感想戯曲・戯曲でんぱぁかしっくれこーど

 12/15新宿で上演された『戯曲でんぱぁかしっくれこーど』を見ながらずっと自分に問うていました。憧れていて、でも間に合わなかった時代についてとか、生き残ってしまった自分についてとか。
 間に合わなかった、体験しなかった、可能性を考えたこともなかった私の出した結論です。

 重要キーワードである「宇宙」を完全に取りこぼしていて、だからこれは完全に自分事に寄せていることをあらかじめ宣言しておきます。

 上演が公の場でされたということ(=内輪の出し物では決してない)そしてそれを受け取ったということの意味は必ずあるはずで、それが戯曲という形で表出できたらいいな~と思いました。ので書きました。
 あと私、戯曲書けるし。

 私、戯曲書けるし!!
 書きます!!

 以下、本編です。

『感想戯曲・戯曲でんぱぁかしっくれこーど』

【舞台】東京から遠く離れた農村、あるいは地方都市。
【登場人物】
※全員女性の設定です。
 
朝村
伊槻
猫田
小林
 
古田
天堂
 
レオ:朝村の曾孫
爺婆
 
 
 

〇2095年


夕方。
駅の前で、レオがおもちゃで遊んでいる。
アナウンスがあって、電車が入ってくる音。電車が止まって、ドアが開く。
中から伊槻が現れる。(ってさすがに無理なので、登場の意)
伊槻は20代くらいでスーツを着て、スーツケースを持っている。
 
伊槻 「そこの、君」
レオ 「え……」
伊槻 「この辺に朝村さんって人、住んでないかな」
レオ 「知らぬ」
伊槻 「知らぬかぁ……ね、CD見たことなぁい? 探してるんだ。CD」
レオ 「CD?」
伊槻 「コンパクトディスク」
レオ 「知らぬ」
伊槻 「知らぬかー……本当? じゃ、こう言ったらわかるかな」
レオ 「知らぬ」
伊槻 「『でんぱぁかしっくれこーど』ってんだけど」
 
間。
 
伊槻 「隠しても無駄だよ」
レオ 「知らぬ」
伊槻 「お姉さんね、苦労してここまで来たんだ。相変わらず不便だね~ここは。電車は一時間に二本だし、その電車は二両しかないし、しかもドアは手動で開けるし。大変な思いをして来てるのにさ~、知らぬは無いんじゃないかな」
レオ 「ばあちゃん!」
伊槻 「!」
 
朝村が現れる。
だいたい見た目は50代くらいだけれど、内面はもう少し歳を取っている。
 
朝村 「……レオ、その人から離れて」
 
レオが離れるが、伊槻は気にしない。
 
伊槻 「朝村か」
朝村 「……」
伊槻 「ずいぶん歳を取ったな」
朝村 「伊槻は変わらないね」
伊槻 「『でんぱぁかしっくれこーど』、渡してくれないかな」
朝村 「厭だ」
伊槻 「そんなこと言って……(と朝村を捻り上げると、隠し持っていた『でんぱぁかしっくれこーど』を奪い取る)ほら。返したかったんだろ?」
朝村 「違う。大事なモノなんだ」
伊槻 「知らぬな~」
朝村 「レオ! 小林ちゃんとこに行ってなさい」
 
レオ、駆け出ていく。
 
伊槻 「このCD,回収対象なのは知ってるよね」
朝村 「……」
伊槻 「そこは知らぬ、じゃないの?」
 
伊槻、朝村を放る。
 
伊槻 「(CDを見ながらしみじみと)懐かしいな~。こんな時代もあったね」
朝村 「返せ」
伊槻 「本物かどうか確認したいからさ(とスーツケースを取り出し)一度聞いてみようよ」
朝村 「返せ!」
伊槻 「(ディスクをスーツケースの中のプレイヤーにセットし)これが最後の再生だね」
 
スーツケースを閉めると、1曲目『でんぱぁかしっくれこーど』が流れだす。

逆光!(その隙に退場する二人!!)
そしてスクリーンにタイトルが映し出され、時代は2015年に。
 
 

