戯曲『宇宙を救うのは』第二幕
でんき組には萌えやエモが無い……本当に?
別の宇宙って一体……?
気になったので書きました。
〇第二幕
いきなりでんき組メンバーによる『ピコッピクッピカッて恋してよ』のパフォーマンス。
終わって、メンバー同士、アイコンタクト。
「微妙」と誰かが言うのを待っている。
藤咲 微妙じゃな。
一同 ……。
藤咲 この間のイベントでの敗北を引きずっているじゃろ。
飛車角 引きずってません! な、皆!
間。
飛車角 引きずってます。
春日 よそう。あんたの気持ちもわかるけど。
飛車角 最速でいくんだったら諦めて普段通りのうちらでいくしかない。
千草 でも、そうやって戦ったら絶対負ける。
飛車角 絶対なんてない。
千草 あるだろ。ある。うちらは奇跡を待っていい人間じゃない。
春日 そこまで言うなよ。あんたの気持ちもわかるけど。
飛車角 だったらどうすんの。もっと練習しようってこと?
千草 それしかないだろ。せっかく次元を超えて先生が先生連れてきてんだ。うちらがそれに応えないでどうする。
春日 あんたの気持ちもわかる。
千草 だから、私は応えたい。
飛車角 使命感?
千草 漢気。
飛車角 このご時世に漢気とかやめてくれない?
千草 漢気としか言えないものが、ある。
高咲 (ハッとなる)
千草 こう、としか言えない何かが、ある。
飛車角 私にもあるよ、それくらい。偉そうにすんな。ていうか、その漢気って要は責任感みたいなもんでしょ? ドラマチックに言い換えたって、変わんないよ、本質は。
千草 確かに。言葉をどんなにいじくりまわりても、本質は残る。
飛車角 カッコつけんな。
春日 やめようよ、内輪の喧嘩は! あんたの気持ちもわかるけど!
千草 カッコつけてると思ってたの?
春日 思ってない!(飛車角を見て)思ってる!(千草に)思ってない!
千草 あんたどっちの味方なんだ!
春日 どっちでもない。強いて言うならグループの味方だよ。
間。
鹿目 でも、皆、この間のパフォーマンスはほんと、いい線いってたと思うよ。皆は、とっても魅力的で、ここからもっともっと上、目指せると思う。この勢いで行けばさ、絶対勝てるよ。
新田 勝てるわけないじゃん。
一同 ……。
新田 暑苦しさも無い、うるささも無い、あんたらが言う萌えもエモも無い。そんな中途半端な落ちこぼれが、勝てるわけないじゃん。なんなの? ばかなの?
高咲 やめてください! ……確かにこの人はばかかもしれません。
鹿目 おい。
高咲 でも真面目でいい人です。ばかだけど真面目です。ばかまじめです。
鹿目 そのフォロー嬉しくないんですけど……。
藤咲 新田よ、でんき組.コープは落ちこぼれの集まりなんかじゃない。真のエリート集団じゃ。
新田 そうですか(出ていこうとする)
千草 新田……やろうよ。この人たちがここまで言ってくれてんだ。それに応えないのは、やっぱ、ダメじゃないか?
新田 ……知るか。あたしゃ関係無いね。
伊澤 新田。センター、やるんじゃないのか。
新田、伊澤の言葉を聞き一瞬考えるが、退場。
飛車角 さて、どうするか……。
千草 (鹿目を見て)誰か助けてくれねーかな。
高咲 こっちも見なさいよ。ていうか、うちらは名簿に登録してないから無理でしょ。
飛車角 センターが抜けたんじゃあ、見栄えも悪いし……パネルでも置くか。
千草 パネルは動かないよ。
飛車角 でも空間が埋まる。それで乗り切るしかないんじゃないか?
千草 それで勝てるのかよ。
春日 万が一に全てを賭けるしかない。
飛車角 (伊澤に)どうする……。
春日 リーダー、決断してくれ。
伊澤 ……パネルは無しだ。フォーメーションの邪魔になる。四人の方向で準備しよう。
春日 ……わかった。そうしよう。
伊澤 (飛車角に)あんまり急ぐな。
でんき組メンバー、飛車角を残して退場。
飛車角 時間が無いんだよ……!
