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樋口円香学論考 ー沈黙が守る「それ」編ー


※ネタバレを多分に含みます


1.前置きと目的

樋口円香とは、アイドルマスター シャイニーカラーズに登場するアイドルの1人であり、幼馴染4人で構成されたユニット「ノクチル」に所属している。

この論考の目的は彼女を多角的に理解することにある。

樋口円香の性格を誤解を恐れずに言えば、ニヒルでシニカル。尖ったキャラクターではあるがその実シャニマスというゲームの面白さが分かりやすいキャラクターでもある。

ならば少しフックがある程度の浅いキャラクターなのか? 

否 断じてそうではない。

彼女の面白さは、「樋口円香と社会(アイドル)」「樋口円香と浅倉透」「樋口円香とP(プロデューサー)」という彼女を語るうえで欠かせない関係性、要素がある程度共通の言葉・表現を用いて描かれているという点にある。

よってより彼女を知るには、これらの要素を面で理解するのではなく、多角的に体系的に理解することが必要である。



2.<今回の題材>
「すべてが泡となる世界だから -沈黙だけがそれを守る」

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「すべてが泡となる世界だから -沈黙だけがそれを守る」

これは樋口円香の最初のP-SSRが実装されたガチャ「聲魚」のガチャ画面で見ることが出来るセリフである。

そして彼女にとって極めて重要なセリフである。

全てが泡となる世界

樋口円香と沈黙 

沈黙が守る「それ」とは?

主にS-SSR「UNTITLED」 P-SSR「ギンコ・ビローバ」を読み解き、このセリフが何を意味するのか多角的に考察していく。


3.「UNTITLED」樋口円香→浅倉透への沈黙

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S-SSR 「UNTITLED」では有象無象(樋口円香以外)は浅倉透をどう見て、何をするのか。それを踏まえた上で「樋口円香は浅倉透をどう見て、何をするのか」が描かれている。


まずは有象無象(樋口円香以外)がどう見て何をするのか

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見ている。見惚れている。見た上で「浅倉透にはよく分からないが魅力がある」と評価している。


それに対して樋口円香

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見惚れていないと主張する。自分だけは違うと。

さらに続いて

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私だけが浅倉透を理解していると主張するのだ。

そして私がこのコミュで最も重要であると考えるのが

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樋口のいる部屋で浅倉が寝てしまい、ふと目を覚ましたという場面

画像からでは伝わりにくいが「樋口円香は浅倉透の寝顔を見ていた」と断言していい。そのうえで「見ていない」と本人には嘘をついている。


これらのことから読み取れること

• 樋口円香は「自分は浅倉透を理解している」と思っている。

• 樋口円香が思う「浅倉透を理解すること」とは、浅倉透を「見ない•見惚れない」ことである。

・私「だけ」が理解している、と主張することから「私は浅倉透にとっての特別である」と考えている。


私はこの「見ない・見惚れない」ことこそが「樋口円香→浅倉透」における「沈黙」であると考える。

同級生、カメラマン、幼馴染などの有象無象が浅倉透に見惚れ、綺麗・不思議・よく分からないが何かを秘めている、と漠然と評価する中、あえて浅倉透を見ない・褒めない・良い(凄い)と評価しないことで「樋口円香は浅倉透の特別」でいられるのではないか。


つまり「樋口円香→浅倉透」における「沈黙が守る”それ”」とは「樋口円香が浅倉透の特別でいること」である言える。


4.「ギンコ・ビローバ」 樋口円香→社会への沈黙

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P-SSR「ギンコ・ビローバ」では、「様々な他人=社会に対して樋口円香がどのように考え、どう振舞っているのか」が描かれている。


一人目は円香と同じくオーディションに参加したアイドルに対して。

そのアイドルは自信が無く落ち込んでいる様子らしい。そんな彼女に対して樋口円香は

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「願いは叶う」「願い続けることが大事」と励ます。

そして

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「願いは叶わない・適当に生きるほうが楽」という真実を教えてあげなかっただけ。と主張する。


2人目は、Pに対して

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Pは事務所近くの商店街の人々からも慕われているらしい。

そして

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Pは他人への振舞いによって「いい人・すごい人」に自己演出しており、それが信用ならないのだと主張する。

それに対してPは

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P「自分は何をするかでしか語れない」と言う。

Pは「自らを語る」ために実直に、真面目に行動しなければならないのだと。

この「自らを語る」とは「他人に自分が何たるかを知ってもらうこと」とも言い換えられる。


そしてこれらのPの発言を踏まえて円香はPに対して

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「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」と心中思うのである。その理由については後述する。


まとめると

・樋口円香は「願いは叶わない・適当に生きるほうが楽」という虚無的ともいえる考えを持って生きている。

「実直に・真面目に自らを語るP」に対して、「信用ならない」「引き裂かれてしまえばいい」と考えている。


では何故このPを呪うような気持ちを彼女は抱いているのか?この問いは難しようでいてその実、多く人が感覚的に理解できてしまうのではないかと思う。

社会が、他人が、様々なものを「私」に向かってぶつけてくる。それらは期待、夢、責任、そのようなものである。ぶつけてくる割に「私」が出したそれらへの返答、「努力・頑張り・向上心」はあまりにも報われず消えていく。

そんな社会に押し潰されないように生きるために、樋口円香は虚無的な思考をする。頑張っても報われない。むしろ頑張った分だけ苦しく、辛く、虚しいだけ。正直に生きるには何もしない他にはない。

そんな彼女の眼には「自分を善良で美しく演出しようとする人」がどうしようもなく「偽物」に映る。

しかしそんな彼女だからこそ「真に、衒いなく、真っ直ぐにそれが出来る人」が何よりも眩しく、そして疎ましく見える。

それを体現するのがPなのだ

疎ましさと羨望。それらが混ざった末に生まれた言葉こそが「ぐちゃぐちゃに引き裂かれてしまえばいいのに」なのである。


主題に戻る。

まずは「すべてが泡となる世界」

これは努力や頑張りがあまりにも報われず、虚しく消えるような社会を指す。


そして「沈黙」

これは「樋口円香がとっている虚無的な思考・振舞い」である。

あえて否定し、語らない。眩しく見える「努力・自己演出」に背を向け、「他人へ自らを表現しない」。すなわち「沈黙」


そして「沈黙が守る”それ」とは?

これは「社会の中で、樋口円香が樋口円香でいること」である。

あらゆる努力・頑張り・向上心が泡となり消える社会の中にいて、沈黙だけがそれらから樋口円香の精神を守ってくれるのである。


5.<結論>


「すべてが泡となる世界だから -沈黙だけがそれを守る」

このセリフは樋口円香の2つの側面に言及したものである。


1つ目の側面は「樋口円香→浅倉透」

沈黙とは、「浅倉透を見ない・見惚れないこと」

沈黙が守る「それ」とは「樋口円香が浅倉透の特別でいること」


2つ目の側面は「樋口円香と社会・他人」

沈黙とは「樋口円香の虚無的な思考」それによる「他人に自らを語らないこと」

沈黙が守る「それ」とは「社会の中で樋口円香が樋口円香でいること」


よってこのセリフは樋口円香の2つの側面に言及したものであると言える。


6.終わりに

ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。

今回は考察や解釈というよりも「分析」を意識して書きました。

よって革新的な意見や、「新しい!」となるような解釈は恐らくないでしょう。

なのでこの文章を読んでくださった方の新たな解釈の一助となってくれたら幸いです。


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