戯曲『宇宙を救うのは』第一幕

5/3に上演された戯曲『ONE NATION UNDER THE DEMPA』を見て、「でんき組.コープ……一体何者なんだ……!」と思ったので書きました。
まあまあ長くなったので、二つに分けます。


鹿目……出席者
高咲……報告者4

藤咲……通称ノスタル爺

新田涼香……赤色
千草アギト……千草色
伊澤亜里沙……白夜色
春日陽光……黄色
飛車角京子……桃色

小山……グレンサイダーのメンバー
中島……グレンサイダーのメンバー
大木……グレンサイダーのメンバー

城戸……騎士道コンキスタドールのリーダー
AOI……陳・腐・東・京のリーダー
倉野……プロジェクトAのリーダー

〇第一幕

   舞台上はまだ暗い。
   スクリーンに〈惑星D87〉の文字。
   以下、鹿目のセリフに合わせてイラストが変わっていく。

鹿目  ここは、萌えとエモの無い惑星D87の、地球で言う日本の、東京の、千代田区あたりの、ライブハウス

   ライブハウスのイラストのあと、画面に大写しになる鹿目の写真。

鹿目  これはかわいい私。
高咲  どうでもいいんで本題入ってくださいよ。

   スライドはライブハウスに戻って、

鹿目  どうでもいいってひどくな~い?
高咲  これ、一応録画してるんですから。
鹿目  後世まで残るわけでしょ? じゃあ尚更だ。
高咲  尚更? 何がですか?
鹿目  このかわいい私を記録しておくべきってことよ。幸運にも、キャラ被りしてる小鳩さんがいないからね(スクリーンに、話題の小鳩のかわいい画像が何枚か表示される)私ががっつり後世に残るって寸法よ。
高咲  だから、こないだも言いましたけど、お二人は系統の違う「かわいい」ですから、みんなちがってみんないいんですよ。
鹿目  関係無い!
高咲  なんなんですか……偉そうに。
鹿目  偉いんです。偉いんですよ私は。

   などと会話している最中、鹿目たちのこれまでの旅路が映し出されている。
   中には明らかに説明が必要な場面の画像も混じっているが、二人はまったく気づいていない。

高咲  さて、このライブハウスでは、とあるアイドルグループのライブが行われていました。そのグループは、私たちの所属するアイドルグループ、でんぱ組.incと似ているようで違う。その名もでんき組.コープ。私たちは私たちの萌えとエモを伝える手伝いをしてもらうために、この

   藤咲(ノスタル爺)の画像が写される。

高咲  一人のおじいちゃんに託しました。私たちがここに来たのは、その成果が出ているかどうか、確認するためです。
鹿目  ま、長ーい説明は後にして、まずは聞いていただきましょう。でんき組.コープのファーストアルバム『宇宙を救うのはお寿司』から『わっほい? お祭り.コープ』!

   暗闇の向こうで、スタンバイを終えたでんき組の面々が逆光を背負って立っている。
   怒号みたいな掛け声とともに、五人のメンバーが駆け付け、『わっほい? お祭り.コープ』のパフォーマンス。
   途中でストップモーション。

鹿目  全然萌えもエモもない……。

   舞台上が闇に包まれ、タイトル。
   舞台上が明るくなると、控室のように机と椅子が用意されている。
   満足そうな藤咲が隅に座っている。
   どたどたと鹿目と高咲が乗り込んでくる。

藤咲  おお、久しぶりじゃ、
鹿目  おじいちゃん!
藤咲  わしも会えて嬉しいぞ。
鹿目  でんき組、でんき組!
藤咲  ああ、たいしたもんだったじゃろう。お前さんたちのおかげじゃよ。
鹿目  そうじゃなくて、
藤咲  あの振り付けよかったな~。わしが教えた。
鹿目  おじいちゃん! おじいちゃん!
藤咲  なんじゃ。
鹿目  ……。
高咲  いざとなると黙るのやめましょうよ。
藤咲  何でも聞くぞ。
高咲  でんき組.コープのライブ、萌えもエモもありませんでしたよ。