飛車角、退場。
高咲 今のままで、萌えとか、エモとか、入れられますかね。
藤咲 いや、今はとにかくパフォーマンスを完成させるのが最優先じゃ。
高咲 (鹿目に)どうですか?
鹿目 ……萌えとエモか……もう、すでにある気がするけどね。
高咲 ……わかります。なんだかわからないけど、こう、としか言えないもの……。
藤咲、鹿目、退場。
不安そうに見つめる高咲も、あとを追って退場。
一人歩く新田。
振り向くと、グレンサイダーの三人が立っている。
新田 一人になるのを待ってたか……。
身構える三人。
新田 来るなら来い。全てを破壊してやる。
一人対三人の戦い。
以下、戦いながらの会話。
大木 この間のステージ見たぞ。何か妙なことをたくらんでいたようだったけど、失敗だったな。
新田 ……。
中島 何を吹き込まれたか知らないけど、そこそこって感じでしたね~。あれは。
小山 だが、それでも削れないほど、お前自身の魅力は強かった。
新田 心にもないことを!
大木と中島に抑え込まれる新田。
小山 ここから先は、提案だ。
新田 ……。
小山 君を、グレンサイダーに加えたい。
大木 うちらはあんたを評価してる。これはマジだ。
新田 ……。
小山 一緒にやらないか。こっちならもっと自由だ。
新田 ……。
小山 まあ考えといてくれ。「(上演している会場名)」で待っているぞ。
そして、小山、中島、大木退場。
一人取り残される新田。
何に対してか、自分でもわからないような憎悪が瞳に宿っている。
突然舞台上が暗くなり、スクリーンに古川議長の画像が投影される。
古川 鹿目・高咲ペア。こちら秋葉原本部。議長の古川だ。緊急の連絡がある。部屋を明るくして、テレビから離れて見てほしい。
スクリーンの前から離れた場所に立つ鹿目と高咲。
別空間に相沢が浮かび上がる。
鹿目 あ、相沢さん、お疲れ様です。
相沢 つながったようね。(矢継ぎ早に)二人とも、今、どんな調子? 申し訳ないのだけれど、すぐに帰還しなさい。
鹿目 ちょっと、待って、
相沢 待てない。あなたたちは今、並行世界にいるの。
鹿目 いや、惑星D87に、
相沢 ええ、私もそう思っていたわ。でも、そうではないの。そこは、私たちのいる地球……アース10893とは別の地球。言うなれば、アース87。
鹿目 へえ。
相沢 でんき組.コープは我々でんぱ組.incの並行同位体である、というわけね。言い換えるならば、もう一つの可能性。
鹿目 はい……。
相沢 何かがおかしいとは思っていたけれど……。
高咲 待ってください、要するに私たちは惑星間移動を行ったのでは無く、
相沢 ええ、ハイパードライブ中に別の銀河へ移動していたようね。
鹿目 (高咲に)待って、わかんない。
高咲 惑星D87はもう一つの地球ってことですよ。
相沢 というわけで、緊急帰還命令が出ています。このままではインカージョンを起こしかねないわ。
鹿目・高咲 いんかーじょん。
相沢 知らない? 並行世界同士が引きあうことで、ぶつかり合い、連鎖的に複数の並行世界が崩壊してしまうことよ。仮に途中で止めたとしても世界が混ざり合うことで秩序が変わってしまう可能性は高い。これを回避するために並行世界の移動には複雑な手順を踏む必要があるのだけれど、今回のケースは……悔しいけれど仕方がない、としか言いようがない。
鹿目たち、明らかに真面目に聞いていない。
「インカージョン」を繰り返している。
だんだんエスカレートして別人になっていく。
ていうか顎がしゃくれていく。
相沢 ねえ、ちゃんと聞いてるの?
高咲 (しゃくれたまま)聞いてます。
相沢 ……どうして急にしゃくれたの、あなた。
高咲 ! (戻って)こ、これは
相沢 インカージョンはすでに始まっているのね……。
高咲 え、
相沢 緊急帰還命令よ。それに応えなければ、私たちもそちらに向かう。
鹿目 相沢さん今日めちゃめちゃかわいいんですけど、何かありました?
