【荒野の死霊使い】
大きな灰色の腕が、スキンヘッドの頭を握り潰した。
「聞きてェ事があるんだよ」
町外れ、夕日を背にした長躯。傍らに少年。
数秒前と同じ質問を、残った男たちに繰り返す。
黒コート黒帽子、覗く肌は透き通る白。
右手に鎖、左手にスキットル。
スキットルからは灰色の塵が噴き出し、まとまり、屈強な大男を成していた。
瞳なき眼窩。ひび割れた肌。
死霊。
スキンヘッドを投げ捨て、咆哮を、上げる!
「ゴアオオオ!!!」
男たちは同時に動く。一人が刀を構え、もう一人が援護射撃。残る一人は銃を抜き駆け出す。
ダンダンダン! 弾丸を物ともせず、死霊は歩み寄る。袈裟懸けの一太刀を払いのけると、折れた刃が宙を舞った。
腰のナイフを抜くより先に、刀男は死んだ。拳に胸を貫かれ。
ダンダンダン! 決死の銃撃を続ける男に向き直り、蹴り飛ばす。遠くでバウンドし、動かなくなった。
「くそがっ!」
最後の一人。銃口の先に黒コート。外しはしない。
瞬間、飛来した鎖が絡みつき、リボルバーを奪い取った。黒コートの右手へと。
愕然とする男の首を死霊が掴み、吊り上げる。
町を容易く制圧した荒くれたちが、抵抗すらできない。
だがこの黒コートは、荒野から、それも夕暮れにやって来た。
尋常であるはずがなかった。
帽子の陰で口が裂ける。笑っているのだ。
「なァ、町長の家って、どう行くんだ?」
「僕が裏道を知ってます」
答えたのは少年だ。
「聞く事なくなっちまったナ!」
見開かれる目。命乞いより早く、
「オオオオオ!」
引き絞った右腕が繰り出され、男の頭を木っ端微塵に吹き飛ばした。
いよいよ傾いた太陽が、二人の影を長く作る。
見張りは片付いたが、乾いた空に銃声はよく響いた。
「急ぎましょう。父が心配です」
青ざめているものの、少年に迷いはない。
黒コートが顔を寄せる。息がかかる。その口が再び裂ける。
「自分の心配しろよなァ。“食べごろ”までの命なんだからよ!」
【続く】
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