   間。

藤咲  (しみじみと)萌えとエモ難しい……。

   間。
   高咲は「しまった」となった後、ちょっと反省した表情で佇んでいる。

鹿目  でも、素敵でしたよ。
藤咲  (おっ、という表情)
鹿目  なんか、こう、必死というか、必死の形相? が凄い歌声に力強さを生んでいて、まあそれは萌えもエモも無いんですけど、でも、いや悪くないっていうか、逆に良い、逆に? それ失礼か、逆に逆に良い、あそれ普通じゃん、だから
高咲  いい、いい(と鹿目を引きはがし)ごめんなさい、私の言葉選びがダメでした。

   どかどかと足音がする。
   一同足音のする方を見ると、でんき組.コープの面々が現れる。
   整列するでんき組のメンバー五人。

五人  押忍!
鹿目  お、わかってんじゃん「推す」!
高咲  たぶんですけど漢字が違います。
千草  (藤咲に)先生!
藤咲  なんじゃ。
千草  こちらのお客様は一体?
藤咲  とてもとても素晴らしい先生の先生じゃ。
五人  おお!
伊澤  自己紹介させてください!
藤咲  おお、そうしなさい。
五人  押忍!
鹿目  (たいへん無邪気に)推す!
春日  じゃあ私からいきます、黄色担当・春日陽光! 
飛車角 桃色担当・飛車角京子!
千草  千草色担当・千草アギト!
新田  赤いセンター・新田涼香!
伊澤  白いリーダー・伊澤亜里沙。
新田  これが!
五人  でんき組.コープでございます。

   鹿目、高咲、とりあえず拍手しようとすると藤咲が割り込んでくる。

藤咲  そしてわしがでんき組組長、ノスタル爺である!!

   鹿目、高咲、とりあえず拍手。

高咲  これ、でんぱ組っていうか男塾じゃん……。
鹿目  なんかキャッチコピーとか無いの?
千草  おおん?
鹿目  た・と・え・ば~(と高咲の手を引いて舞台の中央に立つ)
高咲  (その時点での自己紹介)
鹿目  (その時点での自己紹介)

   静寂。

飛車角 なんすかそれ……。
高咲  伝統です。
伊澤  伝統ならしょうがないか……。
鹿目  (ぼんやりしている千草に)え、どうしたの眠いの?
千草  眠くない! 眠くなんか無い! (自分を指し)アギトぞ! 目覚めてんだよ! 目覚めよ、その魂。
鹿目  あ、それいいじゃん。
高咲  あれ『仮面ライダーアギト』ですよ。
藤咲  お前ら! まだわかっとらんのか。この方々はのお、お前らの

   遠くで窓ガラスが割れる音。
   一同、身構える。
   しかし藤咲は話を続けて、

藤咲  でんぱ組.incのメンバーなんじゃ!
五人  ええっ!

   スクリーンにでんぱ組.incのアーティスト写真。

藤咲  この人と、この人じゃ。
五人  おお……。
春日  なんか似てるなあと思ってました。
藤咲  ご本人じゃ。
伊澤  じゃあ本物のぺろりんさんですか。
鹿目  まあね。
伊澤  すげえ……。
高咲  私たちは
鹿目  え、待っておじいちゃん今私たちのことなんて言おうと、
藤咲  それは、

   また窓ガラスが割れる音。
   今度は近い。

千草  来やがったな……?
伊澤  お客様を守ることを最優先しろ。
高咲  待ってください一体何が。

   でんき組メンバー、鹿目と高咲を守るように陣形を組み始める。

飛車角 繰り返しが面白いのは三回までだ。

   窓ガラスが割れる音。
   と、同時に敵対アイドルグループ「グレンサイダー」が現れる。

新田  出たな!?
高咲  え、何何!
鹿目  この惑星、萌えとエモが無いっていうか、倫理観が無いんじゃないの?(藤咲に)この人たちは何なんですか。
藤咲  敵対アイドルグループ「グレンサイダー」。我らを攻撃しに来たのじゃ。
鹿目  攻撃しに来たのはわかるんですけど……。
小山  でんき組.コープ! そこの二人は新メンバーか?
千草  てめーらには関係ねーだろーが!
小山  厄介なことになる前に潰させてもらう。

   でんき組メンバー、グレンサイダーとの喧嘩が始まる。
   グレンサイダー側がやや優勢。

藤咲  この世界のアイドルグループはランキング上位に食い込むため、血のにじむような努力をしておる。それでも、どうしようもないほどこの世界にはライバルがおる。じゃからこうやって、ライバルを力で抑え込むことのじゃ。それもまた、ファンのため。
高咲  ファンのためって言えば何でもアリだと思わないでくださいよ!

