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むこう側の演劇宣言

「むこう側の演劇宣言」


 劇場を剥奪された演劇に、演劇は可能か。という問いに私は直面している。あるいは現代演劇は、劇場という創造的かつ想像的な空間に共依存しすぎていたのではないか。そんな風にさえ思える。2019年までは東京オリンピック後の日本をどう生きるか、が議論され考え巡らされてきたはずの演劇界隈は、いま、その議論の記録さえ忘れ去られ、未来の演劇の理想像を大きく軌道修正しなければならなくなっている。劇場経営者にとっては、どのように劇場での演劇を再開すればよいか、そのガイドラインの作成が未来を左右している。私のような劇団を率いる者にとっては、いかに俳優やスタッフへのリスクを減らしながらクリエイティビティを保ち続けることができるか、つまりこのような状況においてさえも演劇をつくるという姿勢を示せるか。劇作家にとってはむしろ、いま、この現代社会こそ見つめるべきことの多さに気付き、筆を走らせているかもしれない。
 例えばレコードやラジオの登場によって、それまで生演奏こそが音楽と思われていた音楽界に革命が起こった。映画館での上映こそが映画だと思われていた映画界にはストリーミング配信が革命を起こした。小説も電子書籍の登場によって物量から解放された。では演劇は?といえば演劇の定義を覆すかのような技術革新がこれまでに起こったわけではなかった。演劇は"場”に強く依存してきた。劇場公演であろうと野外公演であろうと、観客がその場へ赴き観賞するものが演劇である。その制約から演劇が解放されることはなかった。そしてそれはこれからもないだろう。場の共有こそが演劇の根源的なアイデンティティなのだ。
 であれば、オンライン上のアバターだけが存在するような空間つまりは”場”でさえも、演劇は可能であるとはいえないか。いま台頭しつつあるZOOM演劇なるものも、ZOOMが”場”であるからこそ、観客が集い演劇が成立しているのではないか。観客が赴く場所は、劇場であろうと野外であろうとオンラインであろうと、場であることに変わらないのだ。劇場を剥奪された我々は、新たな場をみつけ、その場所を劇場とすることができる。かつて河原にシートを敷いて「さあこれから面白いことやりますよ」と大声出してパフォーマンスし物を乞う、誰が決めたのかわからない”演劇”はそのようにしてできあがってきた。寺山修司はかつて街を劇場にした。つまり、いかなる状況下においても、我々はそこにシートを敷きさえすれば演劇を行うことができる。
 たしかに、新しい形式の台頭に訝しがり嫌悪し時に揶揄しさえするのが人である。上述のレコードの登場、ストリーミングの登場、電子書籍の登場の裏には、もともとのスタイルを愛すればこそ新しい形式の登場を歓迎しない人々がいたことを、なにもマーティンスコセッシがNetflixに対して疑問を示した一件を参照せずとも想像に難くないと思う。私自身、脊髄反射的にオンライン演劇を行うということはできなかった。抵抗があったからである。この抵抗が解けるまでに熟考が必要であった。そして熟考の結論は、新たな演劇の形式を追求することに迷わないということであった。
 これから、範宙遊泳はオンラインをも”場"と考え、演劇を行う。なにもこれは、範宙遊泳はYouTuberになりますという宣言ではない。それは断じてない。その場しのぎの、劇場公演が再開されるまでの”繋ぎ”としての活動でもない。それも断じてない。私たち範宙遊泳は劇場を剥奪されたとしてさえ、演劇を続けるという宣言である。また、劇場が再開されたとしても、オンライン上に劇場をつくりだすことをやめるつもりはない。という宣言である。

 なんだかいささかかしこまった文章になってしまいましたが。この試みを「むこう側の演劇」と題して活動してゆこうと思います。むこう側の演劇、よろしくお願いします。いつもの演劇、が戻ってくることを望んでいることに変わりはありません。演劇は一度死んだのです。でもこれから蘇ります。
2020年5月某日 山本卓卓


むこう側の演劇の条件(2020年5月時点)


1.  生であるかどうかは重要ではない。言い換えれば”生でなくとも”演劇を追求しなければならない。

2.  パフォーマーが観客を意識し、観客にみられている想像をしていること。例えばレンズの奥に客席がある。そして実際に、鑑賞者が存在すること。

3.  時間の改変をアプリや編集ソフトを用いて行わない。つまり基本的に一本撮りでなければならない。

4.  演劇的な想像力・身体の飛躍がなくてはならない。例えば屋外の芝生の上で撮影or配信を行う場合、芝生の上を家のリビングにするなどといった見立てが、映像の編集に頼って合成などで表現されるのではなく、あくまで人物や物の配置や俳優の想像力、演技・身体表現で見せることが思考されていなければならない。

5.  4のうえで、たとえば歌舞伎における書き割りのように合成が用いられる場合それは許容される。

*演劇的表現とは置き換え、見立て、への目配せのことである。


[公演情報]