相沢 え? それは関係あるの? ……まあ、教えてあげる、それは(何か日替わりで話し始める)
ブツッという音と共に通信が切れる。
高咲 ……。
鹿目 あー大変だ。インカージョンだって、
高咲 わざとでしょ。
鹿目 ……。
高咲 今、わざと変な質問して、時間を稼いだんでしょ。
鹿目 そんなことしてない。ほんとにわかんなかったの。
高咲 鹿目さん。気持ちはわかりますが、インカージョンが本当に起こったらとんでもないですよ。
鹿目 インカージョンって何だかわかる? 互いの並行世界が引きあうことで連鎖的に世界が消滅すること。そうね、その通り。
高咲 まだ何も言ってませんよ。
鹿目 で、途中で止まっても混ざり合うかもしれないんでしょ? でもね、強固な世界観がある人たちは、どんなに混ざり合っても、本質は変わらない。
高咲 ……。
鹿目 シンプルよ。引き合う二つの世界が、引き合いながら強く押し合えば、世界は崩壊しない。適度な距離感でいられる。
高咲 ……。
鹿目 つまりね、私たちが今すべきなのは、でんき組をより強固なグループにしていくってことだよ。萌えとか、エモとかは確かに大切だけど、付け焼刃じゃダメに決まってる。
高咲 ……悔しいですけど、納得してる自分がいます。
鹿目 (優しく笑って)私、会議は苦手だけど、一応研究者として名前通ってんだからね。
高咲 相沢さんにそう説明すればよかったのに……。
鹿目 あと、グレンサイダーに勝ちたいっていうのもあるよね。ていうかそっちが本題だよね。
高咲 そっちですか。
鹿目 勝手に揉め事を起こしたのはばれたくないし。
高咲 それはそれでどうかと思いますけど……。え、じゃあ諦めるんですか、萌えとエモ。
鹿目 いや、皆はもう持ってるよ。だから大丈夫。
高咲 ……。
鹿目 よし、稽古場に戻ろう。
稽古場へ急ぐ二人、そのまま退場。
稽古場。
新田が駆け込んでくる。
そこに立ちふさがる春日と飛車角。
無言のまま戦う三人。
遅れて入ってくるも、何をすればいいかわからない伊澤。
なんだか重々しい雰囲気に包まれている。
そこに駆け付ける高咲と鹿目。
踏み込もうとする鹿目を高咲が止める。
鹿目 何で喧嘩してるか全然わかんない。
千草がそこに駆け付ける。
戦う千草と新田。
ほぼ互角の実力。
千草 何故こんなことをする?
新田 ……小山に、誘われたんだ。
千草 で、行くの?
新田 (即座に)まさか。……でも、ちょっといいな、とは思った。だから、(戦闘態勢を取り)お前らがいなくなれば、後腐れなく加入できると思った。
千草 なるほど……。
千草も応えて戦闘態勢を取る。
二人の間に割り込む鹿目。
鹿目 よしなさい。
新田 ……(葛藤するが、拳をおろす)。
千草 (優しく笑って)鹿目さんの言う事は聞くのかよ。何で?
新田 ……わからない。でも、初めて会った頃からずっと、……わからん、なんか、飛行機が離陸したみたいな気持ちになってる。……だからだ。
高咲 余計わかんない。
鹿目 (と言う高咲を小突いて)それが、萌え、だと思う。
新田 だとしたら、私はあんたみたいになれない。向いてないんだ。このグループに。
鹿目 そんなこと無い! ていうかごめん、私が勘違いしてた。皆はもう、持ってるよ、萌えと、エモの素質を。
新田 は。
鹿目 (千草に)漢気みたいに、さ。
千草 ?
鹿目 こう、としか言えないもの。私たちはそれを萌えとエモと呼んでいるだけにすぎないの。だから、私たちの提示する萌えやエモをそのままトレースするんじゃダメだった……気づくのが遅くてごめん。
新田 じゃあ何。うちらは、今のままでいいってこと?
高咲 ある意味ではそうだし、ある意味では違う。
新田 ああ?
