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雨と桜

せっかくの春なのに雨が長く降っている。

最近ずっと家でゴロゴロしているよっちゃんは、今日も家にいる。
ペタッと床に座り窓から満開の桜を見ながら呑気そうにほうじ茶を啜っている。あと5分もしたらそのまま寝っ転がって昼寝でもしそうだなと思った。

「よっちゃん、ちょっと身体を動かした方がいいと思うよ。散歩にでも行ってきたら?」
腕組みしながらそう言った私を見上げると、よっちゃんはテヘッと何故か照れ笑いすると、すくっと立ち上がり、そのままほうじ茶を持って、ベランダへ逃げて行った。私のイライラを察したのだろう。
ベランダの鍵を閉めてやろうかと思ったけど、よっちゃん越しの風景が綺麗だったのでやめた。

うちのベランダからは見事な木々の茂っている公園が見える。桜の木も多くて、この季節は毎日家の中からお花見が出来るほどだった。ちょうど桜が満開で薄ピンクの塊がポコポコとよっちゃん越しに見える。
よっちゃんは薄いブルーのカットソーを着ている。雨雲の灰色と、よっちゃんの薄いブルーと、桜の薄ピンクが見事なバランスだった。

椅子に座ってしばらく眺めていると、よっちゃんはニコニコしながら戻って来て、そのままレインコートを羽織って出て行った。一体何処へ?と思ったけど、いつもの事で甘いものが食べたくなって買いに行ったのだろうと思った。

しばらくして、帰って来たよっちゃんの手には桜の花があった。
「お土産だよ。落ちてたやつだけど綺麗でしょ。」
そう言って、その小さな桜の花を私に差し出した。
雨の中お花見して来たの?と聞くと、雨に打たれ冷えて顔色が悪くなっているよっちゃんはこう言った。

「雨があまりにも長く降っているから、桜は縮こまっているのかなと思ったの。でも、近くに行って見たら、全然そんな事なくって、むしろ気持ち良さそうに雨に打たれて、俺、ちょっと感動しちゃったよ。」
よっちゃんの血の気の引いた手からもらった桜は確かに綺麗で、ここから見る薄ピンクよりも、もう少し濃いピンクだった。

「よっちゃん、ありがとう。嬉しいよ。」
そう言うと、よっちゃんはテヘッと照れ笑いをして、レインコートを脱いだ。
私もテヘッと照れ笑いをして、よっちゃんの為に熱いほうじ茶を淹れた。

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