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【サーバーのお医者さん】

 夜。ゆるくカーブする山道を、街路灯が弱々しく照らす。時折明滅する光の下、大きな獣が道を塞いでいた。11月の身を切るような風が、周囲の木々と、巨体を覆う長い体毛を揺らす。

 その生物はダンプカーほどで、逞しい六本の足と、マンモスのような長い鼻が目を引く。地面に倒れて微動だにしない。傍らに救急隊員らしきヘルメットの男が跪き、マンモスの顔を見つめる。男の表情は暗い。

 唐突に一筋の光が走った。それは山道を登ってきた白いバンのヘッドライト。荒々しく停車する。同時に、助手席から白衣の男が飛び降りた。片手にノート型端末を持っている。救急隊員は叫ぶように言った。

「あなた維持保守ですか? 既にハートビート、体温共に低下しています!」

「維持保守SEの待山だ。診察する」

 待山はマンモスの頭に駆け寄る。長い毛をまさぐり、すぐに目当てのモノを探し出した。LANポート。片手でケーブルを接続する。同時にもう片方の手で、膝上の端末を操作する。

 端末には既に複数のプロンプトが開かれていた。全身のネットワーク疎通確認、各種ログ検索、ウィルスチェック……。瞬間的にプロンプトを切り替え、これらを同時に行う。

「外傷はないが、下半身に疎通できない。おそらく体内でハブが壊れて、ネットワークが閉塞している。この場で開腹して機器交換だ」

 僅か数分で原因の見当を付ける。待山は端末から顔を上げ、乗ってきたバンへ声をかけた。

「マンモス型はタフさが売りだ。単なる転倒ではありえない。そうだろ、長谷川」

「ああ。間違いなく、野良サーバーの襲撃だなァ。夜行性、大きな相手を襲う獰猛性、マンモス型を倒す攻撃力……厄介なヤツだ」

 そう言いながら、武装した男がバンから現れた。迷彩服にブーツ、暗視ゴーグル、そしてアサルトライフル。長谷川は周囲の森に油断なく視線を走らせる。それに呼応するかのように、木々の奥でガサガサと音がした。風ではない。

【つづく】

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