高咲 もっと突き詰めていかないと、勝てない。
飛車角 でもまあ、要するに勝ち筋はあるってわけだな。
高咲 ま、そういうことね。
五人 ……。
藤咲 さて、一応の答えが出たところでここから先はわしらに任せてほしい。
鹿目 え。
藤咲 わしが愚かじゃった。このままではインカージョンが発生してしまうのじゃろ。
五人 いんかーじょん。
藤咲 そうなんじゃろ。
高咲 ……ええ。実は、帰還命令が出ています。
鹿目 でも、秘策があるの。それを実行に移すためには、皆の力が必要。だから、命令は、その……(ニヤニヤしてごまかす)
藤咲 (シリアスに)そうか、そこまでして……。
新田 命令違反か……自分の立場が危うくなるだろ? 何でうちらに賭けた?
鹿目 あなたたち風に言うなら、そうね……浮世の義理も、昔の縁も、三途の川に捨之介。
高咲 泥をすすって足掻いた俺の、ここが命の捨て所って? 冗談じゃない。
新田 ……ばかか、あんたら。
鹿目 ええ、ばかよ。でもまじめ。ばかまじめなの。私たちは。
高咲 (「私たち?」とムッとするが考えて)そうですね、私たちでいいと思います。
鹿目 ていうかね、いいところだけ持ってこーなんて、甘い甘い。
春日 ……そうと決まれば、やるしかないな。
千草 ああ。やろう。
伊澤 ……。
鹿目 さあ、みんな! ライブ会場に向かって、走るわよ!
一同 えっ……(各々、「走るのは……」みたいな)
新田 走ろう。
センターに割り込んで、その場で駆け足。
新田 全力全開だ!!
会場に渡辺宙明の『見よ!! ゼンカイジャー』が流れ、スクリーンに映し出される、移動中のでんき組メンバーたちの画像。(イメージとしては、『でんぱの神神』で武道館まで徒歩で行った回みたいな)
日替わりで違う画像が一部流れると尚良い。
途中様々な交通機関に乗っている画像も差し込まれたり、全然ライブに関係無い場所で観光している画像も差し込まれる。
そこに城戸の声。
城戸 待ちな!
舞台上には、城戸とにらみ合うでんき組メンバー、藤咲、鹿目、高咲。
メンバーたちはそれぞれ地方のお土産を身に着けている。(直前まで行っていたツアーの会場にちなむ物だととても良い)
城戸 聞いたぞ~。対バンだってな~?
新田 ここでも邪魔するか、城戸。
城戸 実力の無い人間が戦ったところで、こないだの二の舞だ。やめた方がいい。
新田 やめない。
城戸 ……お前はいつだってそうだ。俺が行くなって言えば行くし、諦めろって言ったら絶対に諦めない。あのオーディションだってそうだ。だが、行ってどうなった? 諦めなかった結果どうなった?
新田 ……。
城戸 大人になれ。引き際を考えろ、身の丈を考えろ。……お前には無理だ。
間。
新田 大人になるってことは……どこか、諦めることだと思ってた。
鹿目 え。
新田 でも、今は違う。満ちてるんだ、体に、力が、パワーが、力パワーが。
高咲 何それ。
新田 今なら勝てる気がする。
城戸 相変わらず根拠の無い演説だけはうまいな。
千草 待て。……こいつに根拠があったことなんて一度も無い!
新田 え。
千草 だから好きだ。
新田 ……(千草とアイコンタクトをし、頷く)
にらみ合う千草、新田と城戸。
新田 こいつとの決着は私がつける。皆は先に行って待っててくれ。
春日 いやいや、普通センターとかリーダーは最後まで残るじゃん。こういうとこはうちらじゃん。
城戸 黙れ、これは漫画ではない!
新田 ここは私に任せろ。私がやる。そうでないと意味が無い。
千草 私も残る。
新田 リーダーがいれば、なんとかなるだろう。
伊澤 ……。
千草 さあ来い!
藤咲 (他のメンバーに)行くぞ。
春日 でも!
藤咲 あやつらならば、大丈夫じゃ。
飛車角 先を急ごう。
千草、新田を残し退場するでんき組メンバー、藤咲、高咲、鹿目。
格闘する三人。
激闘の末、吹っ飛ばされる千草。
城戸 そこで寝てろ。
千草 まだだ……まだ眠ったりなんかしねえ! アギトぞ! 眼ならとっくに覚めてる人ぞ! 目覚めろ、その魂!