〇2015年


 
電車のつり革につかまる学生服の伊槻と朝村。
二人で雑誌を一緒に見ている。
 
朝村 「いいな」
伊槻 「ああ。いい」
朝村 「スカートの丈かな」
伊槻 「それは関係無い」
 
電車が止まる。
二人、電車を降りる。
電車のドアが閉まって、走りだす。
 
朝村 「いいな」
伊槻 「いいね」
朝村 「アキバ」
 
二人、目を閉じてイメージする。
 
朝村 「全然わからん」
伊槻 「わからんよ」
 
猫田と小林が合流する。
 
猫田 「おはよう朝村」
朝村 「おはよう」
小林 「雑誌の持ち込みは禁止でしょ」
伊槻 「雑誌じゃない。歴史的な資料だ」
猫田 「でも雑誌なんだよね?」
朝村 「雑誌だよ」
伊槻 「朝村~」
小林 「(雑誌を見て)あ・き・は・ば・ら……オタクだ」
伊槻 「そんなシンプルな言葉じゃくくれないぞ」
小林 「へえ、どういうもんなの?」
伊槻 「聞かせてやろう」
 
伊槻がセンターで『バリ3共和国』のパフォーマンス。
朝村は巻き込まれた感じだが、他二人はノリノリで歌い踊る。

 
猫田 「なんか楽しそうじゃん、あきはばら」
伊槻 「楽しいんです」
小林 「行ったことないくせに」
伊槻 「ああ。でも、いつか行く。こんな狭い街じゃなくて、広い、自由なとこに行く。ここにはすごいアイドルグループもいるんだ、その名も」
小林 「(雑誌を取り上げて)じゃ、放課後取りに来てね」
伊槻 「あ、待て」
 
伊槻、小林を追いかけて退場。
照明の雰囲気が変わって、
 
猫田 「覚えてる? 朝村」
朝村 「……」
猫田 「ここ、あとちょっとでなくなっちゃうんだよ」
朝村 「何で知ってるの?」
猫田 「見てきたから」
 
電車の通過する音。
 

〇2095年


 
レオが駆け込んでくる。
反対側に小林。
 
レオ 「小林!」
小林 「呼び捨てやめなさい」
レオ 「ばあちゃんが」
小林 「(ハッとして)……取られたの、CD」
レオ 「? ……うん」
小林 「わかってないのに頷くのやめなさい」
レオ 「すんまそん!」
小林 「まずいことになったね……ばあちゃんが来たら、借りるね」
レオ 「……」
小林 「一緒に行こうか」
 
レオと小林、駆け出ていく。
 

〇2018年


 古田と天堂が現れる。
 
古田 「無理だよあたしゃ、ボックスステップもままならないんだよ!」
 
古田、ボックスステップを踏んで見せるが、もつれる。
そこに猫田と朝村が現れる。
 
古田 「頼むよ、救世主!」
朝村 「え?」
猫田 「大変ですね!」
朝村 「え?」
猫田 「今、アキバでね、オタクカルチャー排斥運動が起こってるの」
古田 「その通り。クールJAPANっつーんですか、オリンピックっつーんですか? この一大事に、今協力者を募集してるってわけだ」
天堂 「用も無きゃ、ネットも通ってないこんな村、来ませんよ」
朝村 「失礼な。Wi-Fiくらい飛んでます!」
古田 「日本っつーのは不思議な国で、たとえばギャンブルはダメって言いつつ、競馬、競輪、ボートレースがあるわけだ。とか、売春はダメなはずなのに……ね? 日本はこういう矛盾で成り立ってる。ごちゃごちゃだ。この辺をクリーンにする一環として秋葉原も狙われたってわけだ」
朝村 「いや、漫画もアニメもなんでもTPOをわきまえれば別に」
古田 「だが考える時間は無い!」
朝村 「えー」
猫村 「(朝村に)嘘だよ」
朝村 「え?」
猫村 「考える時間は山ほどあったはずなんだ」
天堂 「革命ですよ、反乱ですよ、うちら二人で革命デュアリズムですよ!」
古田 「よせやい、おこがましいぜ」
天堂 「ちなみに」
 
と、スクリーンに伊槻の写真。
 
天堂 「彼女は協力してくれるようですよ」
古田 「(朝村に)君、歌がうまいそうだね。抗議パレードで歌う一人になってくれないか? 伊槻さんと一緒に」
朝村 「何を歌うんですか?」
 
