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炭酸は、いつも、少し大人。

 アルコールが飲めない私は、大学の飲み会といえば、とりあえずジンジャーエールを頼んでいた。ビールじゃなくて、ジンジャーエールなところに、自分だけ子供のようなそこはかとない恥ずかしさを感じていた。お酒を飲めないのは恥ずかしい。そういう時代があったのである。
 何度も飲んでいるとジンジャーエールにもいろいろな銘柄があることに気づく。そしてある時こういう。「ウィルキンソン、辛口で。」

 急に通だ。

 「(ジンジャーエールならなんでもいいのではなくて、大人っぽいラベルのかっこいい)ウィルキンソン、(の、実はけっこうピリリとしている大人の)辛口で。」である。

 あるいは、

 「(うーん何にしよっかな~あ、私の好きなウィルキンソンあるのね、じゃあそれもらうわ)ウィルキンソン、(の、オレンジジュースを飲もうっていうのじゃないのよ、喉をピリッとさせたいんだから当然)辛口で。」である。

 更に時がたち、社会人になって、ワインとのマリアージュを楽しむようなレストランに行くようになる。お酒というのは体質の問題なので、年齢を重ねたとて飲めるようにはならない。お水を頼む自分、ワインを頼む相手。しかしそのうちに「炭酸水」という選択肢があることに気づく。そしてある時こういう。

「お水、ガス入りで」

変化球で、

「お水、スパークリングでお願いします」

 急に様になるのである。どのみち水なら炭酸でなくてもよいのかもしれないが、食事と食事の間に口の中が炭酸の爽快感のおかげで区切りがつきやすいというのもあるし、待っている間のグラスの中にふっと浮かぶ小さな泡が様になるではないか。

 そんな時代を経て、梅ジュースやジンジャーシロップを手作りしている現在。スーパーで割りものを探してボトルの棚を見る。そこには「ウィルキンソン 強炭酸」。そそくさとエコバッグに入れて持ち帰り、先週できたばかりの梅ジュースにそそいで一口。自分だけの炭酸ジュースができあがった。誰もみていないけれど、心の中でこういう。「炭酸強めだからウィルキンソンで作るんだよね~」。

 誰の目を意識しているのか知らないが、なんだかいつも少しえばってしまう、炭酸には自分を子供にして大人気分を味わわせてくれる魔法がある。

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