城戸 黙れチンピラ!
千草 黙らない! あいつがここで埋もれる筈がない。時代を変えるんだ、五人で。
新田 千草……。
千草 いくぞ、新田。
城戸 やってみろ!!
千草、新田のダブルライダーキックを受け止める城戸。
舞台は閃光に包まれ、真っ暗になる。
にらみ合う倉野と飛車角、AOIと春日。
倉野 君たちに恨みはないが……。
AOI 出る杭は打っておかないと気が済まない。
春日 その精神性、危け
飛車角 わかるよ。
春日 私もわかる。
飛車角 でも、正面から対決して勝つ方が美しい。
二人、うっ、となるが、
倉野 誰かが見ていることで美醜の判断ができる。決めるのは、お客様だ。
飛車角 客観性を欠いたってこと?
倉野 冷静でいられるような世界じゃないんだよ。
AOI ……もう始めましょう。(春日に)正直、今も悩んでます。
春日 あ、そうなんだ。
AOI だから今始めないと……(戦闘態勢を取り)
春日 (合わせて戦闘態勢を取り)ま、勝てばいいか。
四人の激闘。
ほとんど相討ちになる。
飛車角 この対バンが終わったら、……私、卒業するつもりだったって知ってた?
春日 言われなくても、そんな気がしてた。偉いよ、あんたは。
飛車角 引き際を見抜けたことが?
春日 いや……自分で決めたことが。
飛車角 ……行こう。皆が待ってる。
春日 ……このまま歩いて行けるかな。
飛車角 わからない……。
飛車角と春日がぐったりとしたまま、舞台は静かに闇に包まれる。
伊澤、藤咲の二人が現れる。
藤咲 待つしかあるまい。
伊澤 ……勝てると、思いますか。
藤咲 もちろんじゃ。
伊澤 何で?
藤咲 おぬしには間違いなく才能がある。
伊澤 車の免許持ってるってだけでしょ。それなら世界中の人間がなれちゃうじゃん、アイドル。
藤咲 ……。
伊澤 一人でやるよ。
藤咲 何。
伊澤 一人でもできたし。
藤咲 ならば何故このグループに入ってくれたんじゃ。
伊澤 足がかりだよ。一人でデビューする日までのね。
藤咲 ……。
伊澤 まあ、騙したみたいになってたんなら悪かった。私の責任。……じゃ、着替えてくるから。
伊澤、退場。
グレンサイダーのパフォーマンス。楽曲は、DSPMの中から一曲、お任せで。
パフォーマンスが終わり、舞台に現れる鹿目。
小山 どうした、逃げたか?
鹿目 まさか。突然キャンセルしたりしない。絶対来る。
大木 へえ。根拠は。
鹿目 ……無い。
小山 それで絶対と言い切る度胸だけは、認めよう。
鹿目 もっと褒めるべきところがあるんじゃない?
小山 ……?
鹿目 私たちがとっても可愛いってことよ。
小山 面白い……。
突然割り込む藤咲と高咲。
高咲 面白いんじゃなくって、
藤咲 かわいいんじゃよ!
突然、高咲、鹿目、藤咲による『ファンシーほっぺ ウ・フ・フ』のパフォーマンス。
吹っ飛ばされるグレンサイダー。
高咲 すごい、おじいちゃん、萌えとエモを体現してる……。
藤咲 まあ、(腕を示し)これじゃよ。
鹿目 (純粋な疑問で)どれ?
藤咲 だからこれじゃって!
鹿目 (まだピンときておらず)どれ?
小山 なかなかやるが、これはエキシビションマッチにすぎない。どんなに頑張っても面白いだけであって、勝敗には一切関係無い!
鹿目 面白いじゃなくってかわいいんだってば!
中島 そろそろ時間じゃないか?
大木 いいんですよ、あなたたちの負けで。
鹿目 待った待った! ……うああああ、万事休すか!
高咲 折れるの早っ! 信じましょう。私は、もう二度と見捨てないって誓いましたよ。
鹿目 (小声で)いつの間に……。
高咲 (というのは聞こえず)鹿目さんは?