伊槻、現れて、
 
伊槻 「接吻!」
朝村 「あ?」
伊槻 「『接吻~らぶらぶ♡ちゅ~』だ!」
朝村 「(古田に)あんたらは?」
古田 「ボックスステップもままならないんだよ!(と踏んで見せるがもつれて転ぶ。そのまま)さあ、歌え!」
 
伊槻と朝村、言われるがまま『接吻~らぶらぶ♡ちゅ~』パフォーマンス。
古田と天堂はその応援。

 
猫田 「ま、結局パレードは中断させられて、抗議も失敗するんだけどね」
朝村 「え」
猫田 「(朝村だけに)黒幕は、そこの天堂さん」
朝村 「何で言っちゃうんだよ」
猫田 「時間無いもの。革命とか反乱とか言ってるけど、この人、内通者」
古田 「じゃ、諸々よろしくね。わーっはっはっは!」
 
古田、扇で花びらを舞わせながら出ていく。
片付ける天堂。
朝村、天堂と目が合う。気まずく会釈する朝村。
天堂が出ていく。
 
伊槻 「チャンスなんだよ。この村から出てくチャンスなんだよ」
朝村 「……」
猫田 「伊槻、気を付けて。あなたは今、運命を選ぼうとしている」
伊槻 「……?」
猫田 「この先に踏み込めば、後戻りできないよ」
 
伊槻、悲しそうな顔で出ていく。
 
猫田 「結局、朝村は断った」
朝村 「だって、わかんないもん色々……え、でもそしたら、どうなんの」
猫田 「なくなったよ、秋葉原」
 

〇2022年


 
突然、照明!
女の子たちが『Dear☆Stageへようこそ』のパフォーマンスをする。
その様子を見ている猫田と小林。遠くに朝村。

曲の途中に朝村がリモコンで一時停止する。
女の子たちのエリアの照明がブルーっぽくなりストップモーション。
 
朝村 「意味無いよ。そんなの見たって。もうなくなったんだから。全部無駄無駄」
 
朝村がもう一度リモコンを操作すると、女の子たちは出ていく。
 
猫田 「そうかな。……明日世界が終わりになろうとも、私はりんごの木を植える」
朝村 「ん?」
小林 「ルターだよ。歴史、習ったでしょ」
朝村 「あした地球がこなごなになっても?」
小林 「そんなこと言ってないけど」
猫田 「無駄かもしれないけど、覚えておくのは無駄じゃない。いつか復活したその時のためにね」
朝村 「あっそ」
猫田 「記憶が時間なんだよ。仮面ライダー電王、見てないの?」
朝村 「佐藤健の? 見てない」
 
朝村が出ていこうとするのを呼び止めて、
 
猫田 「いいの? 見ておかなくて」
朝村 「……」
猫田 「ここも分岐点だよ」
朝村 「なんでいちいち教えてくれんの?」
猫田 「君があんまりにもすっとぼけてるから」
朝村 「猫田がやんなよ」
猫田 「無理なんだよ」
朝村 「何で」
猫田 「本当に忘れちゃったの……?」
 
朝村、出ていく。
 
小林 「ひどいヤツ」
猫田 「ね(笑う)」
 

〇2095年


 
レオの声「小林!」
小林 「呼び捨てやめなさい」
 
前の場面で残っていた猫田、退場。
レオが出てきた方角から朝村が出てくる。朝村はしっかり『でんぱぁかしっくれこーど』を持っている。
 
小林 「昔から不用心ね、朝村」
朝村 「ごめん」
小林 「でも、ディスク、取り返したの?」
朝村 「いやこれは……消されたんだ、中身」
小林 「そう……でも、聞いて、逆転できる方法、知ってる人がいるの」
朝村 「え?」
 
古田が現れる。落ちぶれた格好。
 
朝村 「古田さん?」
古田 「わーっはっはっは! その通り!」
 
ポケットに手を突っ込んで花びらを舞わせようとするが、出てくるのはくしゃくしゃになったレシートとか、飴の包み紙とか。
気まずい間の後、
 
古田 「わーっはっはっは!(とポケットに戻す)」
小林 「この人はお使い。こっちよ!」
 
爺婆が現れる。
取り巻きの女の子たちが「おじいちゃんだいすき!」と叫ぶと『オーギュメンテッドおじいちゃん』が始まる。

パフォーマンスが終わると、女の子たちは爺婆からお給料の入った茶封筒を受け取り去っていく。
 
爺婆 「わしのことじゃ」
小林 「なんでも知ってるのよね」
爺婆 「おう。『ハンターハンター』の最終回も知っとるぞ」
朝村 「えええ!」
爺婆 「いい反応じゃな(茶封筒を手渡す)」
朝村 「汚いお金だ」
爺婆 「お年玉じゃ」
小林 「もらっときなさいよ」
朝村 「こんなことするなんて」
 