   喧嘩は続いている。

鹿目  よしなさい!!

   一同、命令通り静まる。

鹿目  アイドルグループなら、パフォーマンスで勝負なさい!!

   でんき組メンバー「えっ……」というリアクション。

鹿目  え、厭なの?
飛車角 このグループ相手にパフォーマンス勝負は……。
小山  いいじゃねえか。気に入った。
鹿目  気に入られちゃった。
小山  決闘だな?
高咲  相沢さんが好きなヤツですね。
大木  OK。っじゃあ、その方向で準備しますね。
中島  (藤咲に)文句無いな?
藤咲  ……もちろんじゃ。

   でんき組メンバー、また「えっ……」というリアクション。

藤咲  対バンじゃあああああ!!!

   満足そうなグレンサイダーのメンバー。

大木  よーし。小山、戻るぞ。
小山  (新田を見つめている)……。
大木  小山。
小山  ヤツをマークしておけ。

   立ち去るグレンサイダー。

飛車角 先生、無茶ですよ。うちらじゃあ。
千草  うちら、喧嘩もそこそこの実力しかないギリギリグループなのにパフォーマンスは……。
春日  あいつら、認めたくないですけど、なかなかやりますよ。喧嘩もパフォーマンスも。
五人  先生!
藤咲  いつからそんなネガティブ思考になった。
伊澤  元からです。
藤咲  そんなんじゃねえだろ、わしらが求めたアイドルグループは。敗色濃い難敵にこそ全霊をもって臨むこと、それがでんき組のはずじゃ。……大丈夫じゃよ。我々には心強い味方がおる。

   でんき組メンバーと藤咲、各々の気持ちで鹿目と高咲を見る。

高咲  (ちょっと気圧されるが)よろしくお願いします。

   時間経過。
   『Future Diver』のイントロが流れ、でんき組メンバーが配置につく。
   パフォーマンスを見ている鹿目たち。
   パフォーマンスがひと段落着く。

藤咲  さすがにこの姿勢も疲れたわい。

   藤咲、体のどこかにあるスイッチを押す。
   すると、モーター音がして、異常に姿勢が良く、所作の美しい老爺になっている。

藤咲  では

   と、藤咲は机に飛び乗り決めポーズ。

藤咲  誘おう……。
高咲  接しにく~い。
藤咲  接しにくくなるかわりに、生活が、しやすい。
高咲  私普段のおじいちゃんの方が好きです~。
藤咲  喋り方だけ、そうしとこうかの。
飛車角 どうでしたか、うちらは。最高でしょう。よし、じゃあさっそく、(と台詞の途中で出ていってしまう)
鹿目  待って待って待って待って(と連れ戻し)もっとやれる。
千草  難しいっすよ。うちら、ダメダメなんで。車の免許持ってるの、リーダーだけだし。そのリーダーは車持ってないし。
鹿目  車の免許って関係あるかな……。
高咲  そもそもなんですけど。

