこには解説してあるんですね。では、ノンポリマー/ポリマーについて三浦さんから。

三浦さん
 一応ディスペンサーの表記には、「Pads1/Pads2/タンポン」とありますが、「ナプキン/ノンポリマーナプキン/タンポン」の3種類が入っています 。Pads1の方がノンポリマータイプではない普通のナプキンで、Pads2がノンポリマーになります。タンポンは1種類を採用していまして、その3つの中から選択するっていうところが私的にはすごい良いなと思っています。
 やっぱり最初はお母さんが使っているナプキンを使うのが当たり前だと思うんですね。初めて経血が出て、お母さんに渡してもらったナプキンに慣れていく。私もそうだったんですけど、お母さんでも知らない製品がたくさんあって、どの製品が自分にあっているかっていうのは使ってみないと分からない。
 そこで、(3種類の生理用品を提供することは)「無料だから(使ったことのないタイプの生理用品を)使ってみよう」「意外と自分の身体にあってた」というふうに、選択の可能性というところですごく重要です。ウェルビーイングにつながっていくというところで、ナプキン2種類とタンポンを入れています。
 タンポンは欧米では主流なんですけれども、日本ではやっぱりまだまだ主流ではなくて、人科内のディスペンサーの補充も本当にたまにですね。使う人は限られているんですけれども、でも例えばもうすぐプールに行くし、温泉に行くし、試しに使ってみようかなっていうところから、自分の素敵な生理ライフが広がっていくのに繋がったらいいなという思いで3種類を設置しています。

杉田先生
 欧米からの留学生もいるしね。
 もう1つ補足すると、(ディスペンサーの)中箱を見ると実は大きさがちょっと大きいものと小さいものがあるんですね。阪大ではポリマーとノンポリマーの2種類をいれているけれども、場所によっては多い日用と普通の日用とか、大きさの違うナプキンの使い分けをしてもらってもいいのかなっていうふうに思います。

難しいと感じるところについて

🦆
 実施に至るまでや、実施している最中に起きた予想外の問題や、想定内だけど大きな問題があれば教えていただきたいです。

杉田先生
 私から言うと、人科の場合は学生さんに(生理用品の補充を)アルバイトでやってもらっていて、その労務管理は私がやっているんですね。こうすることでわずかながらも学生の手当にもなるし、私のゼミ生じゃない人も参加してくれていろんな意味で月経問題と向き合う機会になっていて、教育的意義がすごくあると感じているんですね。
 ただ、これを全学展開っていうところに持って行く時に、女子学生さんに補充作業をできればやってもらいたいと最初の提案書では書いていたんですけれども、労務管理とかサステナビリティとかいうところで、結局トイレ清掃をしてくださっている方々に補充して頂くことになりました。こうなるとすごい利用頻度が高いトイレは、補充が追いつかない時もあるようなんですね。
 空だと、使う人も「あれ?」ってことになるし、この取り組みに対する評価というのはやっぱり結果的に下がっていくことになるので、どうしたら改善可能かなって今思ってるところですね。

現在では補充・不具合等の連絡用QRコードが設置され、改善に向けて進んでいます。詳細はvol.6に記載されていますので、興味がある方はご購入していただけますと幸いです。

2024年3月追記

小塩さん
 私が色々な経験をした中で思ったのは2つあって、1つは人科ってすごくやりやすかったんですよ。最初実証実験を人科で始めた時は、すごいトントン拍子で進んでいくなと思ったんですね。もっと偉い立場にある先生とか批判してくるのかなって思いきや、全然男性も女性も関係なく受け入れてくださったんですね。
 あとやっぱり私たちのチームに山中先生っていう男性の先生がいたっていうのは大きいのかなって思っています。日本はやっぱり男性優位な社会だと思うんです。そういう中で、こう、女性のことを何かしようと思ったときに女性だけではできないと思っていて、上にいる男性と話が通じる男性がチームに居ることが重要だと思うんですね。
 それは必ずしもジェンダー問題とも言い切れないかもしれないけど、どこかその要素があるだろうなって感じていました。

杉田先生
 例えばさっき話した奈良理事も男性なんですけれども、理解を示してくれる男性がいてくれるっていうのはすごく大きいなとは思います。

小塩さん
 やっぱり話がスムーズだと思います。だからこそ多目的トイレにディスペンサーを置いて、女性だけじゃなく男性の目につくっていうのもすごい重要だと思うんですよ。性自認が違うっていういろんなジェンダーの人にも(使ってもらえる)っていうのもあるんですけど、男性の先生に説明をしやすいです。そういう工夫をしています。