女の子たちが舞台袖で「おじいちゃんだいすき!」と叫び、『オーギュメンテッドおじいちゃん』のイントロが流れる。
 
朝村 「結構です!」
 
『オーギュメンテッドおじいちゃん』キャンセル。
 
爺婆 「一生後悔するぞ」
小林 「おじいちゃん」
爺婆 「よしきた任せろ」
小林 「まだ何も言ってませんよ」
爺婆 「そうだっけ? まあいいわ」
小林 「朝村。……朝村? どうしたの」
 
朝村、出ていく。
それを追う小林。
爺婆は退場。
舞台上に戻ってくる朝村と小林。
 
小林 「猫田が何のために未来を教えたと思ってんの」
朝村 「あのね。私もう厭なの。知らないし。荷が重すぎだし。このまま消えたい」
小林 「ダメだよ。猫田は何度も繰り返してんだよ、解放してあげないと」
朝村 「……全部無駄だよ。今どんなに頑張っても、無駄なんだよ。知らないし、失われた本当の秋葉原。取り返したいって気持ち、ねーし。つーか全部無駄。あってもなくてもおんなじ。私関係無いし」
小林 「感じワルっ……ま、気持ちはわかるけどね。でも、明日世界が終わるとしても、私はりんごの木を植えるって、言ってたでしょ」
朝村 「ルターが?」
小林 「猫田もだよ」
朝村 「……」
小林 「忘れないであげて」
 
小林、出ていく。
 

〇2022年


 
 
猫田 「時代がどんなに流れても、繰り返されても、すべての記録は残るの。それがこれ」
 
と、CDを取り出す。
『でんぱぁかしっくれこーど』だ。
 
猫田 「全部入ってるの。これ。売り物だけど、売られてる全部に全部の情報が入ってるの。今、回収作業が始まってる」
朝村 「どこで手に入れたんだよこれ」
猫田 「世界中に散らばってる。これをなくさないで。肌身離さず持ってて。これが無いと、たとえ秋葉原が取り返せても、元には戻らないから」
 
ドアを叩く音。
 
天堂 「ここにいるのはわかってるんですよ!」
猫田 「これ、持って逃げて」
朝村 「え、猫田は」
猫田 「これは変えられないの」
朝村 「え」
 
猫田、ドアの向こうに跳び出していく。
 
朝村 「あ?」
 
撃ち抜かれる猫田。
それを見てしまう朝村。
   
天堂 「君もか」
 
猫田、残っている力を振り絞りデバイスを操作する。
 
『あした地球がこなごなになっても』のパフォーマンスが始まる。
 https://open.spotify.com/track/2uFb5tGXFTxNj0G6TmDAXz?si=jaP_KQdbQhiHxEOkBR3F5Q&utm_source=copy-link

〇2095年


 
そのパフォーマンスを見ている朝村(2095年版)。
 
朝村 「あした地球がこなごなになっても……私はりんごの木を植える」
 
朝村、退場。
 
女の子たちが引き続いて、『我ら令和のかえるちゃん!』をパフォーマンスする。
それを聞いている伊槻。

 
天堂 「それも削除しなさい」
伊槻 「すみません……」
天堂 「退廃の香りがします」
伊槻 「はい……」
天堂 「なんでも、このCDには隠しデータがあるとか」
伊槻 「ええ……」
天堂 「それを我々は放置していたわけだ。これは危険な状況ですよ。わかりますね」
伊槻 「はい」
天堂 「そのカギを握るのはおそらく……猫田と一緒にいた彼女でしょうね」
 