   スクリーンにでんき組.コープのファーストアルバム『宇宙を救うのはお寿司』のジャケットが映し出される。
   『魁! 男塾』みたいな圧のあるイラスト。

高咲  皆さんのファーストアルバム『宇宙を救うのはお寿司』なんですけど。
鹿目  やっぱ『ねぇきいて?』って言わないと色気無いね。
高咲  皆さんが勝つためには、まだこの惑星に持ち込まれて間もない要素を強く押し出していく必要があるはずでそこを重点的に鍛えていくのが私たちのプランで……ってこういう説明小鳩さんうまいんだよな……(鹿目を見て)まあ、いいでしょう。
鹿目  諦めないでよぅ。
春日  萌えとエモね。先生から話は聞いてて、意識したつもりなんだけどな。
鹿目  まあまあかな。
高咲  甘やかさないでください! ……(切ない表情を浮かべる一同を見回して)まあまあです。
鹿目  ちょいちょい。
高咲  皆さんの歌い方だと何かこう、生命力は感じられるんですけど……(藤咲に)ちゃんと教えました?
藤咲  教えようと頑張ったつもりじゃ。
千草  なんすか、うちらが悪いんすか。
藤咲  まだ何も言うとらんじゃろう。(即座に)うん、そうじゃ。
千草  おい!
藤咲  ちゅーかよぅ、新しいものっちゅーのは説明して教えられるもんじゃなくね~? 生み出した本人が何だかわからないまま運用して、外野が分析するみたいなもんじゃね~? おぬしらがちゃんと研究しとけばこうはならなかったんじゃね~の?
高咲  いきなり丸投げですか。
鹿目  あのねおじいちゃん。萌えやエモって、まだ解明できていないの。でも、強力だから私たちはそれにすがっているの。
高咲  すがってるって言い方は……まあ、いいとして。例えば、もっとこう……歌声に感情が乗っかるとエモくなるんじゃないですか?
春日  それは……。
飛車角 歌声に感情がこもってない方が良いという判断で。
千草  あれだよね、マイケル・ジャクソンだよね。
鹿目  感情がこもってないっていうか、圧があるんだよね。声に。
五人  ええっ!?
鹿目  え、あれ無意識?
藤咲  そういう美学なんじゃ、この次元は。
高咲  逆に『BEAM my BEAM』のカバーをどう思いついたか知りたいですね。
鹿目  まず、立ち姿から意識しないとダメだよ。まるで……。

   チンピラみたいに立っているでんき組メンバー。
   「なんすかなんすか」と言いながら飛車角、千草が詰め寄る。

藤咲  よせ。
鹿目  歩き方だって、(真似して)こうだよ、こう。ダメだよそれじゃあ。

   また詰め寄る飛車角、千草。

藤咲  よせっちゅーとろうが。

   ここまで新田はずっとレッスン室の中央に椅子を持ってきて、座ったまま。
   伊澤は興味無さそうに隅の方に佇んでいる。

鹿目  そこの二人はどうなの?
伊澤  私はどうでもいいです。グループが良い方向に進むなら、口出ししません。
鹿目  じゃなくて。話し合いに参加してほしいの。
伊澤  別にこだわりとか、無いんで。
鹿目  あ、そうなんだ……。(新田に)あなたは?
新田  ……私は、萌えもエモも勝つためなら何でも利用させてもらう。でも……しっくりこないんだ。
高咲  (鹿目にこっそりと)グループの中枢があれじゃあ、ダメじゃないですか?
鹿目  諦めちゃ……見捨てちゃだめだよ。
高咲  別に見捨てるってわけじゃ。てか、言い直すんなら、もっと優しい言い方に直しません?
鹿目  今のひなちゃん、明らかに見捨てようとしてた。
高咲  (図星で)……。
鹿目  間違ってたらごめんね。
高咲  ほ、ほんとですよ。失礼すぎです。
飛車角 (新田に)やろうよ新田。これが勝つ決め手になるかもしれないんだ。
新田  断る。納得できていない、落とし込めていない。「納得」は全てに優先する。
飛車角 リーダー。
伊澤  ああ言ってるんならしょうがないんじゃない?
鹿目  わかった!

   間。

鹿目  私たちがご覧に入れましょう。萌えとエモの神髄を。
高咲  鹿目さん!
鹿目  (藤咲に)で、いいですか?
藤咲  おう。見たい見たい。本物の萌えとエモ、ぶつけてほしいわい。
鹿目  よし、(高咲の手を引き)やるよ。
藤咲  さ、勉強の時間じゃ。

   と、退場するでんき組メンバーと藤咲。

高咲  鹿目さん。
鹿目  ん~?
高咲  間違ってません……私、見捨てようとしてたかもです。……でも、わかりました、頑張りましょう。
鹿目  ん~……いいね(と親指を立てる)。

   鹿目と高咲による『Mirror Magic?』のパフォーマンス。
   パフォーマンスが終わると戻ってくるでんき組メンバーと藤咲。

高咲  わかりましたか? これが、萌えとエモ。(自分を指し)萌えと(鹿目を指し)エモです。

   でんき組メンバー、なんだかもやもやしているが掴み始めている様子。

新田  わからん!