鹿目 (笑って)信じるに決まってるでしょ。
藤咲 ここまで来たら、祈るしかあるまい。
大木 待っていてもいいが……そろそろわかるな?
鹿目 はい?
大木 この世界のルールだ。ステージは、力ずくで奪っていい。
中島 ちょうど三対三ですな。
高咲 ええええ! ちょっと待ってくださいよ、こっちの一、おじいちゃんですよ。
中島 問答無用!!
新田(声) そこまでだ!!
舞台の照明が突然暗くなる。
声だけが聞こえる。
中島 おい、誰だ! 私を持ち上げるな!
大木 なんだかわからんがバックアップ電源に切り替えるぞ。
照明がつく。
すると舞台には、逆光を背負って立つ真新しい衣装を着たでんき組.コープの五人が!
小山 間に合ったのか!
飛車角 リーダーのおかげさ。
伊澤 たまたま運転免許を持っていたのが私だけだったっていう話だ。誰でもよかった。
飛車角 でも、道で寝てた私たちを見つけてくれた。
伊澤 だからそれくらい、
中島 おいおいおいおい! だらだら喋ってるんじゃあないぞ!
大木 なんだなんだ? アイドルたるもの、まずは名を名乗れ!
新田 ……名乗っていいんだな?
一同 ……?
新田 名乗って、いいんだな?
五人、ぐっと構えて名乗りを上げる。
春日 右か左の二択でも、迷わず真ん中撃ち抜く拳。春日陽光
飛車角 迷ったとしても迷わない、スピード命の人生観。姓は飛車角、名は京子
千草 目覚めよ、その魂……千草アギト。
伊澤 一人で五人の働きで、五人を一つにまとめあげ、一つしかないこの命、今日は五人に捧げよう。私がリーダー、伊澤亜里沙。
新田 さあてどん尻に控えしは、ゼロ番に生まれ、ゼロ番に死す。新田涼香! 冥土の土産に、あ——
五人 覚えておきな!
春日 でんき組.コープ、ファイヤー!
五人 ファイヤー!!
藤咲 自己紹介もばっちりじゃ!
その勢いのまま、でんき組メンバーによる『BEAM my BEAM』のパフォーマンス。
小山 明らかにスキルアップしている!
中島 途中の妨害のせいで明らかに結束力が増している!
大木 我々もッ、反撃しなければならない!!
グレンサイダーのパフォーマンス。
圧倒されながらも、勢いを増すでんき組メンバーたち。
春日 ああ……やっとだ! やっとライブで闘えた。そうだよ、最初っからずっと、こういうのをやりたかったんだ。
飛車角 感動してる暇はないぞ。
新田 ああ。
伊澤 何がなんだかわからんが、これが萌え!
春日 これがエモ!
千草 そしてこいつが漢気だ!!
新田 見せてやる、うちらの全力全開パワー!!
でんき組メンバーによる『わっほい? お祭り.コープ』のパフォーマンス。
なんだか圧倒されるグレンサイダ―。
曲がちょうどいいところで一時停止。
小山 なぜ、でんき組にこだわる。
新田 当たり前でしょ。あんたらのセンターになったところで面白くもなんともない。こいつらから勝ち取ったセンターだから価値があるのよ。
パフォーマンスが再開される。
その前に膝をつくグレンサイダー。
小山 ……納得いかん。
新田 そうかよ。
小山 ……だが、理解した。我々の負けだ。
大木 (頷く)
中島 (頷く)
小山 結果には従おう。それが対バンの決まりだ。
グレンサイダーのメンバーたち、各々晴れやかな顔で退場。
千草 スポーツマンシップはしっかりあるみたいだ。
春日 あー残念。まだ一曲残ってるのにな。
飛車角 ……あのさ、
千草 知ってた。全部。これで最後なんでしょ。
飛車角 ……ま、はい。
千草 じゃあ逆によかったじゃん。飛車角のためだけに、歌える気がする。
鹿目 (高咲に)世界が変わっても、変わらないんだね。
高咲 はい。それってとっても……良いと思います。
でんき組メンバー五人だけが舞台に残り、『くちづけキボンヌ』のパフォーマンス。
飛車角 ……なんだか、あっけないな。
一同 ……。
千草 何か、一言、
飛車角 無い。
一同 ……。
飛車角 (メンバーたちを見回し)うん、無いな。
新田 私はある。……ライブ、見に来てよ。
飛車角 (頷いて)あばよ。
一同、各々の想いでうなずく。
飛車角、退場。
藤咲 さて、こうしちゃおれん。飛車角の想いを受け継いで、新アルバムも出すぞ。
高咲 タイトルは?
