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映画レオンのマチルダに憧れた15歳。

「レオン」という映画にドはまりしたのは、中学三年生の頃だった。

その頃には、私はまるでゾンビのように「面白い映画どこ~」と彷徨い続けていたのだ。

そもそも映画にハマるきっかけになったのは、中学二年生の頃にテレビで放送していた「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」を観たことがきっかけだった。
その作品で、映画の面白さに目覚めた。

テレビで放送する映画を観るだけでは物足りなくなり、かといって映画館で上映している映画はどういうものがあるかわからない。
わからないのに、自分一人で行く勇気も、お小遣いの余裕もなかった。

当時は、まだインターネットがない時代。
映画の情報を得るには、テレビか雑誌の二択だった。それか口コミ。

私が映画好きに目覚めたと同時に、タイミング良く近所にレンタルビデオショップができ、そこへ通ったが、自分が気になるジャンルのビデオは全部借りてしまった(当時は置いてある映画の数も少なかった)

観れば観るほど、映画はなんて面白いのだろう思えた。
だから、もっともっと観たいという欲ばかりが積もっていく。
新聞のテレビ欄の火曜洋画劇場や金曜ロードショーで、気になるあらすじやタイトルの映画は全部ビデオデッキで録画した。

深夜にも映画を放送していることがあり、そういうのも録画したのだが、なんせ深夜枠はタイトルしか書いてなくて、「タイトルだけしか書いてないけど面白そうかも」と思って、録画した映画がホラーだということもあった。

当時、私はホラー映画が怖くて怖くてたまらなかったのに、せっかく録画したんだし……という理由できちんと観た。
そんな理由で録画した「ハロウィン」おもしろかったなあ。怖かったけど。

そんなこんなで中学三年生。
周囲の友人はトレンディドラマで盛り上がる中、私だけが映画を求めてさまよっていたのだ。

中3の秋頃に、卒業間近だということもあって、クラス全員でプロフィール帳のようなものを作って、クラス全員に配布するというイベントがあった。
小さな冊子に、クラス全員の当たり障りのない自己紹介があるだけなのだが、趣味の欄に映画鑑賞と書いているクラスメイトがチラホラいた。

チラホラといっても2人だけだったのだが、どちらのクラスメイトも好きな映画として挙げていたのは「レオン」だった。

レオンは、タイトルだけなら知ってはいたのだ。
レオン上映当時、12歳の少女が殺し屋に~みたいなセンセーショナルな内容。
マチルダ役のナタリー・ポートマンがとてつもなく綺麗で、予告のCMだけでも衝撃的だった。

私はそれまで、ほのぼのした映画や子どもが主人公のコメディ、ホームコメディなんかを中心に観てきた。
そういうジャンルが好きなのに、殺し屋……よくわからない世界だ。
でも、もう私はどういう映画でもいいから、面白い物を観たいという欲でいっぱいだった。

そんなわけでレオンをレンタルビデオショップで借りて観た。
一言で表すなら、衝撃。
面白いし、カッコいいし、最後は泣けるし、そしてなによりもマチルダ役のナタリー・ポートマンさんが美しい。

それ以来、私は映画雑誌を購入するようになった。
ナタリー・ポートマンさんの情報や、映画にハマって好きになった俳優さんたちの写真や情報を求めて。
読んでいるだけで、知らない映画の情報を知ることができる。
もっと早くにこういう雑誌を買えばよかった! と後悔すらした。

そして、ある映画雑誌で「レオン完全版」が上映されることを知ったのだ。
なんてタイミングがいいんだろう!

私は嬉々として映画館へ行った。
もちろん一人で。
一人映画館デビューでちょっと不安……なんて気持ちはなかった。
レオン、しかも完全版をスクリーンで観られる興奮だけでご飯三杯はいける。

映画はとても面白かった。
追加されたシーンも最高だった。
映画館で観てよかった、と何度も何度も思ったものだ。
ただ、「このシーン良かったよねー」と語れないのは、少し寂しいなとも思った。

それ以来、すっかりレオンにハマってしまい、同時に少し遅めの中二病を発症した(いや、既に発症済で自覚がなかったのかもしれないけど)

マチルダの台詞を全部覚えようとした(途中で挫折)
マチルダの羽織っていたカーディガンに似たものを母が持っていたので、それをもらった。
タバコ……は吸ってはいけないので、紙を丸めてテープを貼っただけのものを煙草に見立てて吸うふり。
アクセサリーショップでマチルダのつけていたチョーカーを探したが、見つからなかったので、手芸店でパーツを探して作ろうとしたが、そのパーツすら見つからなかった。

私はだんだん、レオンという映画が好きという気持ちから、マチルダになりたいという気持ちに変化していったのだ。
マチルダのきれいな顔と自分の顔は真逆だというのに……。
それでも妄想の中で私はマチルダだった。

そして鏡を見て気づいた。
髪が伸びている。
なんとなく伸ばしていたのだが、髪を切ろうと思った。

どうせ切るなら、マチルダのようなおかっぱ頭にしよう。

しかし、当時私が行っていた床屋には行けない。
なぜなら、前に切り抜きを持っていったことがあるが盛大に失敗された。
毛をむしられた羊みたいな頭にされたことがあったのだ。

だからもうあの床屋には行きたくない。
しかし、田舎ゆえオシャレ美容室はない。
というかオシャレ美容室に行くお金はないし。

それじゃあどうするか。
答えは一つ。

自分で切ろう!

自分で前髪も切ったことがなかったが、この際、やれるのは自分自身しかいないと思った。

こうして私は、自分で髪の毛をおかっぱにした。
そんなド素人が初めて髪の毛を切って、きれいなおかっぱになるわけもなく。
かと言って、顔どころか外見すべてがちがうのに、マチルダのような雰囲気になるはずもなく。

髪の毛を切るの盛大に失敗した人、という髪型になってしまったのだ。

いつもなら、ハッキリ言ってくれる友達が数名が、私の髪型には一切触れなかったのは、あの髪は相当マズかったんだと思う。

そこで私は目が覚めた。

ああ、私はマチルダにはなれない。
もちろんわかってはいた。
だけど、ちょっとだけでも近づくことすら無理だし、そもそも私は平凡で地味な中学生でしかない。

ようやく現実を直視した私は、レオンのマチルダになろうとするのをやめた。

だけど、映画が好きだという気持ちはずっと変わらない。
大人になった今も「面白そうな映画ないかなあ」と、あの頃のように探しているのだから。

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