   静寂。

新田  でも……追求する価値があるということは、はっきりとわかった。
伊澤  いいんじゃない?

   間。

新田  (小声で)ま、「納得」したわけではないが……。
春日  (伊澤に)ささ、リーダーなんだから、円陣を。
伊澤  そんな体育会系みたいなことできない。何て言えばいいの?
千草  「俺たちは強い」って言えばいいんですよ。
伊澤  どあほう。
飛車角 (堪えきれず)でんき組.コープ、ファイヤー!
春日  ファイヤー!

   バラバラに手をあげたりあげなかったり。
   声を出したり出さなかったり。

高咲  ……。
藤咲  近いうちに、大きなイベントがある。おぬしらはそこに参加し、実力を見せつける必要がある。
春日  (なぜか嬉しそうに)勝手にエントリーしてくれちゃって。
藤咲  そのイベントの名は……『圧倒邪武』!
高咲  ……それって、あっとじゃ
藤咲  『圧倒邪武』!!

   スクリーンに文字が表示される。

鹿目  あ、この邪武の字、あれだ、仮面ライダーだ。
藤咲  『圧倒邪武』!!!

   不必要に巨大な文字を残して舞台上は暗くなる。

   圧倒邪武の会場。
   ざわざわと観客が話す声が聞こえる。
   その渦中にいる高咲、藤咲、千草、新田。

高咲  まあまあの活気ですね。
藤咲  まだ対面で会えるイベントは珍しいからのお。我々も、お客様も手探りのようじゃ……とはいえ入場待ちのお客さんも多いと聞いておる。
高咲  なるほど。
藤咲  登場するグループもゴージャスじゃ。【陳・腐・東・京】【騎士道コンキスタドール】【プロジェクトA】……
高咲  なんかモヤモヤするグループ名いっぱいありますね。
千草  このイベントで一発ぶちかませば、景気づけになるだろ。

   そこに鹿目、伊澤、春日、飛車角が現れる。

鹿目  あの、他の出演者さんからご挨拶が、

   鹿目の向こうには他のアイドルグループのリーダーが立っている。
   彼女らを演じているのは、グレンサイダーを演じる俳優と同一である。

高咲  グレンサイダー!?
AOI いや、【陳・腐・東・京】のAOIです。(突然舞台の中央に立ち、遠い目をして)東京って街はペラペラだ……安っぽいこの街を吹っ飛ばす音楽をデリバリーするために活動してる。
新田  舞台のセンターは私の立ち位置です(と割り込もうとする)
倉野  (のを押しのけて)【プロジェクトA】倉野。お前らの運命は……俺が決める(そしてポーズと同時に怪鳥音)
城戸  【騎士道コンキスタドール】の城戸だ。(新田に)久しぶり。
高咲  なんだろう、グレンサイダーの人と顔が似てる。
藤咲  時代や国によって流行りの顔ってあるじゃろう。アイドルもそういうものに左右されるもんなんじゃよ。
高咲  まあ、確かに。
城戸  ま、せいぜいよろしくな。
鹿目  この星、萌えとエモと倫理観と礼儀作法が無いみたいです。
倉野  礼儀正しくしている場合じゃないんですよ。我々は皆、ライバルです。
鹿目  そういう側面があるのはわかるけど、挨拶は大切でしょ~? はい、大きな声で「よろしくお願いしま~す!」

   静寂。

鹿目  ノリも悪い。
AOI ノリが悪かろうと、勝てばいいのです。
高咲  まさか、ここでも喧嘩するつもりですか。そういうの、公式に認められてるんですか。
城戸  どうだかな~?
高咲  感じ悪ぃ~。
城戸  久しぶりだな、新田。
新田  誰だっけ。
城戸  あれからオーディションはどうなった? 受かったのか? ま、ダメだったからこいつらと組んでるんだろうな。
新田  どっか行けよ。
城戸  よろしく頼むよ。うちの前座として。
新田  ……。
城戸  (AOIたちにも)お前らもだ。このイベント、うちが勝つ。
倉野  空想を語る分には、好きにしたらいい。
AOI では、後ほど。