杉田先生
 🦆さんもね、女子トイレとかは入れないですけど、多目的トイレだったら別に見られますよね。

男性と月経理解について

🦆
 そこの話で言うと、個人的な悩みというか考えごとなんですが、男性は何をどこまで踏み込んでいいのかと思っています。物理的な空間に立ち入るのもそうだし、心理的な面でも、何て言うんでしょう…生理の時の変化とかどこまで聞いていいのかとか…。いったん取材だからということで置いておいたんですが、友達と話をするときも結構難しいなと思っていて。そこらへんについてどう思われますか。

杉田先生
 三浦さん、ぜひあのエキスポシティとか、この間のイベントの話とかシェアしましょう。

三浦さん
 はい。大きなイベントに3つ出させていただいたのですが、その中の最初の2つには、女の子のお子様がいるお母さんもたくさん見に来られたんですけれども、一緒のお父さんの行動パターンは2つあったと思います。一緒に来られて「こんなコーナーがある、知らなかった」と見て下さる方もいるんですけど、一方で「違うブースにいてる」と言って来てくれないお父さんもいらっしゃって。
 やっぱり男性の方には、「(生理の話に)触れちゃいけないんだ」とか「自分の娘が大きくなった時に(生理について)知っていたいけど、この場にはいない方が良い」と思って来ていただけなかった方もいらっしゃるんですね。けどお母さんが生理用品を男の子とかお父さんにも見てもらって、自分が何を使っているとかを話されていたりするご家庭もありました。女性からしたら、生理について知ってくれることは本当にウェルカムなんじゃないかという印象を受けました。
 あと、いつ子どもに(生理について)話すのか迷うっていうお母さんもたくさんいらっしゃいました。そこでは、まだ生理が始まっていない段階で「これ使ってるんだよ」とか、「一緒に生理用品売り場に行ったりネットで見るだけでも抵抗がなくなる」というような話をしました。
 なのでご質問にお答えすると、明らかに嫌な顔をされたらダメだと思うんですけど、やっぱり(男性に)理解しようとしてもらえないと、どんな経験があったかということを言っても分からないんですね。それに身体的な痛みがなかったとしても、精神的な痛みが起きやすいというところを知ってもらうだけで、すごく生活しやすいので、そこはどんどん踏み込んでいただいても大丈夫だと思います。

🦆:ありがとうございます。

小塩さん
 あと箕面キャンパスのイベントに男子の中高生もボランティアに来てくださって、一緒にブースに立っていただいたんですね。
 中高生に対してMeWプロジェクトの背景とかをお話させてもらった時に、「生理用品にも課税されてるんだよ」っていう話をしたら、女の子たちは「そんなの仕方ないじゃん」みたいな雰囲気なんだけど、「そんなのおかしい!」って1番に男子の中高生たちが言ってくれたんですね。理解するってそういうことなんだと思います。

杉田先生
 三浦さんの研究テーマにも結びつくと思うんですけど、日本の、特に男子に対する月経教育っていうのは、ものすごい課題があると思うんですね。一応今の学習指導要領では、月経の仕組みみたいなのは習うけれども、現実としてどのぐらいの頻度でどのぐらいの経血量が出てどれだけ女の子が大変な思いしてるのかみたいなところっていうのは全然習わないですよね。しかも、🐟さんとか 🦆さんはどうだったかわからないけど、女子だけ修学旅行の前に違う部屋に連れて行かれて、旅行の時に生理用品持ってきた方がいいですよって言って、生理用品の使い方とか捨て方とか習って、みたいなのやりましたよね。その時点で男子には知られちゃいけないことみたいな感じがある。