伊槻達と入れ替わるように爺婆と朝村が現れる。
 
爺婆 「データが残ってても、それを使う人間がいなきゃ無いのと同じだ。わかるね?」
朝村 「はあ」
爺婆 「そこに人がいなくちゃ、街は空虚な箱だ。街は生き延びるために人を利用する。もともと秋葉原はその傾向が強かったが、人そのものが一掃されちゃあどうにもできない。でも、誰かが覚えていれば、猛烈な速度で復活できる。君はそのために必要なんだ」
朝村 「何で私なんでしょう。私、その、いわゆる良かったころのことまったく知らないんですけど」
爺婆 「いや、まあ……猫田に言わせれば人材不足だ」
朝村 「え」
爺婆 「猫田は、何度も世界を繰り返して頼れる人間に手あたり次第あたったんだ。でも、勝てなかった。だからもう、ダメもとで? オファーしたようなもんじゃろ」
朝村 「でも私、そんな、正当性っていうか、血統っていうか、そういうの的に無理があると思うんです」
爺婆 「正当性……そんな悠長なこと言ってはおれん」
朝村 「そうなんですね?」
爺婆 「猫田は君に託したんだ。語り継ぐ役目を。君の体に埋め込まれたストーンが」
朝村 「は?」
爺婆 「まあ、仮面ライダーブラックのキングストーンみたいな石がだね、君の体内に埋め込まれてるんだ」
朝村 「ちょっとわかんない、え?」
爺婆 「それがなければ『でんぱぁかしっくれこーど』の真の扉は開かれない。そして、そのデータをアキバで開かなければ、何周しようと世界は回復しないのだ」
朝村 「え? え、え? え?」
爺婆 「君が、秋葉原にあるCDプレーヤーで再生すれば、秋葉原という土地、そして世界中の施設に回収されたCDと共鳴し、何かこう……とんでもないことが起こるはずだ」
朝村 「急にざっくり」
爺婆 「質問のある方」
朝村 「はい!(挙手)はい! はい!」
爺婆 「元気があっていいなあ……年寄なのに」
朝村 「元気ですよ。医療の進歩のおかげです」
爺婆 「じゃあなぜ若返りは拒んだ?」
朝村 「……人は、歳を取る生き物ですから」
爺婆 「そんなの、いい加減壊れる常識じゃろうて」
朝村 「急におじいちゃん言葉に」
爺婆 「一つ、大切なことを教えてやろう。わし、ほんとは『ハンターハンター』の最終回、知らん」
朝村 「えええ!!」
爺婆 「全然想像つかんもん。面白い漫画じゃなあ……どうなるかわからん。何年連載しとるんじゃ? ……まあええわ。のお朝村。この待ってる間も楽しかろう?」
朝村 「は? まあ、はい」
爺婆 「そうじゃろう。なんだかんだ面白いんじゃよ。待つのは。この世に無駄は無い、というと、無駄なくすべて繋がると思い込むヤツが多いが、そりゃあ間違いじゃ。無駄は無駄じゃ。でも、無駄はそれ自体が楽しい。だから、繋がりはせんくても、無駄も案外悪くない」
朝村 「……それ、ついさっきまでの自分にだったら刺さってましたね」
爺婆 「ほう?」
朝村 「今の私は、素直に聞けます」
爺婆 「さ、よきところで」
 
と、爺婆『でんぱぁかしっくれこーど』を手渡す。
 
朝村 「わかりました」
 
そこに駆け込んでくる小林。
 
小林 「大変です!」
 
すぐに現れる天堂。
 
天堂 「(朝村を指して)そこの。隠しデータを削除するの、手伝ってもらうぞ」
朝村 「お前……」
小林 「朝村! 気持ちはわかるけど付き合ってる場合じゃない!」
 
にじり寄る天堂の前に立ちふさがる古田。
 
古田 「やあやあやあ! 久しぶりだな天堂!」
天堂 「古田さんですか……」
古田 「お前は先に行け!」
 
朝村、迷わず出ていく。
爺婆と小林も続く。
 
古田 「あいつら悩みもしなかった……わーっはっはっは! それでこそだ!」
天堂 「貴様!」
古田 「お前とはここで決着をつけてやる」
天堂 「結構です」
古田 「おい!」
天堂 「あのですねえ、長いんですよあなたの名乗り。テンポが悪い。脳に悪い」
古田 「見たことあんのか?」
天堂 「一度だけ」
古田 「アップデートされた名乗り、とくとご覧あれ!(照明が古田に集中する)」
天堂 「くそっ……照明効果が!」
古田 「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ! 我のこの手が炎のように燃え上がり、疾風怒濤の荒業で、天に唾する悪党どもに鉄槌下す革命児! あれは誰だ? ぁ誰だ? だ・れ・だあああ? それはこの俺、古田様だ! よおく覚えておきやがれ!」
 