   城戸たち、退場。

鹿目  あの、真ん中にいた人(城戸のこと)三下っぽさやばかったですよね。
春日  新田、気にすること無いよ。
新田  ま、そうだよね。
高咲  (藤咲に)何かあったんですか?
藤咲  新田のプライドのため、詳細は話せないが……
新田  ……。
藤咲  まま、そういうことじゃよ。
高咲  わからん。
飛車角 まあいい。うちらは勝ちに来た。そうでしょう。そうと決まれば、勝つだけです。
春日  何も言ってないぞ。
飛車角 リーダーからも一言、くださいよ。
伊澤  ……まあ、その……頑張ろう。
飛車角 よし、頑張りましょう!!

   挨拶を終えた伊澤、退場。
   それを追って飛車角と春日も退場。

新田  ……。
千草  ……。
新田  出番までには切り替えておくから大丈夫だよ。
千草  そういう事じゃないよ。
新田  ……。
千草  あったじゃん、アイドルやる理由。
新田  ……こんな理由で続けていいのかわからん。
千草  いいよ。どんな理由であれ、お客さんが楽しんで帰ってくれるんなら。
新田  ……それでいいのかもわからん。
千草  とか言って。倒すリスト書いてること、私知ってるよ。
新田  ……。

   新田、退場。
   あとを追って千草も退場。

   会場のざわめき。
   突然『電波圏外SAYONARA』のパフォーマンス。
   しかし途中で音が止まってしまう。
   そこに現れる城戸。

藤咲  乗っ取りか!?
城戸  わりぃな。このステージもうちが頂くぜ。
鹿目  騎士道精神どこ行ったのよ。
高咲  待って、このステージ「も」!?

   AOI、駆けこんできて、

AOI 待て!
城戸  来やがったな。
AOI まだ終わってない! 
城戸  お前らの持ち時間は終わったはずだ、打ち上げにでも行ってこい。
AOI まず打ち上げるものが無い。
城戸  それもそうか。
藤咲  噂には聞いておったが、さすがコンキスタドール……侵略者と名乗るだけのことはある。
城戸  そういうことだ。じゃ、でんき組の諸君、そろそろお別れってことで。
新田  そうはいくか。このステージのセンターは私だ。そればっかりは譲れない。
城戸  関係無いね。ぶっとばすから覚悟しろ。
春日  リーダー、止めてください。このままだと喧嘩になりますよ。
伊澤  知らん。勝手にやってくれ。
春日  リーダー!!
千草  じゃあ勝手にやらせてもらう!

   殴りかかる千草。
   それを止めるAOI。

千草  てめえ、何だよ。
AOI コイツは私が止める。
千草  もう持ち時間無いんだろ? 止めたところで何にもなんねえだろ、(鹿目に)なあ?
鹿目  え? ええ、まあ、心理学的に復讐は何も生まないらしいけど、
AOI でもやるんだよ。病院送りにされた仲間の分までやるんだよ!
鹿目  ああっ……(よろめく)私、仲間っていう言葉に弱いの。
AOI ここまでうちらは仲間たちと共に努力してきた。その友情が結実したステージを、壊させるわけにはいかない!
鹿目  ああっ……(さらによろめく)
AOI 友情、努力、そして勝利だ!
鹿目  (勝利、と聞いた途端、真顔)
高咲  勝利はどうでもいいんだ。
春日  努力なら負けてねえ!
城戸  じゃあその方向を間違えたな。お前らのパフォーマンス、暑苦しさが減った! なんか、なよなよしてないか? 俺はそういうのは認めねえ。

   でんき組メンバー、「うっ」となる。

新田  別にやりたくてやってるわけじゃない。
高咲  えっ……。
新田  ただ……
城戸  やれって言われたのか? 
新田  ……。
城戸  それで、やったんだな。じゃあダメだ。やれって言われてやるだけの連中に、俺が負けるわけないんだよ。
新田  上等だ……皆、行くぞ。目にもの見せてやる。
城戸  おお、こいこい。やって見せてくれ。(客席にパイプ椅子を持ってきて座る)

   でんき組メンバー、客席を見渡す。

春日  待った。

   春日、舞台袖から倉野を引っ張り出してくる。

倉野  ……火事場泥棒作戦、失敗か。

   倉野もパイプ椅子を持ってきて客席に座る。

新田  見とけ、うちらの全力!!

