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1 来客

工房の入り口には、ユニコーンのような角を持ったウサギが立っていた。

御用ごようでござる!御用でござる!」

クーはその声に、つい手にもっていたものを落としてしまった。
器用に二本足で飛び回るウサギをクーはにくらし気に見つめる。
その飛び方はウサギというよりカンガルーだ。
一体どこで覚えたのだろうか。

「カズー、トニーの翻訳機ほんやくきのシステム間違ってない?」
「いや、ぴったりじゃない?」

カズーは右手をひらひらと動かした。
その顔には『これは面白い』とでも言いたげな笑みが浮かんでいた。

「はぁ…トニー、ストップ。何の用?」

その声でウサギがピタッと止まる。

「お客でござる!」
「…客?」

クーが工房の入り口を見ると、確かに中年の男性が立っていた。

「あ、あの、ここに来るといいって、道すがら聞いて」

中年男性がおろおろという形容詞が似合いそうな様子でしゃべる。

「それで私、村で困ったことが」
「…」

その要領ようりょうを得ない様子に思わずクーとカズーは顔を見合わせる。

「まずマテ茶だね」
「うん、そこの棚にボトルがあるから」

クーは答えながらさっき取り落としたものをまとめ、目の前の棚に入れた。

「クーさんティーカップが無い!!」

マテ茶と書いたラベルのペットボトルを右手に持った瞬間しゅんかんカズーが叫んだ。

「…ビーカーか三角フラスコならあるけど」
「あっ!お客さんそこの椅子いすにどうぞ」

小首をかしげたクーがそう答え、カズーが小さな椅子を指さす。

「ええと、ボトルのままでいいです」

その小気味いい漫才の様子を見ていた客人はそう答えると、
設計図で埋め尽くされたテーブルのわきにある椅子に腰かけた。




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イラスト:https://twitter.com/ano_ko


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