照明が元通りになると、天堂は真剣なまなざしで見ていた。
 
天堂 「最悪だ……やっぱり嫌いです、あなたのことが」
古田 「正直でいい! 正直なところがいい!」
天堂 「そういうところも大嫌いだ!」
 
古田と天堂、同時に互いを殴る。
天堂が倒れる。
 
古田 「(先ほどとは打って変わって冷徹に)寝るな。見届けろ。お前がやったこと、それを誰がどうケリをつけるかを」
 
天堂を起こし、退場する二人。
 
天堂 「(去り際に)そういうところも嫌いだ」
 
駅。
電車が入ってくる音。
降りようとする伊槻。
脚が半分出かかった状態で、やってきた朝村とにらみ合う。
 
伊槻 「どうした?」
朝村 「最後に秋葉原を見たい」
伊槻 「……もう何も残ってないよ」
朝村 「……見たいんだ」
伊槻 「……乗れ」
 
電車が走り出す。
アキバっぽい恰好の人々が現れ、移動する二人を見つめる。
土地の記憶が二人を見送る。
電車の走行音の向こうから『くちづけキボンヌ』のイントロ。そしてパフォーマンス。

秋葉原に到着すると、伊槻と朝村二人きりになる。
 
朝村 「本当に何も無い……あ、AOKIだ」
伊槻 「あれはしぶといな……」
朝村 「あとは……(と日替わりで何か固有名詞を出しつつ、荒廃した秋葉原に思いを馳せる)」
 
間。
 
伊槻 「さて」
朝村 「ごめん。私、嘘ついた。最後なんかじゃない。私、思い出したの。役目を」
伊槻 「うん?」
朝村 「語り継ぐこと」
伊槻 「……それはつまり、データの消去に力を貸してくれないってこと?」
朝村 「うん。いろんな人が作った歴史をさ、無かったことにはできないよ」
伊槻 「じゃあ……わかってるね(とサーベルを取り出す)」
朝村 「(それを一本受け取って)私からストーンを取り出せばいい……って知ってた?」
伊槻 「ええ」
朝村 「じゃ、やろうか」
 
別空間に小林、爺婆、レオ。
 
爺婆 「勝ってもらわねば困るな」
小林 「負けたら、全部なくなるってことですか?」
爺婆 「勝てば全部取りもどせる」
 
レオ、まっすぐに遠くの方を見つめて『秋の葉の原っぱで』を歌い始める。
その奥で伊槻と朝村は夕日の中で決闘。

 
レオ 「知ってた。この曲」
爺婆 「英才教育じゃ」
小林 「たぶん、猫田の望んだ未来に進んだとしても、このバースはこのバースで残り続けるんでしょうけど」
爺婆 「なんとかしていけるじゃろう」
小林 「猫田のために頼む……朝村」
 
伊槻 「降参しろ、朝村!」
朝村 「断る!」
 
切り結ぶ二人。
 
伊槻 「……あの時、一緒に歌ってくれたら」
朝村 「でもパレードは結局中断させられたんでしょ」
伊槻 「そうだけど……そばにいてほしかった」
朝村 「……ごめん」
伊槻 「どんなに歴史が守られてもさ……朝村がいなかったら意味無いよ」
朝村 「別に私いなくても秋葉原は平和でしょ」
伊槻 「そりゃ、マクロな視点で見たらほとんどの人間はそういうもんかもしれないけど。でもさ、人間を生産性で判断する時代、とっくの昔に終わったでしょ」
朝村 「まあ……」
伊槻 「だったら……だったら、いつか一緒に」
 
と、言いかけて力尽きる。
 
朝村 「再生するよ。CD」
 
仰々しく運ばれてくるCDプレーヤー。
それに向かう朝村だが、うまく体が動かない。
猫田が現れ、肩を貸してやる。
 
猫田 「君の役割は、レオちゃんが引き継ぐよ」
朝村 「そう……」
猫田 「ゆっくりお休み」
朝村 「何で私だったの……?」
猫田 「本当はね……誰にでもできることなんだよ。真の扉は、望む者に開かれる。伊槻も、わかってたんじゃないかな」
朝村 「じゃあ、偶然?」
猫田 「運命って言い換えてもいいよ」
朝村 「なんだそりゃ」
 
 協力して移動し、プレーヤーにCDをセット、再生する。
それを見届けて、猫田は退場。
一曲目『でんぱぁかしっくれこーど』が流れる。
ほっとした瞬間、朝村もその場に崩れ落ちる。
流れる曲がフェードアウトすると、レオの『秋の葉の原っぱで』を歌う声が聞こえる。
安心したように目を閉じる朝村と一緒に、舞台の照明も暗くなる。
 

〇????


