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水田隆の記事

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2015年2月の記事一覧

一、猫の災難 文左衛門

隣家より猫見舞いの鯛の残りが舞い込んだことから、熊のもとでひと騒動持ち上がる。落語らしい、いかにも他愛ない噺。休みの日に一緒に酒を呑もうとやってくる兄貴分と熊の気のおけない関係がなんとも可笑しい。

初天神や時そばなど、お馴染みの演目のなかには食の所作を観客が心待ちにしているものが多い。なかでも酒の噺は、そこにさらに酔っていく演技が加わり噺家としては腕の見せ所。猫の災難も、兄貴分が買ってきてくれた

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一、死神 小三治

死神。柳家小三治の十八番の一つ。どうやらグリム童話『死神の名付け親』を三遊亭圓朝が輸入翻案したものらしい。圓朝といえば『牡丹灯籠』や『真景累ヶ淵』などの怪談が有名だが、この噺に登場する死神にじっとりとした日本的な怖さはない。しかし、怪談をベースにした滑稽噺とも違う。そもそも始まりからどうも妙なのだ。仕事もせずどうしようもない夫を妻が家から叩き出す、まるで芝浜のような語り出し。ところが、いわゆる人情

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一、蜘蛛駕籠 三三

蜘蛛駕籠。三代目小さんにより上方から東京に輸入された一席。次々訪れる身勝手な客たちに良いように翻弄されてしまう、二人組の雲助(人足)のドタバタぶりが可笑しい。冬の寄席でお馴染みのうどん屋などと同様の展開で、酔っぱらいの客が同じ話を何度も繰り返すくだりなど、共通した趣向も見られる。今回初めて柳家三三の高座で聴いて、その構成の見事さにあらためて驚かされた。

如才ない兄貴分と、どこまでも抜けている新入

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一、青菜 小三治

柳家小三治主任、六月下席夜の部、千秋楽。平日月曜日にも関わらず、仲入りには二階席まで満杯となった。

独特の親密な空気が末廣亭を満たし始める。小三治の興行はいつもそうだ。往年の落語ファンも、知人に誘われ初めて寄席を訪れた人も、そこにいる誰もがその噺家の登場を心待ちにして、どこかそわそわとしている。いつもと同じ、でも特別。そうした客席と高座との絶妙な距離感こそ、名人なるもののひとつの条件なのではなか

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