   誰も反応しない。

藤咲  決め台詞くらい決めとけよ……。

   でんき組メンバーによる『Kiss+kissでおわらない』のパフォーマンス。
   萌えもエモも暑苦しさも中途半端。
   城戸が途中で止める。

城戸  ダメだダメだ、ダメダメだ! 本質を見失ったお前らのパフォーマンスなど、塵同然!

   城戸の言葉に吹っ飛ばされるでんき組メンバー。

城戸  俺レベルになると、MCだけで吹っ飛ばせんだよ。
高咲  そんなでたらめを……。
鹿目  よしなさい!
城戸  ?
鹿目  私の言葉で、(言葉に迷うが)吹っ飛ばす。
高咲  鹿目さん……。
鹿目  本質を見失ったとしても! それはたとえば、スタジオジブリが『海がきこえる』とか作ってる的なさあ! その! いや、あれはそうか、『おもひでぽろぽろ』的なラインなのか、じゃ、違うわ、えっと、だから!!! 
城戸  ……。
鹿目  あれ? あれ、あれ……えっと、何だっけ。

   静寂。
   誰も助けられない。

城戸  いいね~、かなり大爆笑。
鹿目  わ、笑わせようとしたんじゃないもん!
城戸  その真面目な姿勢がいいよ。
鹿目  ……。
高咲  吹っ飛ばすなんて無茶ですよ。あなた優しいんだから。
倉野  その優しさが命取り。
春日  黙ってな火事場泥棒。

   藤咲、舞台の端にメンバーを集める。

藤咲  このイベントを成功させなければ、次は無い。
千草  ええ。ですからアイツをぶっ飛ばせば、
藤咲  違う。譲るんじゃ。

   間。

藤咲  譲るんじゃ。
五人  いやいやいやいや……。
藤咲  これ以上揉めれば、このイベントそのものの二回目が無くなるじゃろう。そうなるより、ここは譲って次の機会に、ということで、
飛車角 見損なったよ、先生! うちら、いつだって今日が最後って精神で来たじゃないか。ここで逃げたら、皆悲しむ。
藤咲  イベントが無くなる方がもっと悲しむことになる。
飛車角 やってみなけりゃわからない!
藤咲  やってみなくても危険だってわかるじゃろ。
飛車角 やらなきゃダメなんです。先生。この間お話した件、覚えているでしょう。
藤咲  ……。
飛車角 私には時間が無いんです。

   話の途中で千草が攻撃を始めている。

藤咲  (気づいて)ええ……。
千草  お前ら全員かかってこい! このステージはうちらのもんだ!
倉野  (AOIに)このまま続けて持ち時間をゼロにするんだ。
AOI 命令するんじゃあない!
飛車角 (加勢して)アギト!
城戸  ステージはうちらのもんだ。寝ぼけたこと言ってんじゃないぞ。
千草  眠くなんかねえ。アギトぞ! 目なら覚めてる人ぞ!
高咲  (伊澤に)あなたはこれでいいの?
伊澤  大人なんだから、わかるでしょ。喧嘩なんて意味無いって。
高咲  わかんないから喧嘩してると思うんですけど……。
伊澤  これも学びの機会よ。控室にいるから、終わったら呼んで。

   伊澤、退場。

藤咲  もうダメだ……。

   手に負えない死闘。

城戸  そんなんだから勝てないんだよ。自分が無いから! 自分を理解できていないから! 自分を信じていないから!
新田  自分自分うるせえ!
城戸  納得できていないようだな。ならば来い。
新田  じゃかしいんじゃボケ! このステージのセンターはアタシだぁっ!
城戸  うりゃあああ!!

   二人、同時に駆け出してクロスカウンター!
   となる寸前に時間が止まる。
   千草がその場に倒れこみ、

千草  すいません、20分休憩ください!

   というわけで20分休憩。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?