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セーラームーンになりそこねた

父は、私が中学生の後半になるまでは、おもちゃの問屋に勤めていた。
だから、クリスマスは小売店の手伝いで、ほぼ家にいたことがなかった。
それが当たり前だったので、何とも思ったことはない。
大変だねと思っていたぐらいだった。

小学校高学年か中学生だったかの頃は、職場見学風に連れて行ってもらって、裏手でプレゼント用のリボンを作るお手伝いをしたものだった。
年齢的にバイト代はもらえないが、店長さんとかが可愛いハンカチとかくれたので、戦力になった気分にはなれた。

私が中3受験の頃、父が言った。
「なあ、今度の土日、手伝いに来ないか?着ぐるみなんだけど」

なに?いわゆるピンクのうさぎちゃんとか、パンダちゃんとかになれるの?
風船配ったりとかする?楽しそう!
ちょっとワクワクして引き受けようかと思った。

「セーラームーンなんだけど」

そう。あの、頭はかぶって、身体は割と生身っぽい奴。
私は迷った。当時は現役セーラー服だったわけだけど、あの衣装はただのセーラー服ではない。自分のスタイルでは、絶対ダメなやつだ…

「ねえ、私、受験生なんだけど。」

と、中3の一番もっともらしい理由で、私はそれを断ってしまった。

今ならわかる。
お店にいる頭かぶってるだけ系の身体は、それなりに薄く襦袢入ってるやつ着てるってこと。決してスタイルが出るような恰好ではない。

あれは、やればよかったなあと後悔している。
どうせ大した勉強もしていないのだから。


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