 
九人組のアイドルグループがいる。けれど、今は二人足りない。
そこに朝村が緊張した足取りで現れる。
 
一同 「ようこそ(など)」
朝村 「わっ、あっ、も、もしかして、その、私のこと、待っててくれたんですか?」
桃の人「え? まあ、そうですけど」
朝村 「私、まあ初めましてなんですが」
桃の人「ですよね」
朝村 「はい……」
卵の人「(フォローするように)でも、会えなくてもずっと応援してくれてたわけでしょ?」
朝村 「もちろんです」
桃の人「わ、それは嬉しい……」
朝村 「はい……」
青の人「(桃の人をフォローするように)ごめんなさいこの娘、なんか含み持たせちゃうの。なんか意味ありげな顔しちゃうの。(桃の人に)ごめんね、しよう。ね?」
桃の人「うん。ごめんね(と意味ありげな笑顔)」
青の人「意味ありげな感じがたまらないでしょう」
 
眼帯をした赤の人が現れる。
緊迫感。
 
朝村 「わ……ほんもの……初めまして」
赤の人「……(突然ラフに)うぃっす」
 
腰が低い。
朝村、伊槻に気づく。
 
朝村 「あの、あの娘も入れてもらっていいですか?」
濃紺の人「いやそれはシステム的に……」
白の人「え、いいじゃん」
濃紺の人「そうですか? ま、(名前の部分口パクで)さんが言うならいいでしょう」
白の人「いいよいいよ。だってこれってさ」
 
と、何か重要なことを言いそうなタイミングで空の人が割って入ってくる。
 
空の人「イェーイ! ○○さん(適当な実在する人物)からラスクの差し入れ、頂きました!」
一同 「(口々に感謝の言葉)!」
赤の人「ラスク~?(手に取り)アイドル殺しの危険な洋菓子め。口の中の水分を奪って満足なパフォーマンスをできなくする。そう言えば昨日も本番前にラスクを食べて、MC中噛んだヤツがいる(即座にランダムなメンバーに)お前か!」
空の人「そういう険悪な感じなら、ラスク全部頂いちゃいま~す!(突然ラスクを食べ)ん~! 口の中の水分持ってかれる~! 東京特許許可局。言えね~!(あるいは「でも言えた~!」)」
卵の人「じゃあ私も頂いちゃいま~す!(突然ラスクを食べ)バスガス爆発」
青の人「何の‘‘じゃあ‘‘なんだ……」
桃の人「(怯えて)論理が破綻してる……」
濃紺の人「治安……」
 
しれっと白の人と橙の人もラスクを食べているが、誰も気づかない。
みたいなやり取りの間に伊槻が朝村に手を引かれて合流する。
 
黄緑の人「あれがレンズ」
朝村 「はい」
黄緑の人「緊張してる? 無理にリラックスしなくてもいいよ。その緊張を写真に残すのだって悪くないよ。この緊張には戻れなくなるから」
朝村 「え?」
橙の人「また来てください、と。対象商品7000円以上買ってくださいと、そういってるんですよ」
黄緑の人「(優しく)そうは言ってない」
橙の人「えへへ……(朝村と伊槻を見て)お、準備よさげですね」
朝村 「はい。お願いします」
橙の人「準備が出来たら始めましょう! 早く始まれば、ゆっくり終わりますよ!」
白の人「(からかいとかでなく、真剣な疑問として)何を言ってるの?」
 
伊槻、控えめに朝村の手を握る。
握り返す朝村。
フラッシュ、そしてストップモーション。
白いスクリーンに写真がじわじわと浮かび上がって……
突然、これから訪れる未来への期待やらなんやらを込めた『でんぱっていこーぜ!!』のパフォーマンス。

一同、ハッと何かに気づいたような顔をして客席を見つめる。 
 

 (了)



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