鹿目 時系列的には『WORLD WIDE DEMPA』だね。
春日 『WAREGA WAREGA DENKI』[我が 我が でんき]
高咲 自己主張激しい~。
藤咲 そして、わしがわしがでんき組組長、ノスタル爺である。
高咲 自己主張激しい~!!
春日 待ち遠しいな。
新田 これからだ。全て、ここから始まるんだ。
鹿目 うちらも帰ろう。うちらの宇宙に。
高咲 そうですね。待ってる人たちがたくさんいますから。
鹿目 ……ずいぶん優しくなったじゃん。
高咲 最初からそうでした。
鹿目 ちょいちょい。
高咲 それじゃあおじいちゃん、お元気で。
藤咲、帰ろうとする二人を呼び止める。
藤咲 なあ。まだ、続けてくれるのじゃろ。これからも、萌えとエモを伝えていく、正義のアイドルグループとして!
鹿目 正義の……?
鹿目、高咲、顔を見合わす。
二人 よせよせ、柄じゃねえよ!
二人、駆け去る。
藤咲 待って。もう、決めたんだ。
あとを追う藤咲。
音楽が盛り上がる。
しかし、後ろ歩きで戻ってくる三人。
それと一緒に古川が現れる。
古川 ライブ成功、おめでとう。
鹿目 ……ありがとうございまーす。
そしてでんき組メンバーの前に現れるでんぱ組メンバー。
相沢 鹿目さん、あとで報告書を書いてもらうからね。うまくいったとはいえ、命令違反ですからね。
天沢 (古川に)議長、そうなんですか?
古川 ああ。これもシナリオ通りだがね。報告書は書いてもらう。(鹿目に)この間のように漫画形式で提出するのはやめなさい。
鹿目 うぃっす。
古川 (ちょっと腹が立つが)この反応もシナリオ通り。
空野 藤咲さん、そろそろ戻ってきてくださいよ。
藤咲 ……しょうがないな~(付け髭を外し)これでいい?
新田 おじいちゃんが!
千草 美少女に!
藤咲 うん、ありがとう。
千草 美少女に!!
藤咲 ありがとう。
千草 美少女!!!
藤咲 もういいかな。
千草 いくら褒めても褒め足りないっすよ~。
鹿目 え、どういうことなんですか。
藤咲 ノスタル爺は、意識をインターネット上に保存していたのね。それの依り代として私の体を使っていたわけ。このプロジェクトのために。
鹿目 めちゃめちゃ体張ってますね。
藤咲 鍛えてますから。(「シュッ」と『仮面ライダー響鬼』のポーズ)
春日 (小鳩を見て)すげ~本物だ。すみません、写真、いいですか。
小鳩 あ~、対象商品5000円以上買ってくれたらぁ~……いいよ。
春日 優しい~。
天沢 それで鹿目さん、結構な規律違反ですが、なにか策があるからですよね?
鹿目 ええ。私の理屈だと、インカージョンは防げます。でんき組.コープがアイドルグループとしての魅力を覚醒させることができたから。
古川 ほう。
鹿目 こちらの世界と私たちの世界。二つが強烈にぶつかり合うことによって均衡が保たれる。こうしてインカージョンは起こらないってわけです。
相沢 カオスとコスモス。あり得ない話じゃないわね。
小鳩 でも、あれは萌え?
高咲 あれも萌えです。そして、エモです。与えられるものじゃない。名づけられて気づくものが、萌えとエモである、というのが我々の結論です。ゆえに求められるのは……ありきたりな言葉ですけど、自分らしさ。
小鳩 ふーーーん……ま、いいや。解決したってことで、はい、飲みに行く人―!
