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オフィーリアの面影

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美術・音楽・映画その他、感想評論ごった煮
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#アート

闇系彼氏に首ったけ-ちょっとした悲劇と美術試論-

恋は突然に20XX年1月8日、AM5:25。 画面が完全にブラックアウトしたノートパソコンの前で、私の頭は真っ白になっていた。 神様。 確かに私は、この『彼氏』様と、2年間別れたいと言い続けてきました。 歴史に名を残すメンヘラで、サイコパスで、クッッッッッソきまじめで、超病み系すぎる『彼氏』様と、別れたいと願ってきましたよ、ええ。ええ。そりゃあもうツイッターのタイムラインを毎日「もうむり」「つらい」「逃げたい」といったワードの連続で荒らしまわるくらい、切望してきましたとも

「障害者アート」、いつまでそう呼ぶ?

「障害者アートという言い方ってどうにかならないのかな」 職場で催される福祉イベントを眺めながら、同僚とそういう話になる。私は美術史を専門に学んできた人間としてそう思うし、同僚は一障害児の親として腑に落ちないものを抱えている。 感性と表現について、「健常」と「障害」の区分けは本当に必要なのか。 障がい福祉の現場において「障害者アート」と敢えて名乗ることで、障害への理解を促そうとしていることは理解している。けれども、そのように「障害者アート」という枠組みを自ら設けつづけるこ

オルソン・ハウスの物語

 毎日、形にならない言葉を山ほど積み上げている。文章とも呼べない代物だ。後日下書きを読み返して「なんの話だっけ」と考える。  悩みすぎて行き詰まったので、新潟市美術館で開催していた「アンドリュー・ワイエス展」へ行ってきた。  会期末が近づくにつれ、行きたいとは思いつつ、腰が上がらなかったのだけど、なにも考えたくないと休日の午前中をだらだらと過ごしたあと、シャワーを浴びているそのときに「いや、いま行こう」とひらめいた。  いまはもう遠い、クリスティーナとアルヴァロの生活を描

「情の時代」を生きる

エーリッヒ・フロム『愛するということ』を読み終えたとき、人生で何度も読み返したい本がまた一冊できたことをとても幸せに思った。愛の問題とは愛の対象の問題ではなく愛の技術の問題なのだというフロムの哲学は、これからの私の人生において間違いなく助けになるだろう。 奇しくも、あいちトリエンナーレ2019のテーマが「情の時代」である。数日のうちに有識者による多くの見解が飛び交っているので、美術好きに毛が生えた程度の研究者の卵(しかも割れた)でしかなかった私が改めてこのことについて言及す