むこう側の演劇
『バナナの花』#1

作・演出:山本卓卓
出演:埜本幸良 福原冠

編集・ウクレレ:埜本幸良
イラスト:たかくらかずき
制作助手:川口聡
制作:坂本もも

助成:公益財団法人セゾン文化財団
​企画製作:範宙遊泳

2020年6月5日(金)20:00より配信開始
範宙遊泳​YouTube公式チャンネルより、チャンネル登録をお願いいたします。


料金:無料
作品を気に入っていただけましたら、ドネーション(どねる)や下記noteのサポート機能でご支援をお願いいたします!
いただいたご支援は、本作や今後の作品制作費に充てさせていただきます。


yamamoto_yokoのコピー

作・演出:山本卓卓(Suguru Yamamoto)

範宙遊泳/ドキュントメント主宰。劇作家・演出家・俳優。1987年山梨県生まれ。幼少期から吸収した映画・文学・音楽・美術などを芸術的素養に、加速度的に倫理観が変貌する、現代情報社会をビビッドに反映した劇世界を構築する。
近年は、マレーシア、タイ、インド、中国、アメリカ、シンガポールで公演や国際共同制作なども行ない、活動の場を海外にも広げている。
『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。
2016年度より急な坂スタジオサポートアーティスト。
ACC2018グランティアーティスト。
公益財団法人セゾン文化財団フェロー。


nomoto撮影:雨宮透貴のコピー

出演:埜本幸良(Sachiro Nomoto)

俳優。1986年生まれ。岐阜県出身。2010年より範宙遊泳に所属。青山学院大学経営学部卒業。
普段からアクティブに身体を使うことが好きで、舞台上でも身体的な演技に定評がある。
範宙遊泳ではアンドロイド・ミミズ・木星人など人間以外の役を演じることも多く、柔軟な身体と擬音の発音で、観客に強い印象を残している。
イメージフォーラム映像研究所で実験映画を学び、俳優活動と共に、自身でも映像作品を制作、オペレーションを担当することもある。
おもな外部出演に、CHAiroiPLIN+三鷹市芸術文化センター 太宰治作品をモチーフにした演劇公演 第14回『ERROR~踊る小説4~』(原作:太宰治「人間失格」「失敗園」 振付・構成・演出:スズキ拓朗)、笛井事務所『愛の眼鏡は色ガラス』(作:安部公房 演出:山崎洋平(江古田のガールズ)などがある。


fukuhara:撮影:加藤和也

出演:福原冠(Kan Fukuhara)

ロロ、木ノ下歌舞伎、悪い芝居、FUKAIPRODUCE羽衣、Baobab、KUNIO、冨士山アネット、MU、篠田千明公演など、次世代の演劇界を担うカンパニーにいずれも主要な役どころで出演。
2015年には、同世代の俳優と演劇ユニット さんぴん を立ち上げる。
DJとして都内のクラブで活動する一面も併せ持つ。
おもな外部出演に、KAAT・KUNIO共同製作KUNIO15『グリークス』(編・英訳:ジョン・バートン, ケネス・カヴァンダー翻訳:小澤英実演出・美術:杉原邦生)、東京グローブ座/シーエイティプロデュース「HAMLET -ハムレット-」(作:ウィリアム・シェイクスピア  翻訳:松岡和子  演出:森新太郎)などがある。


スクリーンショット 2020-06-05 17.52.46

イラスト:たかくらかずき(Kazuki Takakura)

イラストレーター/アニメーション作家
ピクセルアートとデジタル表示を駆使した作風で、イラスト、アニメーション、ゲーム、VR、アートディレクション、舞台美術など多岐にわたって手がける。近年のアニメーションワークスに、NHK教育テレビ「シャキーン!」「Eうた♪ココロの大冒険」「マリーの知っとこ!ジャポン」「まちスコープ」、劇場映画「WE ARE LITTLE ZOMBIES」、PARCOポイントCM、日本科学未来館ジオコスモス「未来の地層」など。


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2007年より、東京を拠点に海外での公演も行う演劇集団。
すべての脚本と演出を山本卓卓が手がける。
構成員は、山本卓卓(代表・劇作家・演出家)、埜本幸良/福原冠(俳優)、たかくらかずき(アートディレクター)、川口聡(ライター)、坂本もも(プロデューサー)の6名。
現実と物語の境界をみつめ、その行き来によりそれらの所在位置を問い直す。生と死、感覚と言葉、集団社会、家族、など物語のクリエイションはその都度興味を持った対象からスタートし、より遠くを目指し普遍的な「問い」へアクセスしてゆく。
近年は舞台上に投写した文字・写真・色・光・影などの要素と俳優を組み合わせた独自の演出と、観客の倫理観を揺さぶる強度ある脚本で、日本国内のみならずアジア諸国からも注目を集め、マレーシア、タイ、インド、中国、シンガポール、ニューヨークで公演や共同制作も行う。
『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。

いただいたサポートは、今後の活動資金にさせていただきます。 更なる映像コンテンツ制作のために、ご協力よろしくお願いいたします。