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あなたへの手紙

秘密の話をします。他のだれにも内緒です。わたしは、神様になりたかったのです。あなたが苦しいときにそばにいてあげられる、そんな神様になりたかった。

ですがもちろん無理な話なので、わたしはあなたのためにドレスを縫っているのだと思います。


まだわたしがずっとずっと新人の、もっと言えば見習いの、ハンカチの刺繍だけをさせてもらっていたときから、わたしがつくるものに目を輝かせてくださったあなたを、わたしは生涯、けっして忘れはしないでしょう。あなたはわたしの刺繍を、とりわけ花の図案を、古く拙いものも最新のものも等しく愛してくださいました。初めてお会いしたその瞬間から、あなたはわたしにとって本当に愛らしくて美しい天使でしたし、それはわたしたちがいつか時のはざまに埋もれてしまったとしても、きっと永遠にそうでしょう。孤独に疲れて、憂鬱そうにしていたあなたがわたしのドレスを身に着け、少しだけ勇気を奮い立たせるかのように顔を上げるとき、励まされていたのはきっとわたしのほうだったのです。ああ、本当に、到底わたしが神様になどなれるはずもなかったですね。あなたがわたしの天使なのですから。

アンジェリカさま。わたしのドレスがどうか、いっとき、ほんのいっときでかまいませんから、あなたの勇気になれますように。傷ついたあなたがそれでも立ち上がらねばならないとき、あなたの細い背を支えるものでありますように。いっかいの針子がおこがましいとは端から承知しておりますが、わたしはいつもそのように、願いを込めて縫うのです。アンジェリカさま、コニーはきちんと存じております、あなたが愛するもののこと、あなたが美しいと感じるもののこと、あなたの豊かなお心のこと。わたしのドレスはいつでもあなたの味方です、悲しいときもつらいときも、身を引き裂かれるような出来事の折ですら。胸が痛んだときにはどうか思い出してください、そして叶うのならばわたしのドレスを着ていただきたいのです、わたしのドレスはいつだって、あなたの勇気になりたがっているのですから。

わたしはただの針子であり、あなたのお声なしにはおそばへ上がることもなく、ましてや神様になどやはりなれそうもありません。針を縫うだけです。針を縫うしかできませんが、わたしのドレスに袖を通したあなたが静かにほほ笑んでくださるとき、これ以上の幸せはきっとこの身には降り注ぐまいと思うのです。わたしは針子でよかったと思うのです。アンジェリカさま。コニーは神様ではなくあなたの針子でよかったのです。


そろそろフィリカが咲く時期ですね。あなたが最も愛する花に敬意を込めて、やわらかな黄色の生地でドレスを仕立てました。さきの夜明けのドレスもさぞお似合いでしたでしょう、夜も、冬もいつか終わります。あなたが光に満たされますように。

   コニー・ハンメルト




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