相沢 (しれっと手をあげる)
高咲 待ってください! その力を引き出すために、もう一曲ライブをしようと思ってまして……。
相沢 (少し寂しそうに手をおろす)
古川 ここまで来たらやるしかないだろう。曲は? 天沢氏、アルバムから一曲選んでくれ。
天沢 (相沢に耳打ち)
相沢 では、でんぱ組.incと、でんき組.コープの特別コラボ
伊澤 すげえ、なんかいい声だ。
空野 そりゃあ、ラジオパーソナリティだから。
相沢 『Future Diver』
『Future Diver』のパフォーマンス。
無事、それを終える。
鹿目 何回やってもいい曲だな~。じゃ、私たちこれから反省文提出だから。
高咲 あと、補習も。
鹿目 皆も元気でね。
千草、新田の背中を押す。
新田 助かったよ。ありがと。
鹿目 うん。ありがとう。
新田 ……。
鹿目 ……?
相沢 挨拶は終わった?
鹿目 また会えますよね。
相沢 どうかしら。
鹿目 また会おうね。
新田 ……。
鹿目 また、会おうね。
新田 ……(そっぽを向いて)考えとく。
鹿目 じゃ、またね!
でんぱ組メンバー、退場。
春日 先生がまさかオリジナルメンバーだったなんてね。
飛車角 でも人格はおじいちゃんなわけでしょ。
春日 見た目美少女で中身おじいちゃんか……なんかいいな。
飛車角 萌え、か?
春日 さっそく使いこなしてるね~。
千草 新田。でんぱ組.inc、倒したいリストに書いとけば?
新田 ……もう書いた。
千草 (春日を指し)微妙な顔してる。
春日 物騒なことはしたくないんだよ。
伊澤 あのさ、リーダーっぽいこと言うんだけど……。
千草 いやリーダーなんだから好きにしなよ。
一同 (頷く)
伊澤 時間はかかったけど、ここから始めよう。我が……我々がでんき組.コープだ。
朝日を受けて輝くでんき組メンバー。
闇に包まれた舞台上。
スクリーンには『戯曲・ONE NATION UNDER THE DEMPA』『戯曲・でんぱぁかしっくれこ―ど』などの場面写真が映し出される。
『戯曲・ONE NATION UNDER THE DEMPA』などのときとはまた別のキャラクターとしての空野、相沢の会話が声だけで行われる。
相沢 また遅刻?
空野 「また」って、最新の遅刻は二年前でしょ。
相沢 緊急連絡があったらすぐ駆けつけるのは常識でしょ?
空野 メールは読んだ。インカージョン、だっけ。
相沢 そう。でも奇跡的に救われた。この娘(鹿目、高咲の画像)たちのおかげでね。
空野 すげー。こっちの二人にも見習ってほしいわ。
相沢 それで、ついに完成したの。
空野 まさか、次元移動装置? いいじゃん(装着させられたような音がして)痛っ!
相沢 どうかした?
空野 いや締め付けが。
相沢 そりゃ、あたしの趣味だ。
空野 いい趣味してる。
相沢 これで、自分で行きたい次元に行ける最初の人類ってことね。あるいは最後かも。
空野 じゃ、成功するのはイチかバチか?
相沢 知らない。さ、どこに行きたい?
空野 う~ん、最初の方、見てみたいな。……決めた。アース919。
スクリーンにアース919の文字。
照明がつくと、チープな衣装に身を包んだ古川が立っている。
『みりかる★ファンタジー』のパフォーマンス。
終わったところで駆け込んでくる空野。
新しい衣装か、あるいはちょっとSFっぽい衣装か。
次元移動用のデバイスがついている。
空野 古川未鈴さんですね。ご同行願います。
古川 (装着されている箇所を指し)大丈夫ですか。
空野 え?
古川 締め付け……。
空野 もう、気にしてるのに。
古川 え、あの、すいません、割り込みは……
空野 すげ~目が泳いでますよ。
古川 気にしてるのに。それで、何の話でしたっけ。
空野 今、必要なんです。あなたの力が。
古川 ……(笑顔の中で困惑と喜びが交互に出続けている)
空野 あなたにアイドルグループの……でんぱ組.incの話をしに来ました。
古川 それ……私がセンターってことで大丈夫ですか。
スクリーンに『Furukawa Mirin will return [古川未鈴は帰ってくる]』と表示される。
了