🦆:一応そういうのだろうと予測はつきますけど、立ち入らない方がいいだろうっていうのは感じました。

杉田先生
そうそう。「立ち入っちゃいけない」という雰囲気を学校教育の現場で醸し出すわけじゃない?確かに「君今生理中なの?」とかっていうのはセクハラにあたっちゃうかもしれないから気遣いは必要だけど、やっぱり月経の時にどんな身体現象が起きてどのぐらい生理用品というものが必要なのかっていうことを知らないと、例えば避難所での生理用品支給の対応は難しいですね。
 というのも、避難所で長い時には1週間2週間以上生活するわけですよね。そうすると月経がある人(女性)全体の5分の1から6分の1は月経中ってことになる。その人たちの月経対処になかなか手が届いてないんですね。ネット上であがっている事例で、男性がよく分からなくて1枚ずつ(生理用品を)配りましたとか、月経があるってことがはしたないとか、こんな大変な時に何を言っているんだみたいなことで怒られたりとかいろいろ問題が起きている。それはやっぱり根本的な月経に対する知識不足で、ある意味それは彼らが悪いわけではなくて、そういうことを教えてこなかった日本の学校教育にやっぱり問題があるんですよね。
 なので知ってもらうべきことはおおいに知ってもらいたいと思うし、やっぱり知ってもらうことで少しでも寄り添う気持ちが生まれれば、中学生ぐらいで「生理やーい」みたいにいじめることも、単純化はできないけれども、少しはなくなるかもしれない。
 あと物理的な空間というところで言うと、MeWディスペンサーを入れてくれている中学校の取り組みで、なるほどと思ったのが、(ディスペンサーの)中箱が取れるので、その中箱を保健室に持ってきてそこで生理用品を補充してるらしいんですね。で、その詰める作業に男子も加わっているっていう事例がありました。それはいい方法だと思ったし、うちのプロジェクトではないけれども、奈良だったかどっかの小学校で、生理用品をそれこそ百均のあの透明のパウチみたいなものにいれていて、トイレから保健室に持ってきて、その補充は男子がやるという事例もありました。(男性が)女子トイレの中に入るっていうのが今の日本の社会でタブー視されている中で、そういう関わり方があるんじゃないかって思います。

小塩さん
 もしよかったら『フェミニスト現象学入門』っていう本が(男性が生理の問題に踏み込むことを)セクハラなんじゃないかっていう心配に対する回答と、その理由を教えてくれる章があるので、ぜひ読んでほしいと思います。

今後の展望について

🐟
 最後にもう少しだけこれからの展望というか、例えばMeWプロジェクトさんの方でこれから阪大のトイレで実現したいことがあったりとか、現在の大学のトイレの問題点っていうのを今までもお聞きしましたが、そこをどう変えていこうと思われてるかをお聞きしたいです。

杉田先生
 私自身は、まずMeWディスペンサーについて言うと、やっぱりもっと普及したいなっていうふうに思ってますね。おかげさまで他の大学でも(ディスペンサーを)導入してくれたり、あと自治体で入れてくれてるところもいくつかあったり、あといくつかの高校でも実証実験的に設置しています。それがだんだん広がることによってウェルビーイングが日本で向上すると良いなっていうのが1つあります。
 もう1つ研究っていうところで言うと、若菜さんも三浦さんも月経教育っていうことに関心持たれてますし、私もそうで、やっぱり月経教育なんとかしなきゃ、なんて大げさだけど、なんとかしたいですね(笑) 。
 月経前教育から始めて、月経が始まる前から(生理を)自然なこととして(扱うようにしたいですね)。日本って今(生理が)隠され過ぎていると感じます。例えば妊娠してる人ってお腹が自然に大きくなるから見えるじゃないですか。でそういう人が社会にいたら、お腹が大きくなって生まれるんだなと(わかる)。例えば、月経小屋があるような社会は「女性を隔離して悪いこと…」みたいな感じでネガティブな面ばっかりハイライトされているんですけれども、ある意味そういうものがある社会では月経っていうものは可視化されていた。今は全部が隠されてタブーになって余計に知りにくいと思うんですよね。
 そのあたりも含めて月経教育をどうするかっていうことを月経前からそれこそ閉経まで、ライフコースのこととして捉えて、教育について考えていきたいなあっていうふうに私は思ってます。

小塩さん
 私も(ディスペンサーの)普及というところにどんどん関わっていきたいなと思いますし、個人的には月経にまつわる勉強会っていうのを、去年4回やらせてもらって、今後は研究会に格上げをしたので、引き続きやっていきたいなと思いますし、それが月経教育っていう社会に普及して行くものの前段階としてできたらいいなというふうに思っているところです。
 あと個人的には外部の機関でも月経について啓発できるような機会を作れたらいいなと思っています。

三浦さん
 8月の下旬ぐらいにチュニジアに渡航しておりまして、チュニジアはイスラームの国なんですけれども、半分くらいはイスラームで残りは別の宗教っていう自由な国だったんですね。トイレにシャワーがついてたり、個室に生理ナプキンを捨てるゴミ箱がなかったり、国によってトイレ文化が違うんだなっていうところがあったんですね。これからどんどん日本はグローバル化して色んな国の方々が住むような国になっていくので、いろんな宗教の方が住めるようなダイバーシティについて今後勉強していきたいなと思ったので、若菜さんがおっしゃってた勉強会というところでタッチしていけたらいいなっていうのがあります。
 あと男性の参加者をどんどん増やしていって、大学機関なのでこういう研究もあるんだぞっていうことを男性の研究者の方にも伝えていきたいなというのが1番の目標です。以上です。

🦆🐟:ありがとうございます。


文責:大阪大学トイレ研究会 🦆


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