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水田隆の記事

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2015年3月の記事一覧

一、たらちね 小里ん

見るたび印象に残るのは、その端正な座り姿である。どこも力んだところがなく、ただすとんと座布団に乗っている。しかし、高座の下に根を張り巡らせてでもいるのか、些細なことでは毫も揺らぎそうにない。

柳家小里んの高座での姿勢は、師匠である五代目柳家小さんを彷彿させる。映像や写真のなかにかつての名人の姿を追えば、肩からの線がなだらかに床へと流れ落ち、まるで生まれた瞬間からずっと高座に住まっているかのよ

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一、船越くん 百栄

油断してはいけない。銃弾は常に視界の外から飛んでくる。高座は戦場だ。いま客席右手後方を引き裂いた女のヒステリックな叫びは、笑い声ではなく断末魔なのだ。

春風亭百栄の噺の多くはメタフィクションとして構成されている。とはいえ、新作落語において外からの視点が介入するのはさして珍しいことではない。当たり前のものとして受け入れられてきた枠組みを次々と逸脱していくなかで語りを駆動するのは、新作落語の主要

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